木枯らしの時
はじめに気がついたのは、巨大な空気嚢に軽い空気を詰め、高空を漂い生きる存在だった。
高山を駆け上る風が雪雲となり、みるみる大きさを増して巨大化していくのを、その敏感な触覚で感じ取ったのである。
風が吹く。冬が来る。
その風がやまぬうちに空気嚢をすぼませ、陸に降りて地に潜り、長い冬に備えねばならない。
だが、その前に。
空漂う存在は、吹き始めた突風に向け、大きくその口を開いた。
次に気づいたのは、大海原を悠然と回遊する存在だった。
氷雪を伴った猛烈な風が白壁のように迫り来るのを、その敏感な皮膚感覚で感じ取ったのである。
風が吹く。冬が来る。
その風がやまぬうちに深海へと向かい、わずかに氷結を逃れる海水に身を潜め、厳しい寒さに備えねばならない。
だが、その前に。
海に遊ぶ存在は、迫り来る風に向かい、大きく胸を膨らませた。
その次に気づいたのは、緑なす平原に根を張り、はるか 高みに手を伸ばす存在だった。
前触れとなる「空気の揺れ」が枝葉を細かく揺らすのを、幹に走る振動で感じ取ったのである。
風が吹く。冬が来る。
その風が止まぬうちに枝葉を落とし、樹脂で外皮を固め、凍てついた氷に備えねばならない。
だが、その前に。
大地に根を張る存在は風に向け、茂る枝葉を振り立てた。
最後に気づいたのは、この惑星に飛来して間もない、二本足で歩く存在だった。
その中の一人が、風が吹きつけ、吹き抜けていくのを船窓から見送り、思わず嘆息を漏らす。
すごい風だね。緑野があっという間に雪原だ。まさに木枯らしだよ。
うん、すごいね。長い寒冷期に入る、先触れってわけだ。記録できたかい?
ああ。でも変なんだ。風音の他に、明らかに生物由来の音が混じってる。
風音にかい?
うん。まるで、風を利用して互いに連絡でも取ってるみたいだ。
風の便りか。もし本当なら、そりゃすごい。人類始まって以来の知的生物とのコンタクトじゃないか。あははは……。
音速に近い速度の突風にのって、「生きるものの声」も惑星中を巡る。
同胞よ。同じ惑星に生きる同胞よ。この周期を生き抜いた、見たこともない同胞よ。さようなら。さようなら。次の春の再会を夢に見ながら、私は眠る。深く眠る。おやすみ。おやすみ……。




