07.黎明苑-1-
少し前の事
天は朝から黎明苑を訪れていた
今日は子供達が朝食を終えた後、読み書きの勉強をする日だ
ここに集まる子供達は身寄りの無い子供達だ
天がまだ幼かった頃
屋敷の大人に連れられて宮廷の外の街に散歩に出た事があった
行く道の至るところに痩せ細りボロボロな色褪せた服を着た座り込み、脇道を覗けば横たわる人や盗みを働く者もいる
小さな屋台に食べ物を縋る子もいる
上質で清潔な服、十分過ぎる程の食事、何不自由無く生活してきた天にとっては初めての不思議な世界だった
「この者達は何をしているのですか。大人は働かず、不潔な装いで座り込み、あちらにはさっき果実を取り走り去る子供がいました。僕は毎日色々なお勉強がありますが、この者達は...」
「天様、それ以上話してはなりません。言葉が大変お上手になりましたね。語学の勉強以外にも、この者達についても後日お勉強しましょうか。」
天が話すのを遮るように、そう言った人物がいた
それから暫くして、地位や経済格差により教育を受けられず、働き口も見つけられない大人や働いても生活できる程の給金がもらえない人がいること、今の子供達もいずれそうなるかもしれないということ、年数をかけ沢山の情報を集め勉強してきた天が黎明苑を立ち上げたのだ
それから年月をかけて黎明苑の規模を拡大していく内に、道端に捨てられる子供や、飢餓に苦しむ子供達の姿は街から消えていった
さらに、天は子供ながらに、あの時見た大人達を支援する働き口まで作り出したのだ
しかしこの場所と活動を守るには莫大な費用が必要であるが、予算をなかなか回せない
ここの子供達は同時期の自分よりも貧相な暮らしを強いられている
ここにいることができるのは15歳まで
子供達にはそれまでに自分で生きていくだけの力をつけてもらわなくてはならない
俺はこの場所を守り続けなければいけない
部屋の後ろで窓から街の方を見ながらそんなことを考えていると、そろそろ休憩にしましょうという花梅の声がした
天は扉や窓を開け、子供達が外の遊び場へ走って出ていくのを見送った
そんな中1人、日の光を浴びて大きく深呼吸する少年の姿を目で追っていた