第1話 「鬼と桃」
むかしむかしとある山奥に年老いた夫婦が住んでいました。
二人はこよなく自然を愛し、とても仲の良い夫婦でした。
ある日、おじいさんはふもとの町に山で採れた山菜を売りに行きました。
おばあさんは川へ洗濯をしに行きました。
おじいさんは町で山菜を売っていると、ある噂を耳にしました。
「なぁ、聞いたか。鬼が島に住む悪い鬼がこの町に近づいているらしいぞ。」
「本当か。」
「ああ、質屋の平吉が山の反対側で目撃したって、今日にも来るんじゃないのか。」
「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。」
おじいさんはおばあさんのことが気になり、いつもよりはやく帰ることにしました。
一方その頃おばあさんは・・・
几帳面なおばあさんは一枚一枚念入りに洗っていきます。
やがて全て洗いきったところで暫し休憩することにしました。
おばあさんがぼけーっとしていると
川上から大きな大きな桃がどんぶらこと流れてきたではありませんか。
大きさは2尺ほど。
おばあさんは大きな桃に驚きましたが、
二人は大の桃好きだったのでおばあさんは迷わず持ち帰ることにしました。
しかし、年老いたおばあさんいは洗濯物と桃を家まで持ち帰る力がありません。
おばあさんが途方に暮れているとやがておじいさんが帰ってきました。
「ばあさんや、鬼が・・・」
おじいさんが鬼のことを伝えようとすると突然目の前に大きな桃が現れた。
「ば、ばあさん・・・この桃は・・・」
「あらじいさん、川上から流れてきたのですよ。どうですお昼に食べるのは。」
「それはいい考えじゃ。早速持ち帰ろう。」
二人は家路を急いだ。
おじいさんの頭の中は桃でいっぱい。鬼のことなど忘れていました。