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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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17/21

クークラ



 てっきり死屍累々の光景が広がっているに違いない……! と内心で恐れ慄いていたユッカではあるけれど。

 いざ村に辿り着いてみれば、死体の山ができあがっていたりは――しなかった。


 ただひたすらに建物が壊れてはいるけれど、人の姿はどこにも見えない。


「えー……何これどういう事?」


 既に住人たちが避難したというのならそれはそれでいいけれど、果たして本当にそうだろうか? という疑念がユッカの中で浮かび上がる。

 なんていうか、確かに今しがた爆発がしていくつかの建物が壊れましたよ感はあるのだが、それ以外の場所の壊れ具合がなんというか……少し古く感じたのだ。


 少し前にも同じように壊れたみたいな。


「魔力の痕跡から使用者は一人」

「そのようです」


 ロゼの言葉に当然のように頷くディアス。


 そんな事までわかるんです……? と声に出さずに驚くユッカ。


 この場においてユッカは完全に状況を把握できていない。置いてけぼりである。


 いや、確かに異世界系作品だとか、バトル系少年漫画とかでは相手の気配とか魔力とか氣とか霊圧とかを感じ取っては何か察するみたいなのがあるから、ロゼやディオスの発言はそこまでおかしくないのかもしれないけれども。

 だがしかしユッカは凡人である。そんな気配やら魔力痕やらを感じ取って当然のように状況を察する能力は備わっていないのだ。


 けれどもそれを口にすると、ディオスに「ソルシエルロスでしたよね?」とか言われてしまうかもしれない。

 自分の出自に関してはまぁ誤魔化せるかもしれないが、ではソルシエルロスではないのなら何故そのような事を? と問われるとそれはそれで後が厄介。


 だからユッカはわかんねぇよ! と言いたい気持ちをそっと胸の奥にしまい込みつつ、自分も一応わかっていますよと言わんばかりの表情で黙って考え込むようにした。

 この先もこういう風に嘘を嘘で固めていく事になるのだろうな、と思いつつ。

 それから少しして、ゆっくりと口を開く。


「つまりその一人がこの村をこんな風に? でも時間差で壊したみたいなところあるよね?

 何度かに分けて壊した? それとも、壊した部分の時間を魔法で進めた? いや、それはなんていうか無駄な労力すぎるから、それなら何度かに分けて時間をかけて壊した方かな……?

 でも、わざわざ?」


「そこなんだよね。壊すなら一度で済ませればいい話だし、それができない実力であったとしてもわざわざ何度も壊しにかかる必要性を感じられない」

「うーん、じゃあ、一度目の破壊で立ち向かったか逃げ出したかしたこの村の人たちが狙いかな?

 立ち向かったならその時点で倒したのかもしれないし、残った人の心を折る目的もあるかも?

 逃げ出したなら、何度かに分けて壊したのは……戻ってこれないように?

 形が残っているのならほとぼりが冷めた頃に戻ってきて……って事もありえたわけでしょ?」


「でもそうしたら、村人が目的、ってわけじゃないんじゃない?

 逃げて、戻ってこれないようにって破壊するところまではわかるけど、でもその場合逃げた村人を探し出すわけでしょ?」

「みつからないからむしゃくしゃしてやったとか?」

「まさか。いくらなんでもそんな子供じみた真似――」


「誰がこどもよッ!?」


 ユッカの疑問にロゼもまた同調するように考えを巡らせ、それにまたユッカが返す。

 そんなやりとりをしていただけだったが、甲高い声がそれらの会話を遮った。


 ユッカの声でもロゼの声でもない。

 勿論ディオスの声などでもない。


 てっきりこの場に三人しかいないと思っていたが、それ以外の声。


 反射的に声がした方を探すように視線を移動させると、宙に一人の少女が浮いていた。

 腰に手を当て仁王立ちのような状態でこちらを見下ろしている。


 外見だけなら別におかしな感じはしない。

 金色の髪を左右で結び――いわゆるツインテールだ――他所行きみたいな服装をしている。

 目の色も青で、異世界配色というわけでもなく一応ユッカ的にもまぁ馴染みがないわけでもないが――ただただ空中に浮いているという点で違和感しかない。


「えぇと……誰?」

「誰、じゃないわよ。アタシの事を知らないって事はこの辺の人じゃないわね。

 ……もしかしてッ! フラワリー地区から追ってきたのかしら!?」

「え? 確かにフラワリー地区から来たけど」


 話が見えない。

 見えないからこそユッカは不用意にそう答えてしまった。


「そう、それじゃあアナタたちはあの魔女の仲間かしら? それともあの町の奴らにアタシの事を捕まえろとでも言われた?」

「捕まえるように、とは頼まれていましたが」

「やっぱりッ! そうなのね!」


 けれどその依頼は取り消されました、とディオスが続けるのを遮るように少女が喚く。叫ぶというよりはまさしく喚くというのがぴったりだった。


「ふ、ふん、でもそう簡単に捕まったりはしないわ。なんたってアタシはフラワリー地区を根城にしていたあの悪名高き魔女、ローザローゼシカを倒したのよ! 恐れ慄きなさい!」

「悪名高き……?」


 高いの? と思わずロゼに聞けばロゼは「悪名かどうかは知らないけど」と困惑したように言う。

 ユッカとしてもローザが悪名高き魔女と言われたところでピンとこない。仮に悪名高い魔女であるとしても、そんな相手がうっかり間違えてユッカを召喚したとしてこんな手厚く色々としてくれるだろうか、となるので。


 ユッカ的に悪名高い魔女であるのならそもそもユッカを元の世界に戻そうとする事などしないような気がするし、悪名どころかマジ悪党ならなんか異世界から都合よく扱えそうな生きた道具が来た、くらいに思われそうだし、そうでなくとも帰すって言っておきながらサクッと処分してしまう可能性も想像できてしまった。


 まぁ、帰った事にして始末、というのは他にユッカの存在を把握している他者がいる場合であるとは思うけれど。


 ユッカが人間である、と知られている以上、本当にローザローゼシカという魔女が悪名高い存在であるのなら、今頃ユッカは魔法の素材として扱われていてもおかしくはないくらいなわけで。

 けれどもそういう事はない。であれば、その悪名高い、というのはどうにも当てはまらない気がした。

 何故って悪名が轟くのはつまりそういう行いをやらかしたからであって。そうじゃない場合悪名ではなく単に評判がいいとかそういう方面で名が知られるという事に他ならない。


 そんな風に思っていたのはたった数秒程度ではあったけれど、少女はその数秒で行動に移っていた。


「ローザローゼシカにかわってこのアタシ、クークラ様こそがこの近隣に名を轟かせるのよ! これからはね!!」


 言うなり何らかの魔法が発動したらしく、眩い光がユッカの視界いっぱいに広がった。

 咄嗟に目を閉じたユッカは、次に一体どんな衝撃がやってくるかと身体を強張らせていたが、しかし別に何の衝撃も痛みもやってはこなかった。

 光がおさまったあたりでそっと目を開く。



「突然危ないですね」

「はぁ!?」


 恐らくは、何らかの攻撃魔法を放ちはしたのだろう。

 けれどもユッカが目を閉じているその間に、どうやらディオスが何らかの対処をしたようでクークラと名乗った少女は驚きのあまり口を大きく開けていた。


「ローザローゼシカを倒した、っていうのは嘘だろう? 倒したも何も君の姿なんてあの時あの魔女の家の近くにいたけれど、一切見かけてすらいないぞ!」

 自分がそのローザローゼシカだとは言えないが、ともあれロゼはそう叫んでいた。

 実際近くにいた。とても近くに。観客であるならば特等席と言ってもいい位置に、確かにロゼもユッカも存在していたのだ。嘘ではない。


「嘘じゃないわよ。あの魔女の家周辺諸共崩落させてやったんだから、今頃はきっと崩壊に巻き込まれて消滅してるわ!」

「ふぅん? アレはきみの仕業か……」


 ロゼの声に冷ややかなものが混じる。けれどもユッカとしてはそれに怯えるような事はなかった。

 むしろ当然の流れだと思っている。


(実際ロゼの家は崩落して崩壊した。崩落する予兆があったならまだしも、そうじゃなかった。しかも今の発言から、あの崩壊はこの子が招いたと思って間違いじゃない。

 子供の悪戯で家を失った、なんて状況なわけでしょ? ブチ切れてもおかしくないよね。むしろキレない奴いる?)


 フラワリー地区にいた時も少しばかりロゼは気にしていたようだけど、ユッカを帰すのを優先してくれていた。

 けれども、今目の前にその相手がいる。

 であれば、むしろこれは今、片付けるべき案件ではなかろうか。ここで逃げる方がどうかしている。


「わけのわからない事に巻き込まれたこっちはいい迷惑だよ!」

 ロゼの叫びは紛う事なく本心だろう。


 あれがなければユッカは今頃元の世界に帰っていただろうし、ロゼだってあの時猫の姿にならなかったかもしれない。相手の見た目が子供だからとて、容赦する必要はなさそうだ。何故って彼女の態度は反省も後悔もしていなさそうなので。


 だから。

 ロゼが何らかの魔法を遠慮も何もなくぶっ放したのを、ユッカとしては「おわー、すごいなー」という気持ちで見ているだけだった。


「きゃあ!?」


 そしてクークラはというと、そんなロゼの魔法を防ぎきれなかったようで、簡単に吹っ飛ぶ。元々空中に浮いていたのもあって余計にぽーんと空高く舞い上がり、そのままひるひると落下――する直前でギリギリ浮いて地面への直撃は避けたけれど。


「や、やってくれたわね!? 許さないんだから!

 でも今日はここまでにしておいてあげる! 決着をつけたければ、アタシのお城へいらっしゃい!」

「逃げるの?」

「アタシは忙しいの! 他にやる事あるからこれ以上アンタたちに関わってらんないだけですー!」


 べー、だ。

 と舌を出してどう聞いても負け惜しみというか捨て台詞のようなものにしか聞こえない事を言って、クークラはばびゅんと空高く飛んでいってしまった。


「行くの?」

「行くよ」


 ユッカが聞けばロゼは即答した。


「ふむ、既に依頼は取り下げられておりますが、それでは僕も共に参りましょう」

「あ、うん」


 なんかディオスはついてくるんだろうな、と思っていたのでそう言われても特に驚かなかった。


「でも、お城? あるのそんなの?」

「さて、以前にはなかった、と記憶しておりますが」


「そんな事よりも、出てきたらどうかなぁ?」


 ユッカがディオスに聞くが、ディオスもクークラが言うお城とやらの場所はわからないらしい。

 じゃあこの先地道に探す事になるのか……なんて思う間もなく、ロゼがいかにも不機嫌そうな声を出していた。


「やれやれ……落ち着いてくれ、敵じゃない」


 そして直後にそんな声がして。


 クークラとのやり取りを隠れて見ていたであろう人物が、両手を肩のあたりまで上げて降参のポーズをした状態で出てきたのである。

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