しろいへや
目が覚めると知らない場所にいた。
ふかふかのベッドの上で寝かされていた。着ていたはずの制服も着替えられていた。
見覚えのない天井を見ながら、どうしてここにいるのか考えていた。
私は両親が殺されているところを見てしまったから、あの人に殺されたはずだ。
誰かに助けられた可能性もあるが、今の私は怪我を一切していないようだった。どこも痛くない。
かろうじて言うなら、この状況に頭が痛くなるだけだ。
目線を周りに映しても、白い壁しかない。病室のようにも見えるが窓がないこの部屋は奇妙だ。静かな空気が張り詰める。自分の呼吸音しか聞こえないこの部屋が少し恐ろしい。まだ冴えない頭で色々考えていると、他の音が聞こえてきた。
ドアの外から足音が聞こえる。ヒールとも違う、革靴のような乾いた音だ。
ドアの前で足音が止まる。ヤバいと思い、また目を瞑って寝たふりをする。
ドアが開き、靴の音が私の横で止まった。
「起きたか」
寝たふりがバレたことに気付きそっと目を開ける
「殺されたと思いました」
「殺さねえよ」
「どうしてですか。あんな所見てしまったのに」
彼は、疑問には答えずにタバコを吸い始めた。ここでタバコを吸ったということは病院とは違う場所のようだ。
「ここは、どこですか」
ちらっと目線を私に向けるものの、すぐに目線をそらした。答えるつもりはないということか。
「あなたは誰ですか。私の両親とどんな関係で?」
返事は返ってこないかもしれない。でもそれでもいいと思い呟くように聞いた。
「リョウだ」
後半の質問には答えてもらえなかったが、名前は教えてくれた。
質問の意図は名前だけではなくどんな人かという意味も含まれていたのだが、名前を教えてくれただけマシなのかもしれない。
「私はどうなりますか」
彼は私のことを見ると、黙った。目が合うわけでもなく彼が私のどこを見ているかわからない。
「殺しますか」
「殺さねえ」
即答だった。こんなにも早く答えられるならほかの質問も答えてほしかった。
「私はどうなりますか」
もう一度同じ質問をした。やっぱりリョウさんは黙った。
本当はもっと聞きたいことがった。どうして両親を殺したのか、どうして私は殺さないのか、でも聞いたら戻れない気がした。逆に言えばこのまま家に帰ればもしかしたらまたいつもと同じ毎日を送れるのかもしれない。
それって…どうなんだろう。あのつまらない毎日に戻りたいと思う気持ちと、戻るくらいなら死んだ方がマシという気持ちが共存する。あぁ、具合悪い。
「私、寝ますね」
彼が黙ってから10分ほど経った。別に話したいこともないし色々考えたからか頭がぐるぐるして具合悪い。
「おやすみなさい」
そういって、また目を瞑る。すると彼が口を開いた。
「お前はしばらく家には帰れねえ。親も死んだ。これは事実だ。また後で迎えに来る」
これだけ伝えて部屋から出て行った。
窓も時計もない部屋。今が何時なのかわからない。彼がどれくらいで迎えに来るのか、本当に迎えに来るのかわからないが今はもう何も考えたくない。
現実から逃避するようにまた意識が途絶えた。