はんざいしゃ
目が覚めると車の助手席にいた。隣にはリョウさん。
外はすでに暗く、車通りも少ない。窓から見える飲食店の電気がすでに消えていることを考えるとだいぶ深夜なのだろう。
「あの…どこへ?」
「俺の家」
「私、今置かれている状況が全くわからないんですけど」
また無視される。自分の今後のことだから聞くことを諦めることはできない。
でも運転中だし、今質問して気をそらすのはどうかと思ってしまった。
いや、本当は質問をしつこくして何か返事が返ってくるのが怖いのかもしれない。どんな返事が返ってきたって私はもう元の生活には戻れない。
「お前は、しばらく俺の家にいることになる。外には出れない」
ポツリと話し始めた。
「いつまでですか。そもそもなんですかこの状況。どうして両親を?私はこの後どうなるんですか?」
さっき聞いたかもしれない質問を投げかける。
「お前の両親は俗にいう犯罪者だ」
犯罪者は彼の方じゃないか。運転している彼の横顔を睨みつけながら口を開く。
「犯罪者はあなたの方ですよね」
「あぁそうだ。俺と同じ犯罪者だ」
確かにあの時に私は恋に落ちた。この人になら殺されても構わないと思ってしまった。
でも、形だけでも愛情をもって育ててくれた両親をそんな風に言われてもいいなんて思ってない。侮辱を許した覚えまでない。
「信じられないかもしれねえが、これが事実だ。お前の両親が犯罪者だっていう証拠ならいくらでも出せるが、お前は出せねえだろ」
潔白の証明が出せないから犯罪者。こんなの暴論だ。
「私の親も人を殺していたんですか。あなたと同じように」
「間接的にだがそうだな」
「間接的?」
「あぁ、お前の両親はハッキングを得意としていたからな。色んな所から抜いた情報を使って人を殺しまくったな」
「そんなはずありません。父はともかく母は電子機器が全く使えませんでした。スマホだって通話とメールくらいしかできないのに、ハッキングなんてありえません」
「だとしたらそれが演技だな。お前の母親の方が能力は上だった」
「信じません」
「勝手にしろ」
それからはお互いに一切口を開くことはなかった。
両親はあの家の入っちゃいけない部屋でその仕事をしていたのだろうか。いや、この人が私に嘘を言っている可能性だってある。私が食べていたご飯代も、生活費も、授業料も、何もかも汚れたお金だったのだろうか。いや、両親が仮に犯罪者だったとしてどうして殺されなきゃいけなかったのだろう。
親が犯罪者かもしれない。いやそんなわけない。
そんなことをずっと考えていた。
こんな時でさえ、涙が出てこない自分がとんでもなく嫌になった。
あぁ、なんて薄情なんだろう