自称城 他称塔
城、とクークラは言っていたが、実際のところは塔のようなものらしい。
アーロスは一度クークラを止めようとしてそこに足を運んだことがあるようで、場所を知っていた。
「塔か……普通に考えると最上階にいるって感じかな?」
「まぁ、だろうな」
ユッカの脳内で、敵を倒しアイテムを拾いひたすら最上階を目指すゲームが浮かんだが、流石にあんな理不尽難易度でないと信じたい。
魔法を使えば飛んで一気に最上階に行けたりするんじゃないのか、だとか、アーロスのように羽があるならやっぱり上から行けるんじゃないか、なんて思えばクークラが最上階にいる可能性は低いような気もするけれど、意表をついて一階にいるとかもないだろう。
アーロス以外の村の住人がどういう人たちであるのかをユッカは知らないので何とも言えないが、アーロスみたいに皆羽があるかもわからないのだ。
もし皆羽があって飛べるというのなら、一階にいる可能性は上がるかな、とは思うけれど。
上に行くと見せかけて実は地下にいくとかそういうやつじゃなかろうな……なんて考えるも、どのみち直接見てもいないうちから色々考えても仕方がない。
「じゃ、早速行く?」
ユッカがロゼに聞けば、ロゼは躊躇う事なく頷いた。
ディオスも既に依頼は取り下げられたとはいえ、それでも他の地区でも迷惑を振りまくかもしれない相手だ。
放ってはおけないと考えたのだろう。
「そうですね、こういう事は早めに片付けておくに限ると思いますよ」
「そうか……じゃ、案内するぜ、ついてきな」
思っていたよりも乗り気な面々である事にアーロスは少しばかり引いた様子ではあった。
声が若干引きつっている。
けれどもある程度の方角を示すだけで後は勝手に行け、というでもなく案内までしてくれるというあたり、思っているよりも引いていないのかもしれない。
(内訳的に、他からやってきた第三者も同然な他人が自分たちの村をボロボロにした相手を倒しに行く、っていう行動原理がわからなくて引いてる感じなのかな?
まぁ普通に考えてそれはそうか。私だってゲームの主人公としてなら何もおかしく思わないけど、NPC目線で見たらなんでそこまでしてくれるの? ってなりそうだし)
実際ゲームのNPCは主人公が事件を解決してくれるとなった時点で、どうしてそこまで? なんて聞いてくる事はないが。むしろ助けが来たとばかりに喜んで頼るのが大半だ。
ともあれ、どのみちこの村にいても何か進展があるわけでもない。
城――というか塔がどのあたりにあるのかもわからないが、立ち止まるよりは先に進む方が建設的である事だけは確かだった。
――何が一体どうなっているのだろう?
ロゼの頭の中でそんな疑問がぐるぐると巡る。
大魔女。
アーロスがそう言った時、別に大魔女という存在を知らなかったとかではない。
ロゼの母でもあるマギサリュクレイアは他の地区でも名をはせる大魔女だ。
ロゼ自身もマギサリュクレイアの事を大魔女と称する事に何の抵抗もない。
けれども魔女でもない普通の存在からすれば、確かに大魔女、と言われてもピンとこないのもわかるので、アーロスが大魔女という存在を疑っているのも理解はできた。
大魔女なんて言葉が普通に通用するのは同じ魔女たちくらいなものだ。
他の地区にもいるであろう魔女たちにとってもロゼの母親は常識レベルで知られる存在で、ロゼが生まれる以前に行われたとされている偉業もあって大魔女、とマギサリュクレイアを示すのは別におかしな話ではない。
母が成した数々の事は、地区によっては伝承じみていて本当の事かもわからない、と疑われたりもしている。奇跡みたいな事を何度も起こしたのだから、それも仕方のない事だとロゼは思っている。
けれどそれでも一つだけ言える事がある。
マギサリュクレイアの後継者というのなら、それは紛れもなく娘である自分の事だ。
母が弟子をとった、という話は聞いていない。
ロゼに言っていないだけかもしれないが、それでもいたらそれとなく噂で知るだろうなとロゼは思うわけで。
だって。
母は魔女たちにとっての有名人だ。
であるのなら、魔女経由でそういった情報が流れてくるはずなのである。
けれどクークラなんて魔女がいたとは記憶にない。
そんな相手が母の後継者を勝手に名乗っているのだ。ロゼからすればふざけるなという話だ。
それに。
ロゼはクークラの事を知らなかったがクークラはどうやらロゼの事を――ローザローゼシカの事を知っていた。そして邪魔だと判断した上で、家とその周辺の土地を崩落させてロゼを亡き者にしようとしたのだ。
地区を全部まるごと崩落させたわけじゃないあたり、手加減したのかそれが限界だったのかはわからないが、それでもそんな方法を用いようとした、という部分だけを見ると相当とんでもない相手だ。
そもそもの話、崩落なんて簡単にできるわけじゃない。
確かにこの世界の地区はどこもかしこも不安定な面を持っている。
枝からいつ風に巻き上げられて飛んでいくかわからない葉のように、崩落という形で世界から消滅する地区だって確かにある。
だが不安定であるからといって、脆いわけではないのだ。
言うなれば地区と呼んでいるが、それは一つの小さな世界と言ってもいい。
小さな世界の集まりを纏めてロウェルフィセールという世界と称しているに過ぎない。
ロゼはクークラを知らないがクークラはロゼを知っている。
一体彼女はどこでロゼの事を知ったのだろう?
直接母から聞いた、とは思えなかった。
もし他の誰かもこの件に関わっているのなら。
(クークラをどうにかしたところで、他に同じような事を仕掛けてくる相手がいるかもしれない……)
もしそうなら、これから先もあまり油断はできないなと考えて。
ロゼは前を行くアーロスの後姿をぼんやりと眺めるのであった。
杉に似ている……とユッカが思っていた木々が立ち並んでいたところから、徐々に他の木が見えるようになり。
あまり人も立ち入らないような道らしい道もなくなった頃、少し先の方に何かの建造物が見えた気がした。
「あれがアイツの言う城だ」
「塔じゃん」
アーロスの言葉に秒でユッカは返していた。
城、と言われてまずユッカが思い浮かべたのは、西洋風のやつだ。流石にこのあたりに日本の城みたいなのがあるとは思っていなかったので。
脳内で浮かべたのはノイヴァンシュタイン城である。実際行った事はないけれど、友達の家に飾られていたジグソーパズルで見た事があるので、何となく脳内に浮かべやすかったのもある。
他にはベルサイユ宮殿あたりだろうか。ユッカはあまり現実のお城には詳しくなかった。
ベルサイユ宮殿を城と言っていいかは微妙なところである。
ユッカの脳内でお城、と言われてすぐに思い浮かぶのは、自分が遊んだことのあるゲームに出てくるお城だ。
だが、そういった脳内のお城と比べてどう見てもそれは塔だった。
お城にも塔があるところはあるにはあったと思うけれど、ちらっと見える部分からするとそれともまた違うようにしか見えなかった。
それでも近づくにつれて、やっぱりお城だった、なんて事になるかもしれない。
そう思いながらも足を進めていって――
「やっぱ塔じゃん」
ユッカたちの目の前に現れたそれを見て、やっぱりユッカの感想は変わらなかった。




