01.歴史書
小川のほとり
暑く乾いて砂が舞う
広大な砂地が地平線の向こうまで広がるこの地には草木も殆ど見えない
そんな環境下で切磋琢磨して生きてきた一族
しかしある時、この一族を生け捕りし焼き討ちする者が現れた
年月が過ぎ、生け捕りから生き延びた一人が故郷に帰った
そこにはあの時から時間が止まったまま共に過ごした逃げ遅れた仲間達の亡骸が残っている
悲しさに暮れ、途方に暮れ、この先どうするかを悩む時、一人の青年が通りかかる
青年の名は天空
その有り様と一人途方に暮れる者を見た天空はその者と共に亡骸を集め墓を建てた
そしてそこに眠る仲間を守るようにその二人は新しい生活を始める
歳月が流れ、二人が永遠の眠りに着いた時、その墓は光輝き二人を迎え入れたと言う
そしてその輝きが小川に恵みをもたらし、草木が生い茂り、広大な砂漠の真ん中に青と緑の楽園が誕生した
新たな生命が誕生し文明を築き、後に巳国の呼ばれる国が生まれ、全ての始まりに当たるその墓は生命の泉と名付けられその地に生きる者から大切にされるようになった
焼き討ちと生け捕りから生き延び一人故郷へと帰った蛇は、国の象徴として、国王に代々受け継がれる聖剣と、国王の妻子を守る指輪に宿っている
通りすがりの青年天空は巳国の始祖であり、この者が生まれ変わり誕生した時、神の蛇が姿を表し、その子と共に生きると言い伝えられている
………
そして現王の元に双子が生まれた時、生命の泉はそれぞれに天と空と名付けたことから、遂にその青年が帰ったのではないかと言われている
読み終えた本を優しく閉じると彼は呟いた
「これが新刊か。数行しか足されてないのに一般版まで発行する必要あるのか?」
「さあ、俺達が決める事では無い。だが予算の無駄使いはしないで欲しい。」
指に曇り無く白銀に輝く蛇を象った指輪を着けた二人こそ天と空
現王の双子息子である
「今まで十七年間生きてきて一度も生まれ変わりだなんて思った事は無いのに、こんな勝手な期待を持たれても此方としては困るというのに。」
この言葉に天は苦笑いとため息で返した
大方話に切りがつくと部屋の前で控えていた侍女が入ってきた
「お父様と花梅からの手紙を預かっています」