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5.

「年越しそばよりもさあ、日吉に必要だったのは年明けうどんだったんだと思うよ」

「どういうこと?」

 すぐに返すと潮はたちまち不機嫌になる。

 少しは自分で考えなよと言われて、しばし腕組みをして考え込んだが、日吉にはなんのことだがさっぱりわからなかった。

「三分の壁の話と関係ある?」

 そう尋ねてみても、潮は首を横に振る。

「お盆に帰ってくるときまでの宿題ね」

 と言って笑った。

 その言葉に日吉は少し考えてから、きょとんと目を丸くした。

「お盆にも会うってこと?」

 潮の返答がある前に日吉はぽんと手を打った。

「やっぱりお前、仕事とか嘘言って俺を探しに来たんだろ」

 得意げに言うと、まるで汚いものを見るような視線を投げられた。

「仕事。担当者がイルミネーションのタイマーをかけ忘れたの」

「それでなんで潮が来るんだよ」

「大晦日の夜だもの」

 ひとり身には世知辛い世の中なのよと、潮は積もった雪を蹴飛ばした。

「じゃあさ、結婚する?」

 そういう流れだと思ったのに、潮は何が起きたかわからないと言った様子で、うどんを食べる手をぴたりと止めた。

「誰が?」

「潮が」

「誰と?」

「……俺、と?」

 言葉を重ねるにつれ潮の顔つきが険しくなっていくのが手に取るようにわかって、日吉はそれ以上続けるのを躊躇した。

「おかしいな。映画とかだとこういうとき、ひとり者同士でくっついたりするんだけどな」

 ふてくされこぼした言葉が潮の耳に入ったかどうかは知らない。最後の一口を飲み干して背伸びをした彼女は、冷たい夜の空気にまた体を縮ませた。

「そういうのはないけど、また帰ってくればいいんじゃない」

 呆れたような口調ではあったが、表情は優しかった。

「盆でも年末年始でも、帰りたいときに帰ればいいよ。カップ麺だって、三分でも四分でも五分でも、日吉がやりたいって思うのを選べばいいんだよ」

「なんだよそれ。もっとうまいこと言えよ」

「日吉にはこれで十分でしょ」

 何か言い返してやろうと思ったのに、言葉を選んでいるうちに対抗心は薄れていく。

「……そうだな。充分だ」

 最後に残っていたうどんのつゆを飲み干す。

すっかり冷たくなってしまっていたけれど、潮とともに食べたその味は、日吉の胸を熱くさせた。



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