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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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33/38

やってる事大体終盤



 城。


 そう言われてもユッカの脳内に浮かぶのはほとんどがゲームの中のものである。

 実際の城なんて行った事もないし、仮にテレビなどでお城の中を映し出されていてもじっくり見る機会はない。

 映画などで、お城が舞台……だとかであれば実際の城を使って撮影、なんて事もあるかもしれない。そうでなくとも、実際の城に近いセットを作るだとか。

 けれどもユッカはそういったお城が舞台になりそうな映画などはほとんど見た事がないので、やはりどうしたってゲームの中に出てきたお城の方が馴染みがあるのだ。


 ゲームの中のお城もそれなりにリアルに作られている物もあるけれど、あまりリアルに作りすぎても移動が面倒なだけでゲームプレイのストレスにしかならない。

 アクションゲームでお城の中を縦横無尽に駆け抜けろ! なんてやつだって、あまり細部にこだわりすぎるとやはりプレイの妨げになりかねない。

 そういった、現実と創作の差というものを考えて恐る恐る足を踏み入れた――のだが。


「いやまってよ予想を初っ端から裏切りすぎじゃん?」


 城の中に足を踏み入れた直後の第一声がコレである。


 ますお城に足を踏み入れた最初、想像したのは広いホールだ。玉座へ続く道、と言うべきか、まぁ大きな屋敷で例えるのなら玄関エントランスとかそう呼ばれるであろう場所。

 確かに広々としていた。

 だがそれは、広大な城、というよりは単なる伽藍洞である。


 つまりは、中にはほとんど何もない状態だったのだ。


 セットなら小道具も大道具もまだ何も置かれていないんだな、で納得できるがこちらとしてはいざ決戦! とばかりの気持ちで足を踏み入れたのだ。だというのに中身がすっからかんでは、来る場所もしかして間違えた……? となってしまうわけで。

 画面は開発中のものです、とかいう一文がどっかにないかと思わず見回してしまった。

 まぁあるわけがない。


「でも開発中って言われたら納得できる」

 うん、と頷いて自己完結する。

 開発中って何が……? と問いかけてきたアーロスの事は一先ず黙殺した。


「この城はまだ未完成、という事でしょうか?」


 ディオスがそんな風に言うが、ユッカは別にそのつもりで言ったわけではない。

 なので「いや別にそういう意味で言ったわけじゃない」とじゃあどういう意味だよと突っ込まれそうな事を言う。

 けれどもその突っ込みは誰の口からも出てこなかった。


「やって来たわね!」


 クークラの声が響き渡ったからだ。

 そうなればユッカの意味不明な呟きよりも、そちらに意識が向くのは当然の事。


「クークラ! どこだ! どこにいる!?」


 アーロスが負けじと声を張り上げる。

 だだっ広い空間に声が反響し、エコーがかかっているように聞こえた。


「いい加減に姿を見せろ!」


「そんなにアタシに会いたいの?」


 最早怒鳴っていると言ってもいいくらいな勢いのアーロスに対して、クークラの反応は落ち着いている。


「大人しく村と避難場所だけを往復し続けていれば良かったのに……ままごとみたいに」

「ふざけるな! 俺は! お前を……!?」


 不自然なくらい急にアーロスの言葉が止まる。

「何よ、止めにきたのでしょう? だったらここで決着をつければいい。アタシのところに来れるのならね!」

 あまりにも不自然なところで言葉が止まったにも関わらずクークラはそれを気にした様子もなかった。


(まって? もしかして、話の流れ誘導した……?)

 根拠と呼べるものはない。けれどもユッカはふとそう思ってしまった。


 クークラをこれ以上好きにさせてはいけない。それはユッカだってそう思っている。だからこそ、止めにきた。

 止める、というか、ロゼからすればここで倒すべき相手という認識なのかもしれない。

 だがアーロスは?

 彼はクークラと無関係というわけではないようだが、記憶が朧気になっている部分がある。


 本当に、止めるのが目的だったのだろうか……?


 アーロスの言葉が止まったのは、記憶があやふやな状態でも無意識下でそうではないと、ここでクークラと決着をつけて倒すべきではない、となっていたからなのではないのか?


 かといって、アーロスがクークラの味方かと言われるとそれも何か違う気がする。

 むしろ味方であるのなら、クークラはアーロスに対してこんな言い方をする必要はないように思えるからだ。


 何かが違うような気がしていながらも、けれどユッカは決定的な証拠というものを持ち合わせてはいない。全部想像。

 ユッカのそんな思い浮かんだだけの推測とも言えないような内容を、悠長に語る暇もなかった。


 クークラとアーロスの言い合いはポンポンと進み、アーロスが「首を洗って待っていろ!」なんて啖呵を切ったところで。


「ふふ、その威勢がどこまで続くのかしらね? 言っておくけどのんびりしている時間はないのよ?」


 既に勝利を得たとばかりに、勝ち誇った声がする。


「はっ、こんなただ広いだけで何もない場所だ。お前が隠れてたってすぐに見つけられるし、そっちこそいつまでも逃げ回れるとは思わない事だな!」

「逃げるつもりはないわ。アタシはこの城の最上階にいる。玉座で待っているわ。

 でも……」


 言葉を切ったが、その声はどこか楽しそうではあった。その時点でユッカからすると嫌な予感しかしない。

 そしてそんな嫌な予感が本当であると言わんばかりに、ヒュンと風を切る音が聞こえてきた。一つや二つどころではない。


 まるで何かの鳴き声のような勢いでヒュンヒュンと音がして、少し遅れて呻き声が響く。


 球体人形だった。ユッカとしてはそこまでお目にかかったわけではないが、アーロスとディオスにとってはすっかり見飽きたといってもいいくらいに何度も相対しているので、今更見間違う事もない。


 助けを求める者。

 苦痛に呻くだけの者。

 助けてくれないのなら、いっそお前もこちら側に引きずり降ろしてやると怨嗟の声を上げる者。


 様々な球体人形たちが集まって、あっという間にユッカたちを包囲する。


 そのまま数の暴力で襲ってくるかと思いきや、そうはならなかった。


 人形たちは一塊になって、そこから徐々に形を変えていく。

 溶け合って一つになったかと思えば、ぼこぼこと盛り上がり形状を変えて――


「わぁ、こんな心ときめかない合体もの初めて」


 ユッカの声はかすかに震えていた。

 そもそもの話、球体人形に顔はなかった。頭というパーツはあれど、そこに表情はなかったので声だけが聞こえるというなんともバグった感じであったものの、声さえスルーできてしまえばそれらはデッサンなどに使う事もあるような、シンプル極まりないものであった。初期アバターの初期にすらならない前の段階と言ってもいい。骨組み部分と言えばいいだろうか。


 そんな素の状態とも言える球体人形が集まり、融合した結果、とんでもなく巨大な姿となってしまったのだ。ちょっとした建物くらいの大きさになっていそうなくらい大きくて、見上げないと頭のある位置は視界にすら入らない。

「もしかしてここが広いだけで何にもないのってこうするつもりだったから……?」

 合体し巨大化した人形が動き回れるだけの広さと高さ。これで合体したのはいいものの、頭がつかえて……だとかで身動きがとれないとかだとこちらも楽だったかもしれない。


(ってか、合体したら顔ができたぞ。なんかに似てるなアレ……なんだっけ……なんかのゲームで見たような……)

「あっ」

「どうしたのユッカ」

「いやごめんなんでもない」

 何か見覚えがあるような気がするな、と思って合体人形の顔を見ていたら、脳内でずんちゃっちゃーずんちゃっちゃー♪ と曲が流れ始めて、そこでユッカは気付いたのだ。

(カル〇ブリーナに似てるんだ!)

 某ゲームのボスキャラである。

 それなりに昔のゲームでリメイクなどもしていて、でもユッカは祖父が所持していたソフトを借りてプレイしたのだが、幼い頃のユッカにはちょっとトラウマになりかけた存在である。


(え、石化とかしてこないよね……?)

 多分ないとは思うけれど。でも何故だかやけに似ているので、絶対無いとは断言できない。

 もし石化攻撃とか使われても回復ってできるの……? という疑問はあるし、それをロゼに今ここで確認するわけにもいかない。

 もし相手がその攻撃ができるけれど、だがしかしその発想はなかった状態であった場合そんな事を口に出した時点で「あ、使えるんだ」なんて事になったらピンチになるのはこちらなので。


 ここで行動不能に陥ったところで、助けに来てくれる美少女はいないのでもし見た目からして本当にユッカの知るボスキャラであるのなら、ものすごく注意をしなければならないわけだが――


(落ち着け。アレとは関係ない。クークラがそもそもの話知ってるネタなわけもないし)

 偶然の一致とかそんな奇跡は起こらない事を願うしかない。


「そいつを倒さないと、あんたたちの行きつく先って地上になるかもよ?」

 きゃははっ、と軽やかな笑い声と共に言われる。

「暴れまわってお城が壊れてしまったら、大変だものね?」

 それはクークラもそうなのではなかろうか、と思いはしたがクークラはそのつもりでやっているはずだ。であれば彼女だけは何らかの対策を練っていると思っていい。


 これで何も考えておらず、城が壊れてから慌てふためくようならユッカとしても全力で指さして笑うつもりではあるのだが。


「あぁそうそう。それから」

「まだなんかあんの!?」


「その人形の相手と、アタシのところに来てアタシをどうにかしようっていうのとで、別行動するっていう方法もありっちゃありだけど。

 でも、もう一つ。今このお城ではルボワール地区で集めた力を収束させてフラワリー地区へ狙いを定めているわ。それも、止めないと危ないかもね?」

「危なくしてる本人がなんか言ってらぁ……」


 危ないかもね? ではなく普通に危ない。何他人事みたいに言ってんだ。そんな風に突っ込みたいが、それどころではなくなってしまった。


「えっ、つまり今ここでこいつの相手と、そのフラワリー地区狙いの武器か兵器か知らんけどそれを止めるのと、あんたをぶっ飛ばすのとで三手に分かれないといけないって事じゃん!?

 ちょっぱやでこいつ倒すとか他のところも終わらせれば合流は可能かもしんないけど……えっ、時間ないやつ?」

「フラワリー地区はあと一時間しないうちに沈むわ」

「途端に難易度上げてきよる……!」


 お前の城に辿り着いてあとはお前をぶっ飛ばすだけだぞ! という感じだったはずなのに、気付けばこちらが制限時間ありきの攻略を求められている。

 だからやる事の大半がほぼ中盤から終盤にむけてのダンジョン仕様なのどうにかしろ。


「ふむ、ではここは僕がどうにかしておきましょう。アーロス、貴方はフラワリー地区を狙っているというやつを止めてきて下さい」

「俺!? い、いやでも」

「貴方がこれと戦っても勝ち目なんてないでしょう」

「それはそうなんだが!」


「ユッカさん、そういうわけなのでクークラに関しては任せます」

「あ、はい」


 誰がどう動くのが最適なのかを考える前に、しれっとディオスが指示を飛ばす。

「え、でも大丈夫なの?」

「まぁ、どうにかしますよ。倒せなくとも足止めは可能でしょう」

「そこは倒してしまっても構わんのだろうとか言ってほしかったなー……」


 足止めでも充分ではあるのだけれども。

 むしろここでディオスとロゼが協力して倒す、という方が早いのでは? と思ったけれど、しかし合体前の球体人形たちは倒しても倒しても何度だって蘇っていた。

 この巨大化した人形もそうであるのなら、戦力をここに固めるのは確かに問題がある。


「わかった。頑張って。

 ロゼ、行こう!」

 みゃう! とロゼから鳴き声が出る。


 巨大人形の足元をすり抜けるようにして駆け出した。

 クークラの正確な居場所はわからないが、とりあえず上を目指せばいいんだっけ……?

 そう思いながら。


 同じようにアーロスもまた駆け出していた。


「グッドラック! 生きて会おう!!」


 縁起でもねぇフラグ立てたかな……?

 なんて思ったけれど。

 でも、言わずにはいられなかった。

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