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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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16/22

ルボワール地区



 神殿から転移した先はてっきりルボワール地区にあるどこかの町の、それこそフラワリー地区のような神殿だとばかり思っていたがユッカのそんな予想は簡単に裏切られた。

 休憩所とはまた違う小屋くらいの規模の建物。部屋を出ればすぐに外。しかも周囲は木々が乱立している。


「ここが、ルボワール地区……?」


 ワープなんてSFか異世界じゃなきゃなさそうな展開であるとはいえ、ドッキリの可能性も否定できないぞ……? なんてユッカは思っていた。

 なんていうか、想像していたのと違った、としか言いようがないのだが、まさかこんな人の気配も何もないようなところに来るとは思っていなかったのだ。


 例えるのなら、大型施設の正面玄関と裏口くらいの差がある。

 正面玄関は人通りの多い道に面しているからこそ常に賑わっているが、しかし裏口がある場所は路地裏側であまり通行人もいない――それくらいの差がユッカの中でどうしたって存在した。


 町の中だと思いきや何せ外。近くに誰かが住んでいるような様子もない。


 杉の木に似た高く伸びた木が周囲に存在しているだけの、森というより山の中にいるような感覚。


「転移装置はあくまでも地区間の近い場所にしか繋がってないからね」

 ロゼがそう言うものの、ユッカはそうなんだ……としか返しようがない。

 フラワリー地区のあの転移装置とやらとルボワール地区の転移装置では、ここが一番近かった……という事なのだろう。

 もしここに装置がなければ、次に近い場所に転移したのかもしれない。


「転移装置がここにしかない、ってわけじゃないんだよね?」

 小声でロゼに聞けば、ロゼもまた「地区にいくつか点在はしてるよ」と答えてくれた。


「でもなんの拍子で地区が移動するかはわからないからね。転送先は固定されたりしないんだ」

「こっちで自由に選べればいいのに」

「まぁそうだろうね。でも、自由に選んだ結果その先が崩落していけないという可能性もあるよ」

「あぁ、それもそっか……」


 言われてから遅れて気付く。

 そうだ、この世界地続きとかではないんだった。

 世界の中心と思しき方向へ目を向ける。ずいぶん遠くの方にうっすらと光の柱が見えてるな……くらいにしか見えないので、ここは中心から随分遠いところに位置しているのだ、とはわかる。


 あれを幹として、地区は大樹の葉のようなもの、とロゼは言っていた。風にそよいでいつ葉が落ちるかはわからないのと同じように、この地区もいつ崩落してもおかしくはない、と考えられる。

 風で揺らぐ葉のようにこの地区が揺れている、といった感じはしない。それでもいつ中心との繋がりが途切れて糸が切れた風船みたいに放り出されるか……


(想像するとこの世界何気に危険なのでは……?)

 地球という世界に住んでいるユッカからすると、相当不安定な気しかしない。いいの? 大丈夫? そんな風に言いたい。

 ロゼに言えばきっとユッカの世界の方こそがロゼにとってはおかしく映るのかもしれないな、なんて考えて。


 転移装置はどうやらお近くの地区へ転送させるついでに、そこが安全な――崩落していないという意味で――ところに繋げてくれている、というのは今の会話でなんとなく把握できた。


 つまりここはそう簡単に崩落はしない、とみていいのだろう。


 この転移装置とやらについてもいつどこで誰が置いたのかが気になるところだが、もしかしてこれもこの世界では常識の一つであるのなら、ディオスがいるこの場でその疑問を口にしない方がいいだろうとユッカはともあれ、平静を装ったままぐるりと周囲を見回した。


「どっちに行けばいいんだろ?」

「ルボワール地区は初めてですか?」

「そうだね。今までいたのが限られたところだから、どこもかしこも初めてと言えばそう」


 ディオスに聞かれ、ユッカは無難に答える。

 今までずっと故郷にいて外に出たのはほぼ初めてですよ、という旅人初心者のような返答をすれば、ディオスも「そうでしたか」とあっさり頷く。

 ユッカはソルシエルロスについても詳しく知らないので、あまり深く突っ込まれると困るけれどとりあえず旅に出る種族である、とは把握できている。

 今の今まで故郷にいて、最近ようやく他の地区へ出る事が許されたばかりだ、と思われたのであれば大丈夫だろう。……故郷について聞かれない限りは。


 そんな風に思いながら、ディオスはこの地区について詳しい? と問えば。


「そうですね、人並み程度には」


 なんとも当たり障りのない答えが返ってきた。


「じゃあ、この近くの町とかどっち行けばいいかわかる?」

「それくらいならお安い御用です。ついてきて下さい。案内しましょう」


 そう言われて、ディオスの後ろをついていく。

 姿は見えないが鳥の鳴き声がそこかしこから聞こえてくるので、崩落したあの場所とは違うのだ、と少しばかりの安心を覚える。

「そういえばこの辺ってなんか危険な動物とか魔物とか出たりする?」

 安心したのも束の間、そういえば……とフラワリー地区へ戻るまでの間に遭遇した魔物の事を思い出したので、ユッカは思わずそう問いかけていた。


「どうでしょうねぇ……スヴェトゥリイも状況次第では危険な相手ですし。ただルボワール地区の魔物に関してはそこまで脅威ではなかったかと」

「そっか」

 ロゼも別段念を押すようにこちらに注意を促すような事を言ってこないので、実際ディオスの言う事は間違いではないのだろう。


「もう少し行けば確か小さな村が」


 どぉん!


 まるで示し合わせたみたいなタイミングで、ディオスの言葉を遮るように爆発音がこだまする。


「え……?」


 ユッカは思わずぽかんとした顔で爆発音が聞こえた方向を見る。

 遠くの方で黒々とした煙が上がっているのが見えた。


「えっ!?」


 何どういう事!? とばかりにユッカは視線をディオスと煙が上がっている方向とを馬鹿みたいに高速移動させるが、それで状況が理解できたかと言われれば当然の事ながら理解できるはずもなく。


「え、どうしよう。行く? 様子見に」


 何があったのか気にならないと言えば嘘だ。

 野次馬したい気持ちがないか、と言われればある。

 けれども同時に危険な場所には近寄らない、という幼い頃からの教育によって率先して駆け出すような事もできなかった。


 爆発がした、という事からユッカが真っ先に考えたのはテロとかガス爆発だ。

 爆弾を持ったテロリストが暴れまわる図が浮かぶも、だがしかしここは異世界。そんなテロリストよりも異世界作品にありがちなならず者の方がしっくりくる。だがしかしその手のならず者だと爆弾よりも刃物を持ってるイメージが強すぎて、爆弾を持っている、というのがどうにも思い浮かばなかった。


 そうでなくともロゼのように魔法が使える者がいるのなら、爆弾でなくとも魔法でドカンとやらかしている可能性の方が普通にあり得る。


 ガス爆発もそもそもこっちの世界であるのだろうか……? という気がする。

 どうしてもユッカの脳内では魔法でカマドに火をつける光景が浮かぶせいで、ガスコンロもなんだか場違いに思えてくる。

 魔法で動くタイプのガスコンロみたいな道具があるかもしれないけれど、多分ユッカが思い浮かべるガスコンロとは形状が異なるのではなかろうか。


 そんな、どこかどうでもよさそうな方向に思考がそれかけたものの、ユッカは困ったようにロゼの方に顔を向ける。勢いがあまり過ぎてロゼの身体に鼻先がくっつく。とても素敵な毛並みであった。


「うーん、何があったかわからないけど……様子を見に行った方がいいかもね……」


 ロゼとしても若干警戒しているようではあるけれど、このままここで突っ立っていても状況が変わるわけでもない。とても気乗りしない様子ではあるけれど、ロゼの意見としては様子を見に行くであってこの場を立ち去る、ではないらしい。


「そうですね、何があったかはわかりませんが、助けが必要である人がいるかもしれません」

「そう、だね……?」


 ユッカとしてもその言葉に否定をするつもりはない。

 ただ、ユッカはどこまでも平凡なJKである。人命救助に関しての知識だってなんか学校で習ったなー、くらいのふわっとしたものでしかない。

 なので助けが必要な人はそりゃいるかもしれないけどさぁ……とは思うけれど、そこに自分が行ったからとてどうなるというものではない、というのが嘘偽りのない本音である。


 私は行かない方がいいんじゃないかなぁ……とは思う。

 行っても役に立てる気がしないし、だったら離れたところで邪魔にならないようにしているのがいいのでは、と思うのだ。

 だがロゼもディオスも確認しに行く、という考えらしいので、ユッカだけがここで一人待ってるね、とも言えない。


 見知らぬ場所で一人きりとか、それもそれで危険な気がするので。

 そうでなくとも魔物と遭遇したらと考えただけで一人は死亡フラグである。


 そうなると、ユッカがイヤだと言ったとしても恐らくは行く羽目になるんだろうなぁ……という結論に辿り着くわけで。


 いくら身を護る魔法をロゼがかけてくれているといっても、だからといって大丈夫だと楽観的に思えないままに、ユッカは一足先に行動に出たディオスの後をついていくしかなかったのである。

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