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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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ラスダンの出番にはまだ早い



「思った以上に殺風景」


 塔の頂上に辿り着いてユッカの第一声がこれであった。


 正直もう足がパンパンで一歩も歩きたくないなぁ、という気分で一杯なのだが、しかしここはまだ塔でありクークラの城ではない。

 まだ先があるのかよ……と昼食後の体育の授業以上にかったるい気持ちだったのだが、うんざりするのはそこまでだと信じていたのだ。これでも。


 どうにか頂上に辿り着いて、そこで球体人形たちと戦闘を繰り広げる――なんて事もなく。

 クークラの表情が浮かんでいた球体のようなものが煌々とした輝きを放っていて、これが解除キーとかそう言うアレかなぁ、と思ったからこそユッカは城を守っているであろうセキュリティシステムを解除するべくその球体に手を伸ばしたのだ。


 そして触れた途端、球体の輝きが消えた。


 それと同時に塔の中の照明もすべて消えて一面真っ暗闇になった事で思わず「うっそ!?」と叫んでしまったが、ロゼが即座に明かりの魔法を使った事で視界は確保できた。

 明るくなった途端敵に囲まれていました、なんて事もなく。


 輝きの消えた球体が、今度は小刻みに振動していた。ぶぶぶ……と虫の羽音みたいな音が低く小さく鳴っていて、これまさか破裂したりしないでしょうね……と気持ち距離を取ろうとした直後の事だ。


 塔が、揺れた。


 揺れはそこまで大きなものではなかったが、しかし塔の上だ。なんだか馬鹿みたいに大袈裟に揺れた気がして、ユッカは今度こそ「ひゃあ!?」と悲鳴を上げてしまっていた。

 耐震とかそこら辺どうなってるんだろう、なんて考える間もなかった。


 地上にほど近い場所ならそれほど揺れを感じなかったかもしれない。

 しかしマンションなどでも上の階になれば大して大きくない震度でも結構な揺れを感じるように、塔の頂上である。予想以上の揺れに感じて、ユッカはともあれ手を伸ばし、掴まれそうなところにしがみついた。

 もしかしたらクークラが妨害に来るかも、だとか、球体人形たちが待ち構えているに違いないだとか。

 そんな風に内心で警戒していたというのに、何もなかったのは、まさかこの仕掛け、塔が崩壊するとかじゃないだろうな!? なんて思ったのも嘘ではない。


「ロロロ、ロゼ、ロゼ、大丈夫? 最悪爪は立ててもいいからね!?」

「大丈夫だよ」


 地震大国とか言われてる国出身だけど、流石に耐震設計どうなってるかもわからない異世界の塔の頂上という時点でユッカは冷静さを欠いていた。それとは逆にロゼは落ち着き払っている。……逆では? 頭のどこか冷静な部分でユッカはそんな風に思っていたが、そんな思考は一瞬で消えた。


 揺れている時間はそう長くはなかったと思う。


 ただ、揺れがおさまろうという頃に、ガラガラという音が聞こえてきて、塔の外壁が落ちているのだと知る。


「爆発オチだなんてサイテー!」

「爆発はしてないよユッカ」

「先に言っておくに越したことはないと思って!」


 逃げようにもまだ揺れは完全に止まっていないし、下手に立ち上がって移動をしようとしたらうっかり足の置き場を間違えて転落、なんて事にもなりかねない。一番下まで真っ逆さま、という事にはならないとわかっていても、それでもそれなりの高さを落下するであろう事は確かで。

 いくら護りの魔法がかかっていると言われても、じゃあ大丈夫だねとはならなかった。


「あー、高所恐怖症になりそう」

 バンジージャンプをする機会はそもそもなかったが、この先それ以外の高所に行く機会があった時にぶり返しそうな気がしてきて、内心でおぼえてろクークラ、と罵る。


 そうこうしているうちに、塔の外壁の外側どころか内側までもが崩れてきて、壁がなくなったその先はどこまでも空が広がっていた。

「ひぇっ……見晴らしが良すぎる……ッ!」


 タワマン最上階なんて目じゃないぜ! 半ばヤケクソ気味にそう叫ぶ。

 そんな風にして恐怖を誤魔化さないとやってられなかったのだ。


 もしかしてこのままこっちも崩れて地上に真っ逆さま、なんて事になるんじゃなかろうな!? なんて思っていれば、一度は輝きを消したはずの球体が再び輝き始めた。

 そうしてその輝きは今度はユッカとロゼを包み込むように広がって、気付けば光の膜ができている。

「お、おぉ……!?」

 そのまま光の膜はふわりとユッカたちを床から引き離して浮かび上がった。


「あっ、これ途中でパチンと消えたらヤバイやつ」

「多分そんなヤワじゃないから大丈夫だと思うけどねぇ」


 ユッカには何がなんだかわからないが、ロゼがそう言うのなら魔法的な何かなのだろう。

 いざとなったらロゼがどうにかしてくれると信じて、ユッカは中で暴れる事もなくただ球体状に自分たちを包み込んでいる光に身を任せるしかなく。


 塔の中を漂うどころか崩れた壁があった場所から外へと出て、光はさらに上へとのぼっていく。


「あ」

 そうこうしているうちに、同じような状況のアーロスとディオスが視界に映った。

「おーい」

 声を上げて手を振ってみせれば、二人もこちらに気付いたようで「無事だったか」なんてアーロスが叫ぶ。

「そっちも元気そうでよかった」


 一応途中で姿を見かける事は何度かあったが、その後でどんな目に遭っているかなんて知りようもない。

 最後に塔同士をつなぐ通路で見た後で、もしかしたら……なんて最悪の想像をする機会は何度だってあった。

 一応途中の仕掛けが解除されて先へ進めるようになっていたから無事である、と思えていただけで。


 光はふわふわとお互いの姿を認識するように少しずつ近づいて、一定の距離を保っている。

 そうして互いの姿を認識したのか、そこからはぐんぐんと更に上昇し始めた。


「これ空気大丈夫なのかな」

 思わず呟く。

 既に下手な山よりも高い場所にいるのだ。空気が薄くなって気温だって下がっていても何もおかしくはない。

 けれども全くそんな感じがしないのは、もしかしてこの光の膜が原因なのかもしれない。

「そう簡単に壊れたりはしないと思うよ。まぁ壊そうと思えばできなくもないけど」

「それは望んでないです」

「壊したところで、って感じだからボクも壊すつもりはないよ」

 そう言われるとこの光がどこにユッカたちを連れていくのかはわからないが、ともあれ大人しくしておくしかないのだろう。


 そう言っている間にも光はどんどん上昇して――


「いやちょっと待ってよ」


 見えてきたそれに、ユッカは思わずぽかんと口を開いていた。


 城がある。

 空に。

 地上に影ができそうもないくらい遥か上。そこに城が浮かんでいるのだ。


「まさかクークラの言うお城って」

「十中八九アレだろうね」


 ロゼもユッカの言葉を肯定する。

「えぇえ? マァジでぇ!? あんなん完全にラスダンの姿じゃん!」

「らすだん?」

 意味が分からないとロゼが小首を傾げるも、上空に浮かんでいる城に興奮した様子のユッカはそれに気付かない。

「てっきり四つの塔の中心とかにありそうだとか思ってたのに。あ、いや、もしかして中心にあったのかもしんないけどさぁ……」


 でも。

 それにしたって!


「クークラ一人であんな城とか用意できそうな感じしないし、じゃああいつに手を貸してる彼女って何者なわけ!?」

「思ったよりも強力で厄介な相手かもしれない」


 なんだか勝手に盛り上がってるユッカについていけずに、冷静さを保ったままロゼもまた城を見た。

 それから、視界の隅の方で同じように城を見て驚いた様子のアーロスに視線を移動させて。


(いくら翼があってもあの高さじゃ辿り着けないよなぁ)


 なんて考える。


「てかさ、これもうクークラと決着つけない限り帰るに帰れないやつじゃん。

 てか、決着つけてもマトモに帰る道ありそうなやつ?」


「どうにかなると信じるしかないでしょうね」


 上昇し、いよいよ城に辿り着いたら光は消えてユッカたちは城の周囲にちょっとだけ存在している陸地部分に足をつける事となった。

 そこでようやく本当の意味でディオスたちと合流できた次第である。


 ゲームだったらワープポイントだの、空間転移魔法だとかで一度来た場所に行き気が可能だったりもするけれど。

 果たしてこの状況でそんな事ができるかを問うわけにもいかないし、一度ここから地上に戻るにしても、戻ってどうなるという話だ。


 ゲームならここで一度戻ってアイテム補充、なんて事も考えるけれど、ルボワール地区の住人たちは全て球体人形と化して町や村は機能してすらいないのだ。

 この状況で他の地区に行こうものなら、その隙にクークラが何をしでかすかもわかったものではない。


 なので軽率に戻るなんて言い出すわけにもいかない、とユッカだって流石に理解している。

 ただ、帰り道というか、帰る方法は欲しいわけで。


「ロゼ、なんとかなりそう?」

「するしかないんじゃない? ま、ここまで来たんだ。行くしかないだろ」

「それもそう」


 ここでぴぃぴぃ言っていたって仕方がない。

 そう腹をくくったユッカは、アーロスとディオスに「休憩は必要?」とだけ聞いた。


 どうにも疲労困憊の様子だったので。


 けれどもアーロスは首を横に振った。

「確かに疲れてはいるけどな。だがのんびりもしてらんないだろ。ここまで来た以上向こうだってこれ以上こっちに猶予は与えちゃくれねぇだろうし」

「確かに」


 アーロスの言い分も何となく理解できる。

 だからこそユッカは、軽く両の頬をパンと叩いて、

「じゃ、さっさと行って終わらせよう!」

 そう、力強く告げた。


 ただし内心では、

(まぁ私戦えないから足引っ張らないようにするしかないんだけど)

 力強さの欠片もなかった。

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