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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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何の種かはさておいて



 復讐。


 その言葉の意味を理解していないわけじゃない。

 けれども、なんて言うべきか……クークラからその言葉が出たところで、なんだか実感がわかなかったのだ。

 相手がローザであるというからだろうか、と思ったが、ユッカはひとまずロゼを見た。

 復讐される心当たりはあるか? と言うように。


「うぅん……復讐相手がローザローゼシカだっていうのなら、もう終わってるんじゃないの?

 だって崩落させて崩壊したんでしょ?」

「それだけじゃ飽き足らないわ! あいつの代わりにアタシがお母様の後を継ぐの! そうして立派な大魔女として世界に君臨して、そこでアタシの復讐は終わるのよ!

 あいつがなれなかった大魔女にアタシがなって、そこで初めて完遂するの!」


 ユッカにはいまいちクークラの言い分が理解できない。

 復讐したい、という気持ちが理解できないわけではない。

 けれども、だとするのなら、ローザ相手の復讐であるのならローザが死んだ――と思っている――時点で復讐は終わったわけだし、クークラの目指す終着点はローザが生きていてこそな気がするのだ。


 ローザが落ちぶれても生きていたと仮定して、その上で、本来ならローザがなっていたかもしれない大魔女という存在にクークラがなる、というのならまだ理解はできる。

 見下すという意味で。


 家周辺まるごと崩落しすっかり崩壊してしまったローザには、墓もないのだ。

 そもそも生きているという前提を無視しているわけなのだが。


 クークラが幸せな人生を送って、その上でとっくに死んだローザの墓の前で勝ち誇るだとか、そういうのであればユッカもわからないでもない。

 けれども、墓だって無い以上どこで勝ち誇るつもりなのか。

 空を見上げてそこにローザの面影でも脳内で投影するのだろうか?

 アニメだと割とありがちな表現方法ではあるけれども……なんて思いながらも、ユッカは本気で首を傾げていた。


「悪名高いとか言ってたような気がするけど、言うほど悪名高い魔女だったかな、ローザは」

「当然だわ! あいつはね、アタシを捨てたの! その上でのうのうと過ごしていたのよ!!」


 そう叫ばれても、ロゼはよくわかっていないようだった。

 ユッカと同じように首を傾げている。


「うーん、ちょっと事情がよくわからないんだけど……」

「これでもローザローゼシカとはそれなりに長い付き合いだけど、お前の事は知らないよ」


 ユッカがよくわからんからちょっと詳しく話してみてくれない? と言う前にロゼが告げる。

 長い付き合いも本人なのだからまぁそりゃ生まれた時から今に至るまでの付き合いではあるけれど、それでもロゼの中でクークラという存在は記憶に残っていないらしい。


「じゃあ貴方が知り合う以前の話よ」

「そんなはずは……」


 ロゼこそがローザローゼシカ本人なのだからロゼの言い分に間違いはないけれど、それをクークラに言うわけにもいかない。クークラがローザローゼシカの味方になり得そうな立場であるならいざ知らず、最初から敵対しているも同然なのだ。


 そんな状況だというのにロゼがローザだ、なんて言えばどうなるか。

 本来の姿ですらない猫の姿のロゼを相手に、恨みはらさでおくべきか、なんて攻撃を仕掛けてくるのが目に見えすぎているではないか。


「実際一緒にいたのはもう随分と昔の話よ。そうでなくてもあいつにとってアタシの存在は取るに足らないものだった。記憶に残ってなくたっておかしくないわよ。

 あいつにとってアタシの存在なんてその程度。

 だからこそ許せない」


「お前とローザローゼシカとの間に何があったっていうのさ」


 当事者でもあるロゼには思い当たる節がまったくないようで、その声にはかすかな苛立ちが含まれていた。

 あえてロゼが知らない振りをしている、というわけでもなさそうだな。ユッカはそんな風に思って視線を球体へと向ける。

 そこに浮かんでいるクークラの表情は、確かな憎しみに満ちていた。


「あいつとアタシは立場こそ違えどお母様の娘だったわ」

「そんなはず」

「ロゼ、まずは話を聞こう」


 反射的に食ってかかりかけたロゼをそっと制して、ユッカが話の先を促す。


「最初の頃はね、一緒だった。いつだってどこだって。

 でもあいつはある日、アタシの事を無造作に捨てたのよ。そうして遠いところに追いやった!

 裏切りよ! これは明らかな裏切りだわ!!

 そうしてあいつはアタシの事なんて早々に忘れてのうのうと過ごしていたの! 許せる!? 許せないわ!

 追いやられた先でアタシはいつか戻る事を誓ったの。ずっとずっと長い間それだけを決めて――


 彼女が手を貸してくれたから、アタシはこうして舞い戻ってきたのよ」


「彼女?」


「えぇ、アタシに力を貸してくれた恩人。彼女の助けがなければ行動に移るまでにはもっと長い時間がかかっていたに違いないわ。だからね、アタシ彼女には感謝してるの」


「その彼女っていうのは?」


「やだ、簡単に教えるわけないじゃない。彼女も下手に名前を売るような事はしたくないみたいだったもの。

 アタシは力を貸してもらった。であれば彼女に対して不義理はできないわ」


 きゃらきゃらと笑うクークラではあったけれど、しかしその笑い声は決して楽しいから笑っているようには聞こえなかった。


「あいつを倒して、アタシはこの先もっと名を広めていずれお母様の元へ帰るの。

 あいつはもういないから、あとはお母様を探すだけ」


「マギサリュクレイア……だったっけ。会ってどうするの?」


「決まってるわ! アタシこそが唯一の娘となってお母様の後を継ぐのよ!」


「ふざ」

「多分無理じゃあないかなぁ」


 ロゼが我慢ならぬと叫びかけたのを、言葉をかぶせる形でユッカは妨害した。

 うっかり怒りのままに自分がローザローゼシカであるなんて暴露しそうな勢いがあったからだ。


「どこが無理なのよ」


 待ち受けている未来を愉しむようにくふくふと笑っていたクークラが、そんなユッカの言葉を聞いて表情を消した。


「聞いた話で申し訳ないけどマギサリュクレイアは魔女たちの間でも大魔女として知られてる。そんな偉大なる魔女が、たかが娘だからって後継者に据えるかなぁ? 仮にそうだとしても、自称でしかないあんたが本当に認めてもらえるのかね?」


 ロゼの言葉を真とするならクークラはマギサリュクレイアの娘などではない。クークラ本人がそうだと言っていても、血の繋がりは疑わしい。


(なんか引っ掛かるんだよね、立場は違えどって言い方が。

 姉と妹とか、そういう感じでもなさそうだし。もし姉妹だとしても、だとしたらロゼが憶えてないのはおかしすぎるし)


 それ以前に姉妹であったとしてもローザとクークラは見た目は全く似ていない。

 父親似、母親似の差だと言われてしまえばわからないが、しかしユッカの目から見ても血縁関係を感じさせないのだ。


「血が繋がってるだけで後継者になれるなら、大魔女なんて称号はただの飾りでしかないと思うんだけどね?」


 血が繋がっていない場合であれば実力とかそういうものが重視されているのだろうな、とは思う。

 思うけれど……


「もし血が繋がってないとして、でも貴方別にマギサリュクレイア本人から後継者にするなんて言われたわけじゃないんでしょ?

 だとして、その状態でさぁ、仮にローザローゼシカを倒しました貴方の後継者には自分こそが相応しいです、なんて言ったところで。

 実の娘を殺した相手なんて血の繋がりもないなら逆に敵に回ってもおかしくないと思うけど」


 マギサリュクレイアの事をユッカは知らない。

 だが、ロゼとクークラは今目の前にいるから全く知らないわけではない。


「それこそマギサリュクレイアがその程度で死ぬような娘は必要ない、なんて冷酷無慈悲に言える相手じゃなければあんたが後継者にはなれないし、仮になれたとしてもあんた以上の実力者にあんたが負けた時点でその資格は消失する」


 そうだなぁ、とユッカはのんびりと言葉を繋げる。


「たとえばさ、ほら、あんたに力を貸してくれた彼女? 彼女の本当の目的はなんだろう?」

「な……」

「彼女に感謝してるなら、恩を返そうって気持ちはあるんだよね? じゃあさ、その恩返しに、貴方の立場を奪うような事になったら? 貴方は素直にそれを差し出すのかな? かな?」


 一度目の「かな?」で首を右に傾げて、二度目の「かな?」で左に傾げる。


「そ、そんなはずがあるわけが」

「まー私も彼女の事なんて知らないけど? でも、私より知ってる貴方が即答で否定できない時点でさぁ? 可能性ってゼロじゃあないよねぇ?」


 そう言うとクークラは数秒黙り込んでから、堰を切ったように叫ぶ。


「う、うぅ、うるさいうるさいうるさーい! そんなはずあるわけないじゃない! あの人はアタシの力になりたいって、そう言ってくれたんだから! だからそんな事があるわけが」

「一からやるより人の手柄奪った方が手っ取り早いもんねぇ?」

「う、うぅぅうう……」


 ユッカの知らない『彼女』がこの場にいない以上、クークラが真相を即座に確認などできるはずもなく。

 クークラはそんな可能性をちらっとでも考えてしまったのだろう。

 否定できる要素がみつからないまま言葉に詰まり……


「あ、消えた」


 球体からクークラの顔が消えて、まるで力を失ったかのようにコン、と小さな音をたてて球体は落下した。


「ね、ねぇ、今の話」

「ん? ホントかどうかは知らないよ。だってわかんないもん」


 おずおずと問いかけようとしたロゼに、ユッカはあっけらかーんと軽やかに答えた。


 事実無根。根拠なんて何もない。ただの想像。捏造。

 ユッカの言葉はそういったものでしかない。


 クークラに力を貸したという相手の思惑なんて知りようがないのだから。

 本当にクークラを上手い事利用してやろうと思ってあえて力を貸したのかもしれないし、純粋に手助けをしてあげようという気持ちで手を差し伸べたのかもしれない。

 けれどもそんなものはユッカにはわからないのだ。


 無責任な発言。

 言ってしまえばこれはそういうものだった。


「まぁでも、分かった事はあるよ。クークラに力を貸した『彼女』とやらの存在と、彼女とクークラは別にそこまで親しいわけじゃない、ってのがね」


 クークラが単独なのか仲間がいるのか。それがわかっただけでも今後の警戒度合い的にも重要な情報を得られたとユッカは思っている。

 クークラが単独でこんな事をしていた、と思い込んだ挙句、いつかどこかの地区でクークラの仲間だった相手に突然襲われるかもしれない可能性が浮かんできたのだ。

 そういう存在がいる、と頭の隅っこに有るのと無いのとではいざそういう場面に出くわした時の初動も異なってくる。


 わけがわからず襲撃されて戸惑うか、驚きつつも来たか……! と即座に受け入れられるかの差は生死を分けるレベルで大きいものだ。


「き、きみさぁ、咄嗟によくあんな……あんな事言えたねぇ!?」

「無から有を生み出すのって本当は難しいんだけど、悪意だけは簡単に作れるんだよね。困った事に」

 物事には大抵何らかの理由がくっついて回るものだが、好悪に関しては「なんとなく」という明確な理由がなくても存在するものなので。


 ロゼ側にいるユッカからすれば、クークラの存在は放置しちゃおけねぇと思える相手だし、であれば好意よりは敵意に偏ったって何もおかしくはない。

 そんなクークラに精神的な揺さぶりをかけられそうだから、とりあえず適当言ってみた。ただそれだけである。


 ちなみにこれはとてもどうでもいい情報ではあるが。


 ユッカは人狼ゲームで狂人プレイが息をするように自然にできるタイプだった。

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人狼ゲームで狂人プレイを、自然に出来るって、強い。
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