31.聖女の化けの皮
――『今』から遡る事、半月ほど前。
「こちらが先生です。我が国が誇る、その道の第一人者ですよ。」
隣国・テラキアーロ王国の伯爵であるフィオレンツォが、マリアローザの屋敷にその人を連れてやって来た。
それは中年を過ぎた辺りの、穏やかそうな紳士である。
「本日はお招きくださり、ありがとうございます。レディ。」
彼はここの主の手を取ると、その甲に軽く挨拶のキスをする。どうやら貴族ではないらしいのだが、洗練された所作の人物だ。
「それでは早速ですが、始めさせて頂きましょう。」
爽やかににこりとそう言うと、アシスタントだという数名が、屋敷の中に少々大きな道具を運んで来る。それが手早くセットされ、講義が始まった。
「マリアローザ様のご希望を伺いましたところ、まさにぴったりの演目がございまして。」
「まあ!それはどんなものですの⁇」
「――その名も、“人体切断ショー”。」
紳士は人差し指を立て、不敵な笑みを浮かべる。マリアローザは息を呑んだ。
「それこそ、わたくしの求めていたものです‼……けれど、少々物騒なネーミングですわね……。」
「そこは一先ず、ご覧になった方が早いかと。」
彼が用意させたのは、一つの大きな箱。箱というより、台のような物体だ。
「これは、私が作らせた特注の台でしてね。ここに、こうして……腕を嵌める。と、どうですか?動かなくなりましたね。」
紳士の腕は、台に取り付けられた枷にしっかりと固定されている。それを目視して、彼女は頷いた。
「では、こちらに一本の剣がございます。――…ほら、スパッと切れたでしょう。本物の剣ですよ。」
その言葉に合わせ、アシスタントが目の前で肉の塊を斬ってみせた。なるほど、良い切れ味。確かに本物の剣のようだ。
「それをこうして振り上げまして――…下ろす‼」
またもやその言葉通り、アシスタントは剣を振り上げる。それから紳士の腕を目掛け、思い切り振り下ろした。
――ダンッ!
「ッ!!」
分かっていても、マリアローザは思わず一瞬だけ目を瞑ってしまう。しかしすぐに目蓋を開き、彼の方を見ると……
「ぁあ~あ!」
おどけた声で、わざと緊張感なく言う紳士の腕が、途中からすっぱりと無くなっていた。まるで本当に今、斬り落とされたかのようだ。腕の残りは――
台の上に、固定されたまま。
「まああっ!凄いわ‼どうなっていますの⁉」
マリアローザは興奮しながら、残された手と途中で切られている腕とを見比べる。そして恐る恐る手の方を触ってみるが……。
間違いない。こちらも本物の、人の手だ。これは一体――
「ははは。それはですねえ……、こうなっているのですよ。」
片腕が途中から無くなっているにも拘らず、朗らかに笑う様は……何ともシュール。ちなみに、もちろん血など出ていない。
――そうして彼は丁寧に、今の『マジック』の種明かしをしてくれたのだった。
「……素晴らしいわ。これは、先生が考えたものですの?」
「ええ、そうです。こちらは初期のものですね。今は、もっと凄いものを計画しているところですよ。」
マリアローザは感心しながら、仕掛けをじっくりと観察する……。そこへ、にこにことしながらフィオレンツォが声を掛けて来た。
「どうです?こんなに大掛かりなものは、ここアルベロヴェッタにはまだ入って来ていないでしょう?」
「ええ。小さなものならともかく、わたくしも見た事がありませんわ。ベルティーニ伯爵様には、何とお礼を申したらいいか。」
ただ、また借りを作ってしまったようで、そこが少々気にはなるが……。
これに関しては、十分に使えそうだ。気を取り直し、彼女は紳士の方へ尋ねた。
「こちら、買い取らせて頂いてもよろしくて?」
「構いませんよ。種を公表しないでいてくださるのであれば。」
「それはもちろん!こちらとしても、そのつもりですわ。」
商談は成立だ。
それから、稽古を付けて貰う契約に、演出の相談にも乗って貰い――。
「聖女検証」の準備は着々と進む。時にはエレナや王太子も呼んで稽古を重ね、マリアローザは人体切断ショーを完璧に習得したのである。
「何だか、詐欺師にでもなったような気分ですわ。」
「では、私たちは共犯者、という事ですね。」
「伯爵様は何をおっしゃっているのやら。全く……。」
……なぜか、稽古の場にはいつもフィオレンツォが同席していて、それだけが唯一謎のままだった。検証の本番には、彼は関係が無いというのに。
最後に、マジックの師匠は言った。
「――…成功の秘訣は、視線誘導にテクニック。それから……不自然さを感じさせない演技力、ですよ!」
そして、現在――。
「ア゛……ア゛ア゛ア゛ア゛ッ、いたい…痛いぃ!!」
床に転がり、マリアローザは腕を切断した“痛みに悶えている”。
検証会場では見物に訪れていた婦人が数人、倒れたりもしているようだ。あまりに衝撃的な光景を目にした事で、具合が悪くなってしまったのだろう。そうでなくても皆、青い顔をして右往左往している……。
「あああっマリアローザ様!しっかり!!」
執事のリノが、慌てて主人の側に駆け付けた。それから必死の形相で、モスコン男爵と「聖女」ジュリアの方をバッと振り向く。
「はっ早く治してください‼このままじゃ、マリアローザ様が死んでしまいます!!」
二人はたじろいだ。とりわけジュリアの方は、顔色が青を通り越して土気色になっている。そしてガタガタと震え、早くも涙目になっていた。
「は……はや、く……っ、なお…して、わたくしの…………腕ぇ!!」
息も絶え絶えになりながらガクガクと震え、マリアローザは力を振り絞って叫ぶように乞う。それからまた呻きながら、酷く痛みを訴えた。
「聖女様っ‼早くしてください、早く!早くっ!!」
急き立て、責めるようにリノも叫ぶ。
――…辺りは、真っ赤に染まっている。……こんなの、どう見たってもう……
「は や くッ!!!」
激しい剣幕で彼に怒鳴られ、ジュリアは全身をビクッとさせる。それから、勢いよくその首をぶるぶるぶるっと小刻みに横へ振った。
「む……無理よ…」
「何で!あんた聖女なんでしょ⁉」
「ムリ…ムリムリムリ!!そんなの無理に決まってんじゃんバカなの!?」
ジュリアは叫んだ。切羽詰まった彼女にはもう、『聖女として――』などと考えている余裕は無い。
「…は?落とした腕がくっ付くとかあり得ないし‼現実見なよ!おとー様が教えてくれたのだって血の止め方だけだし、ちょっと深めに切っちゃったくらいしか無理だもん!完全に離れたのがくっ付くワケないでしょ!?バカなのっ!!!」
物凄い勢いでまくし立て、ジュリアは肩で息をした。腹の底に溜めていたものを、洗いざらいに吐き出したと言っても過言ではなかっただろう。それはもう、自白に近い。……だが本人は、自分が何を言ったのかに未だ気付いていない様子。よほど取り乱しているらしい。
しかし。会場内に集まっていた者たちの耳には、しっかりと入っていた。
「…えっ⁉どういう事だ……?」
「くっ付くわけないって……」
「何でも治せるのよねえ……??」
マリアローザの腕が欠損してしまった衝撃にも慣れて来たのか、人々は別の意味でざわざわとし始める。モスコン男爵は非常に慌てた。
「ジュリアッ!何を言っているんだ⁉…この子は今、あまりの事に気が動転しておりましてね……」
「気が動転って……」
彼は必死に火消しを試みるが、周りの反応が良くなるわけもなく。それどころか、観客たちは事態の深刻さを理解した。
「きっ…騎士っ‼早く来いっっ!!令嬢を運ぶんだ‼」
「いや、医者を連れて来た方がいい!」
「ここは王宮だ、宮医はどこにいる!?」
もはや聖女の検証など意味を成さない。ジュリアが白状したようなものである今、頼れるのは医学のみ――。
観客らが騒ぎ出し、これは不味いと騎士たちも動き出した。人々がマリアローザへ近付こうとした、その時。
「――待て!!」
制止する声が、会場であるエントランスホール内に響いた。するとびくりとして、そこにいた者たちは全員動きを止める。それはもちろん、騎士たちもだ。
「何人も、これ以上マリア嬢に近付いてはならない!」
そう続けながら、その人物はカツカツと靴音を立てて足早に歩いて来る。それは奥の方で一連の様子を見ていたこの国の王太子、シルヴィオである。
「でっ、殿下⁉なぜお止めになるのです!?」
誰ともなく、そんな声が上がった。当然だろう。目の前には腕を落とし、瀕死な状態の令嬢がいる。今助けなければ、本当に死んでしまうかもしれないのだ。
「今はまだ、検証の最中だ。誰にも邪魔はさせない!」
シルヴィオはキッとした表情で告げる。人々は青ざめた。
「何をおっしゃいますシルヴィオ殿下!あの者は、治せないとはっきり言ったのですよ⁉」
その言葉と共に、ジュリアに指が向けられた。確かにみな聞いたのだ。腕なんかくっ付くわけない、と……。それはもう、「聖女」という存在が嘘だったと告白したに等しい。
なのに王太子は、この期に及んで一体何を言っているのか。
まさかとは思うが……廃嫡した元王太子のように、この王子もまた、おかしな人物だったという事なのだろうか――…?
人々は暗澹たる思いがした。
「確かにジュリア嬢は出来ないと言った。しかしまだエレナがいる!――エレナ、このままでは君の大切な友人が亡くなってしまう。何としてでも助けるんだ、君の力で‼」
その言葉に、彼の婚約者は意を決したように頷いた。そしてマリアローザのもとへと急ぎ、服を汚す事になるのも厭わずその側にしゃがみ込んだ。
「……マリア様。必ずや、わたくしが貴女をお救いいたします。」
「うで……わたくしの、うで……」
「ええ、もちろんです。元通りにいたしましょうね。」
倒れて横になった彼女の背中をさすり、エレナは優しく声を掛ける。気にせず触れるものだから、手も服も赤く染まり、あちこちが汚れてしまっていた。
……傍から見れば、それは凄惨な場面なのだが……。なぜかその姿は、尊く輝いているように人々の目には映っていた。
優し気な表情から一転、エレナは険しい顔をしてリノの方を向く。
「執事!マリア様を台まで戻して差し上げて。残っている腕とくっ付けるのです、早く!」
「はっはい‼」
彼は急いで床に転がるマリアローザを起こし、もう片方の腕を肩に掛けて台まで連れて行く。エレナもそれに同伴して、二人掛かりで慎重に切れた腕同士を合わせた。
――台の上。かくして彼女の腕は、枷の中で再び一つになる。
「マリア様が悶え、断面がずれてしまったら大変です!執事、動かないようしっかりと体を押えていなさい。いいですね⁉」
「かしこまりました!!」
台を挟み、向こうとこちらに分かれて立つ様は、まるで手術室かのような光景。リノは呻くマリアローザの体を全身を使って押さえ、エレナは枷の辺りに両手をかざして目を閉じた。
彼女は息を吸い込む。そうして、その手に力を込めた。
非常に緊迫した空気だ。会場内はしんと静まり返り、その場にいる者はみな固唾を吞んで見守っている。祈りながら……。
だがそれを、たった一人だけ、冷めた目で見ている者がいた。
『……ふん。どいつもこいつもバカばかり。命はどうか知らんが、あの女の腕はもうダメだ。ジュリアの間抜けがいらん事を言ったが、どうせあの婚約者も同罪になる……。仕方ない、今回は痛み分けで良しとするか。』
マリアローザとかいう女は、本当に馬鹿な事をした。天はまだ自分を見放していない――。モスコン男爵はほくそ笑む。
ならば今しばらくは大人しくしている事にして、彼は高みの見物を決め込んだ。
―――……。
この場は今、本当に静かである。
聞こえるのは、痛みに苦しむマリアローザの呻きと荒い息のみ。それから、エレナが力を込める際、時折漏れる短い息遣いくらいのもの。
聖なる力、なんてものが実際に存在するなら、目映いほどの光りとか、音とか風とか……。そういう何かがあるのではないかと思ったりもしたが、何も無い。否……
今更そんなものを信じているなんて、狂気の沙汰だ。――そうは思っても、期待している自分がいる事に、人々はもう気が付いている。
本当ならば、すぐにでも医者に預けなければならないのだと、誰もが分かっているはずなのに――…。皆、賭けてみたい気持ちが勝ってしまったのだ。
そんな中、エレナは一人奮闘している。
力の使い方なんて、きっと分からないだろうに……。今はとにかくやってみるしかない。彼女の全身からは、汗が滝のように流れ落ちていた。それが、光も何も起こらない中で、観客に「何か」を感じさせたのだった。
それからまた、しばらくが経ち……。
マリアローザの切り落とされた腕の先にある、手の指が――…
ぴくり。
「‼動きました!マリアローザ様の指が、動きましたよ!?」
興奮しながら、リノが大きな声を出す。すると静かだった会場が、にわかにざわついた。
そういえば……いつからか、マリアローザの呻き声も聞こえなくなっている…??
「あっ!また!!」
彼女の手が、今度ははっきりと握るような動きを見せた。それからハッとしたように、マリアローザはゆっくりと体を起こす。
「……わたくしの、うでが――…!」
執事が急いで枷を開いた。彼女はその腕を高く持ち上げる。
観客たちは見た。そして息を呑む。
「―――!!!」
元の通り、腕が一本に繋がっている。手も指も、ちゃんと動く。完全に真っ二つになったはずの、マリアローザの腕が!!
「き…………奇跡だ!!!」
王宮のエントランスホールは、地鳴りのような歓声に包まれた。みな手を叩き、安堵と喜びを爆発させている。
……その熱狂の中、ふらりとエレナが倒れた。
「エレナ様ッ⁉」
「エレナ!!」
マリアローザが駆け寄るよりも早く、シルヴィオが受け止める。その腕の中で、エレナはぐったりとしながら彼女の方を見た。
「……マリア様……腕……。よかっ、た…」
呟くように言って、彼女は気を失った。全ての力を使い尽くしたのだ……誰の目にも、そう映った。
「宮医を呼べ!!エレナが倒れた!」
婚約者を抱え、シルヴィオは立ち上がる。
「マリア嬢、後は任せた!君も後ほど医者に診て貰うように。私たちはこれで失礼する‼」
王太子は彼女を抱えたまま走り出し、検証会場を後にした。そしてその場に残されたのは――。
マリアローザが、ゴホンと一つ咳払いをする。それからさっきまでの事が嘘だったかのように、笑顔を見せた。
「――…皆様。少々お見苦しい姿をお見せしてしまい、大変申し訳ございません。この通り、わたくしはもう大丈夫で…」
「……そんな……」
その声を遮り、低い男の声が響く。
「そんなわけがないィッッ!!」
鬼のような形相のモスコン男爵が、狂ったように彼女の腕を掴み、確認する。
本当だ……。切れた痕一つ無い。なぜ。まさか……。そんな事……あるわけが……
「――この男を捕らえて頂戴!」
呆然とする男爵を、騎士たちがあっという間に羽交い絞めにする。そこでハッとして、彼は暴れた。
「何をするっ離せ、この無礼者めが!!私は貴族だぞ⁉一介の騎士風情が触れていいものではないっ!!」
安っぽい脅し……。そんなものにびびるような王宮騎士はいない。三人ほどによって、モスコン男爵は立ったまま完全に動きを封じられていた。
「さて男爵。エレナ様がいらっしゃらなければ、わたくし死ぬところでしたのよ。ジュリア嬢は腕を治せませんでしたわね。これは一体どういう事かしら。説明してくださる??」
動けない男爵に、マリアローザは詰め寄る。彼は額に脂汗を浮かべながらも、まだ観念などしない。
「しっ…知らない!私のせいではない……ジュリアだ!ジュリアに騙されたのだ‼私も被害者だ!!」
マリアローザは、反吐が出そうだと思った。
「あらまあ。彼女先ほど、何か言っていたようですけれど……。リノ!何だったかしら⁇」
「はい、“お義父様が血の止め方を教えてくれた”と申しておりました。“少し深めに切ったものくらいしか治せない”、とも。」
問われた執事は、平然と的確に答える。
「そう。つまり――、ジュリア嬢は止血法を試みただけという事のようですわね。そしてそれを教えたのは、貴方。」
「それは…っ、一般的な方法論を教えたに過ぎない!悪用したのはあいつだ‼」
男爵はどこまでも、白を切るつもりらしい。
「“聖女様”に一般論は必要ありません。なぜ教えたの?」
「教えてくれと、頼まれて…」
「貴方が彼女を養女にした理由は??」
「それは……」
「わたくしの記憶が正しければ、“聖女を見付けたから”、でしたわよね⁇」
「…………」
ダラダラと汗を掻き、矛盾だらけのモスコン男爵は次の言い訳を見付けられなくなっている。それでもまだ、追及の手を緩めはしない。
「何をもって聖女と判断なさったのかしら。お教え頂ける?止血法は、貴方に出会うまで彼女は知らなかったようですし……時系列が滅茶苦茶ですわね。まさか、石を光らせただけでそうだと思ったのですか⁇笑ってしまいますわね。」
「……‼」
マリアローザは侮蔑の目をして、口元を扇子で隠した。……それはつい先日、彼自身が吐いたセリフ……。
男爵はカッと赤くなった。
「ねえ、モスコン男爵。貴方の話をまとめると、10代の平民娘にあっさりと騙され養女にし、王族の前まで連れて来てしまった――…という事になりますけれど。よろしくて?」
そんな貴族、実在すればとんでもない間抜けだ。末代までの恥。成り上がるどころか、一生社交界には顔を出せない。
……だがここは、そうだと言うしか――…
「あ……ああ、そ…」
「何言ってんの!?」
ジュリアが叫んだ。
「あんたじゃん!あんたがあたしを聖女にしてくれるって言ったんじゃん‼そしたら王子様と結婚出来るって……!自分の言う通りにすれば全部上手く行くって言ったの、あんたでしょ⁉ウソばっっっかり!!」
奇声のような金切り声を上げ、彼女は更に全てを吐き出す。両手に握った拳を上下に振り、ダンダンと地団駄も踏む……。そして終いには、泣き出した。
「あ……あんな平民の言う事こそ、嘘しかない!!現に聖女と偽っていたのはアレではないか‼」
本当に、往生際の悪い男である。それにしては簡単に聖女設定を捨てるのだから、お粗末だ。
このエントランスホールにいる観客たちは、もう誰も男爵の言い分になど耳を貸さない。そういう目で、彼を見ている。
これぞまさに修羅場。
そこへ、外から靴音がやって来た。カツン、カツンと高い音を立てるのは、女物の靴である。羽交い絞めのモスコン男爵は、目だけで音の方を見た。
するとその顔が、パアッと希望に輝く。
「……――!アンナッ!!」
姿を見せたのは――アンナ・ド・モスコン。彼の妻、その人であった。




