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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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初っ端迷宮入り



 ぱたり、という音が実際聞こえてきたわけではないが、しかしそんな音が聞こえてきてもおかしくないくらい唐突に球体人形が襲ってこなくなった。


 それが良い事なのか悪い事なのかはわからない。

 多少なりとも休憩できる余裕ができたのは良い事のようにも思えるし、嵐の前の静けさのような……この後もっと大変な事になってしまうかもしれない、と思えるような感じもあった。


 どう考えてもあの球体人形たちを酷使していたクークラが途中で可哀そうになってきたから、なんて理由で襲わせるのをやめたわけでもないだろうし、であればこの後で何か、もっととんでもない事を仕出かすようにしか思えなかったのだ。


 けれども、それでも散々戦いながら移動してきたのもあって、少しでも休めるというのは大きかった。

 最早足なんて引きずるように移動しているのだ、アーロスは。


 肉体的な疲労よりも、精神的な疲労の方が大きい事も否定はしない。


 静けさが訪れたとはいえ、それでも耳にこびりついてしまったかのように、村の人たちの叫びが残っている。

 目を閉じればもっと鮮烈に。頭の中で直接響いているかのように声が、悲鳴が、断末魔が。


 助けてくれという願い。

 球体人形を倒されて、その痛みに巻き込まれたであろう苦悶の声。

 何度も何度も倒されて、もう救ってはくれないのだという諦め。恨み。


 それらは確実にアーロスの精神を蝕んでいたし、倒すしかないとわかっていてもそれらの声がアーロスの動きを鈍らせる事も何度もあった。

 そのたびにアーロスの心は傷を負い、肉体も傷ついていく。


 幸いにして――と言っていいのかは謎だが――ディオスが治癒魔法を使えたからこそアーロスは血を流しっぱなしという事もなく、マトモに動く事はできているけれど。


 もしディオスがいなければ。もしくは治癒魔法が使えなければ、今頃アーロスは深手を負ってマトモに動く事もままならなかっただろう。その状態であれば球体人形たちが襲い掛かってきてもロクな抵抗もできないまま殺されていたかもしれない。


「前二つよりもここは長いな……」

「そうですか? 体感的にはあまり変わらないような気もしますけど」


「あぁ、もしかしたらずっと戦い続けてたせいでそう思ってるだけかもな」


 どっちが、とは言わなかった。

 戦いながらの移動であったため、アーロスからするとほとんど進んでいないようにしか思えなかったし、疲労度合からディオスはあまり変わらない、と判断したのだろう……とアーロスは考えていた。

 実際疲労困憊だったのは球体人形たちに重点的に狙われていたアーロスであって、ディオスはそこまで狙われていなかったので。


 だがもしディオスが言うように前二つの塔とそれほど変わらず、進み具合も大差ないというのであれば。


「だったら、そろそろてっぺんについてもおかしかないかぁ……」


 言いつつ上に視線を向けるが、よくわからなかった。

 吹き抜けのようになっていて上が見えるのであればまだしも、そうではなかったので。他の塔と違ってこちらはもう片方の塔との距離もそれなりに近いし、あちらの塔と連動するような仕掛けが多い。そういう部分で構造も前二つの塔とは異なっていても何もおかしくはなかった。


「もうちょっと休みたい気持ちもあるが……急ぐとしようぜ。油断したところでまた大量に襲い掛かってこられたら流石に俺の心もそろそろ折れそうだ」

「そうですね……ユッカさんたちがどうなっているかがわかりませんが……少なくともあちらは僕たちよりも余裕がありそうでした。合流できれば少しはこちらも楽ができるかもしれません」


 現状球体人形たちはほぼアーロスへ狙いを定めている。

 だからといってディオスが楽をしているか、というとそうではない。

 アーロスが死なないように援護に回る必要があるし、そういう意味では狙われてないだけでとても忙しいのだ。

 だがここにユッカたちが加わればディオス一人でアーロスの援護に回っていたものが分担できる。


 そんな風に言ったところで、果たして本当に合流できるのか、という疑問は残るが。

 途中、塔を繋ぐ通路でお互いに相手の姿を見る事はあってもそれだけだ。

 頂上についても合流できない可能性は充分にある。


 だからまぁ、そんな願望でしかない言葉は気分を紛らわせるだけの軽口でしかなかった。



 ――ディオスとアーロスが移動ペースを少し落としながらも先へ進んでいる間、ユッカたちはと言えばその場に立ち止まったままだった。


 クークラが消えてしばし経過している。

 もしかしたらひょっこり戻ってくるんじゃないかなぁ、なんて思っていたがその気配はない。

 戻ってこないと思ったあたりでタイミングを見て……なんて考えたけれど、そういう感じでもなさそうだった。


 一体何しに出てきたんだっけ……?


 ユッカとしてはそう思うしかない。

 アーロスとかディオスはさておきユッカとロゼがここにいる理由がわからないから聞きに来ただけ、だとすれば相手からすればさぞ苛立つ状況だろう。

 ほぼ無関係――だと思っている――相手に手を貸してくれた恩人であろう相手との仲に亀裂を入れられてるも同然なのだから。


 その相手と連絡が取れる状況にあるのなら確認もできるかもしれない。

 けれど、一度浮かんだ疑惑というものは簡単に消えるはずもない。

 相手の返答次第では、勝手に裏を読んだり勘繰ったりして余計疑いが強まる事になるかもしれないのだ。


 相手が嘘を吐くのがとんでもなく苦手で実はクークラを利用するためだった、なんて判明すればその場でクークラと彼女とやらの争いに発展するかもしれない。

 勝手に共倒れするような事になればユッカたちとしてもこれ以上の手間が省けたと思うわけだが、場合によっては共闘してこちらにやって来る場合がある。

 その時は黒幕だと思っていた彼女との戦いも追加されるので大変な目に遭うのは確実だが――


 ここで一度でスパッと面倒事を断ち切る事ができると考えれば……まぁ、大変なのはロゼなんだけども……と考えた時点で。


「ところでロゼ」

「なぁに?」

「本当にクークラの事心当たりないの?」

「うーん、それが無いんだよねぇ……」


 一方的にクークラがローザローゼシカとマギサリュクレイアの事を知っていて、そこに自分がいたと思い込んでる頭おかしいタイプである可能性も無きにしも非ず……なんてちらっとよぎりつつも、それでもあそこまで言い切ったって事は本当の事の可能性もあるわけだし……と、言葉に出したらとても煮え切らないであろう事を考えつつ、ユッカは念のためロゼに確認してみた。


 クークラの言い分は本人の妄想の域に留まっている。

 もうちょっと、詳細な、ローザと一緒にいたという頃の思い出みたいなのが聞ければ妄想の可能性も少しは薄まったのだが、いかんせんそういった話は聞けなかったので。


「実の姉妹ではないんだよね」

「それは勿論。お母様の子はたった一人だけだとも」

「家にいないお母さんが他所で作って産んだとかは?」

「まさか! もしそんな事があったとしても、だとしたら魔女たちの噂でボクの耳に入ったっておかしくない」

「それもそうか……」


 地区が物理的に離れているとはいえ、互いの行き来ができないわけではない。

 魔女同士、魔法を使っての連絡だとかもできるのなら、噂なんてあっという間に広まるはずだ。


「じゃあ、姉妹同然に育ったとかは? 近所の幼馴染とか」

「いないよ。ボクはずっと一人で……あれ?」

「ロゼ?」

「あ、いや、なんでもない。何か引っかかった気がしたけど、でも幼馴染じゃない」

「じゃあ一時的に引っ越してきてお友達になった、とか?」

「だとしたらおかしいじゃないか。クークラの話と合わない」

「それは確かに……」


 思いつくままに言ってみたけれど正解らしきものに辿り着いた気はしない。


 ありそうな可能性を口に出してみたけれど、流石に最後の友人に関しては矛盾が生じまくるのでないなとユッカも即座にその考えは捨て去った。


 友達であるのなら、そう言うはずだ。けれどクークラの言い分では彼女もまたマギサリュクレイアの娘であるというのだから、友人とすると明らかにおかしくなってしまう。


「こうなったら直接本人にもうちょっと深く突っ込んでみるしかないのかも」

「そうだねぇ……」


 ロゼの言葉にユッカとしてはそう言うしかない。


(クークラの精神がちょっとアレで、単純にそう思い込んでる可能性もあるから実はロゼのお母さんと一切無関係の可能性もあるんだよなぁ……)


 虚言癖だとか妄想癖だとか。

 そういうものであるかもしれない。

 けれどもそこまで可能性を広げてしまうとややこしくなるし、思考にノイズが走りまくる事になってしまうので。


 下手に水を差すような事は言わないでおこう……とユッカもそこは言葉に出さないのであった。


「とりあえず、ここで考えてもわからないって事がわかったし先に進もっか」

「それもそうだね。こっちが進まない事でディオスたちの方仕掛けが解除されてなくて困ってるかも」


 クークラの――本体ではないが――登場によってついうっかり足を止めてしまっていたが、今こうしている間にも向こうでは球体人形との戦いを繰り広げていて足止めを食らっている、なんて事になっていたのなら。

 流石に戦犯が過ぎるとユッカは慌てて移動を開始したのである。

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