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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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部外者と言えばそれまでのことで



 人の気配がしない、と言ってももしかしたら誰かが隠れている可能性もある。

 そう思って念のため集落の中を確認してみたが、やはり誰の姿もなかった。


 いや、まぁ、確認している途中からそんな気はしていたのだ。

 確かに人が暮らしていた痕跡はある。

 だが、それはつい今しがた、というよりは少し前まではいたんだろうな、と思えるもので。


 どこぞの船のような、直前まで確かに人がいたであろう状態などではなかったのだ。

 たとえばカップ。ユッカの世界で今でも謎に満ちた某船の件ではスープも湯気が漂っていた、なんて言われていたがこちらのカップは確かに飲み物が入っていたようだが、しかし随分と放置されていたようで湯気どころか乾燥して底に液体があった、という跡があるだけの状態だ。染みのようになっているので、洗うとしても普通に洗ったくらいじゃ取れそうにない。


 一度漂白剤使わないとかな……なんて思いながらも、ユッカは他の場所へ目を向ける。


 食べ物もあったようだが、干乾びていたり腐っていたり。カビが生えているものもあった。

 虫がわいているのもあったので、ユッカはそちらからは速やかに距離をとっている。

 そういった完全に食べたら駄目な食料に関しては、そう多いものではなかったので遠ざかるだけで済んでいる。大量にあったなら、そもそも近づく以前に悪臭とかで気付いたはずだ。


 近づきさえしなければ、そこまでの悪臭もしないのでうっかり近づいてしまった時には思わず顔をしかめてしまったけれど。


 一通り見て回って、誰一人としていない、という結論に至る。隠れているかも……なんて思ったが、しかし意外と隠れられそうな場所がなかった。

 むしろここから人がいなくなってから、それなりに日数が経過しているであろう事は確かなようなので、誰かがいたとして、そして隠れていたとしたのなら。

 そういった痕跡があって然るべきだった。

 うっすらと積もった埃の上には誰かが通ったような跡もなかったし、仮に隠れてここでひっそりと生活していたとしても、絶対に通るだろう場所にも足跡一つ残されてはいなかった。


 足跡がない、というだけで誰もいないというのは早計かなとまで思っていたのに。

 アーロスのように羽があって飛べる種族なら足跡なんてつけなかったとしてもおかしくはない。

 ……なんて考えていたというのに、結局その予想も外れてしまった。


「一応全部見て回ったと思うんだけど、誰もいなかったよ。

 ……アーロス? ちょっと!?」


 ここに辿りついた直後にアーロスは膝をついて呆然と目の前の光景を眺めているだけだった。

 いるはずの人が誰もいない、という事実に理解が追い付いていなかったのだと思ったからこそユッカは一先ず時間を置いて、少ししてから声をかけようと思っていた。だから先に中の様子を見てきたわけなのだが……


 ぐるっと一周する形で移動して、そうして戻ってきてみればアーロスは頭を抱えた状態のまま倒れていたのだ。

 時折苦しそうな呻き声がしているので生きてはいるが、こういう状況でどういう行動に出るのが正解なのかがわからないユッカは、当たり前のようにロゼに視線を向けていた。


「あ、え……?」

 ロゼもすぐには反応できなかった。

 何故なら――


「しっかりしてください」


 パァン!

「いだっ!?」


 アーロスの隣で跪いたディオスが、容赦なく頭に一撃を叩き込んだので。


 そしてアーロスはというと……


「お、俺は……一体……!?」


「なんだその、俺は正気に戻ったみたいな反応」

 お前この後裏切ったりしねぇだろうな。

 そんな意を込めて呟いてしまったが……まぁ当然ながらそんなユッカの意について気付ける者はこの場にいなかったのである。


「なんとなくおかしいな、と思っておりましたが。

 魔力汚染されてましたね」


「魔力汚染?」


 なにそれ、という気持ちで一杯だったのだが流石にそこまで疑問をぶつける事はできなかった。


「確かになんか違和感はあった気がするけど、まさか本当に?」


 なんてさも知ってるように――実際知っているのだろう――ロゼが言ったからだ。


「ユッカ、ほら前に教えてもらっただろう。他者の魔力が多く注がれる事で不調をきたす場合があるって。勿論魔法で怪我を治すとか、そういった程度なら問題はないけど不必要なまでに魔力だけを注げば場合によっては意識の混濁が起きたりするって」

「あー……そういえば、そうだったねぇ……」


 白々しいかな、と思いながらもひとまずは頷く。

 前も何も今教わったが、知らないままだと展開についていけないのでロゼのその言葉は助かるものだった。


 他の創作とかでたまに見かけた魔力酔いとかそういうやつかな……と雑に納得する。


「あぁ、そうだ。俺は恐らく随分前にあいつにやられた」


「えっと……何をどこまで憶えてる感じ?」

「我らの事はおぼえているだろうか?」


「それは、一応。だが所々朧気な部分はある」


 戸惑ったようにこたえるアーロスは、ディオスが叩くまであまり意識がハッキリしていなかったのだと言う。

 出会った当初はそんな風には見えなかったが、あの塔でアーロス以外の村の人たちの事を聞かされて、そこで以前にも同じようなやりとりをしたのだ、と思い出したのだとも。


「以前にも同じ事があった。俺はあいつを追って、村の人たちの仇を討とうとして……けれどあいつに直前で高濃度の魔力をぶつけられて、意識を保てなくなった。結果としてその時の記憶が飛んで、俺は村から避難した直後の頃の行動をなぞっていたようではあった」

「あれ、でもとっくに村の人たちがやられて、滅んだっていうのなら。

 あの村を今になって吹っ飛ばす必要ってあったのかな?」


 正直ユッカたちがここ、ルボワール地区に来る以前に消滅していたって何もおかしくはないのでは。

 その疑問が浮かぶのも当然だった。


「それは……あいつの考えを全部わかっているわけじゃないから何とも言えないが、恐らくはいつ壊しても構わないと思っていたから、じゃないか?」

「それって壊してもいいし、壊さなくてもよかった、って事?」

「恐らくは。あの爆発は多分、誰かが……この場合は俺か。俺があの村のどこかを通ったか、近づいたかした時点で発動するようになっていた。そんな気がする」


「あの場所にクークラ本人はいなかったから、罠を仕掛けてあった、って事でいいのかな?」

「あいつは罠のつもりもなかったとは思うがな。あいつにとって俺はいつどこで死んでも困るものじゃなかった。そうなんだろう」


 死んでいてもいなくても構わない。

 そういう存在だったとして、だったらクークラは何故彼だけをそうしたのか。

 そんな疑問がユッカの脳裏に浮かんだ。


「村の人はみんないなくなったって言ってたよね。じゃ、なんで同じような目に遭ってないの?」


 一人だけ残すくらいなら、纏めて仕留めた方が手っ取り早い。

 物騒な考えだが、ユッカとしてはそう思うわけで。


 滅ぼされた村。共に過ごしていた人が今はもう……

 そんな中、たった一人生き残った男は何故自分だけが生きているのかと葛藤しながらも復讐のために歩み始める……とかなんとか、そんな復讐ものの話が始まりそうな状況ではないだろうか。

 たった一人。たかが、と言い切ってしまえばそれまでだが、しかしお話の中ではそのたった一人が生き残ってしまった事で復讐劇が始まり、たった一人を残してしまった事で復讐対象者は破滅する事になるのだ。


 もしクークラが自らの立場が絶対的なまでに安全である、と確信してアーロスを残していたのだとしても。

 ユッカ――というかロゼ――のような相手が彼に手を貸すような事になったのであれば。

 クークラの優位性は絶対とは言えなくなるかもしれないわけで。


 最初から最後まで復讐者がたった一人だけ、というのならまだしも、途中で誰かが手を貸すかもしれないとなれば。その相手がもし自分が太刀打ちできないくらいの相手だったなら、勝ち目なんて一瞬で消えるかもしれないのだ。

 であれば、余裕をかまして一人だけ残しておくなんて事はせず、邪魔な相手は最初の時点で根こそぎ消した方が後々の事を考えれば安泰なわけで。


(なんか理由があるのかもしれないけど、でも私が見たクークラはそういう感じじゃなさそうなんだよなぁ。なんていうか、ただ自分がそういう目に遭う、ってところまでは考えが至ってないみたいな……?)


 クークラがいるであろう城には、セキュリティが施されていて、そこに行くためには四つの塔で解除しなければならない。圧倒的な強者ムーブをするのであれば、そもそもそんな面倒なセキュリティ解除方法を置くのもな、と思うし、であれば何らかの危険を察知はしていたのではないかと思う。


(なんだろうな……なんかちぐはぐっていうか……例えるならなんだろ……ダイエットしなきゃヤバイ! って言ってるくせにそう言ってる時点でポテチ大袋とコーラをがぶ飲みしてるみたいな……説得力が欠けてる感じっていうのかな。そんな近しさを感じる……)


 こっちの世界にポテチとコーラがあるかはわからないのできっとこの例えを口に出したところで伝わらないかもしれない。

 だからこそユッカは心の内で呟くだけに留める。


 強者故の余裕から、ガバかましてる、という可能性も勿論ある。

 あるけれど……正直な話、ユッカはクークラが絶対的な強者とは、どうしても見えなかったのだ。

 いや、魔法が使えるっていう点で凄いとは思っているのだけれど。

 もしロゼの護りの魔法がなければきっとユッカだってクークラの魔法で一撃で殺されるとも思っているのだけれども。


 正直恐ろしさが感じられない。


 ぶっちゃけると友人が怒った時の方がよっぽど恐ろしい。

 普段にこにこと微笑みを絶やさないタイプの友人が冷静に怒りを溜めている時の事を思い出すと、夏でも寒さに震えるくらいには恐ろしいのだ。

 それと比べるとクークラはなんて言うか……ちょっと強い力を持っているだけの、その力を見せびらかそうとしているような、お子様めいた感じがあった。


(余裕かましてアーロスを放置しているのか、それとも他の理由があるのかはわかんないけど……)


「忘れていた事さえ忘れていた俺が言うのもなんだが……憶えている範囲で話してもいいか……?」


 困ったような顔をしてアーロスが言う。


「ま、こっちも何にもわかんないままだからね。情報はあって困るものじゃないから聞かせて?」


 同じようにユッカもまた、困ったような顔をしてそう返した。

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