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1.

 広くひろがるまっしろな雪原を、その一部となって眺めていた。

 登山用のバーナーとクッカーでお湯を沸かす。

 北国の冬には『しんしんと』という言葉が本当にしっくりとくるのだと、久しぶりに実感した。

 冷え込んだ夜の空気は頬にびりびりと痛く、だけどひどく澄んでいて、寒さに背中を丸めたくなるのに、だけど気持ちはしゃんと張りつめているという不思議な心持ちだった。

 そんな中で聞く、ガスバーナーの勇ましい燃焼音。

 満点の星空が明々と輝いてはいるけれど、手もとを照らす明かりとしては頼りない。

 自分のまわりが、ただただ白い雪で覆い尽くされているおかげでいくらか明るさは増したが、小さな文字を読むにはまだ足りない。

「カップそばって何分よ。久しぶりすぎてわからんわ」

 カップ麺の容器をぐるっと一周させる。

「いや、久しぶりっていうか、初めてじゃね? だって俺、あったかいそばとか好きじゃないしさあ」

 ほんの一瞬の沈黙にも堪えきれず、

「じゃあなんで食べようとしてんだよ。しかもこんな過酷な環境でよ」

 誰かに投げてほしかった言葉を自ら発する。

 これを世の中ではひとりごとと言うのだろうなと、さらに言葉を重ねながら、クッカーのふたを持ち上げた。

 水面はまだまだ静かなままだった。

 ふたを戻しふうっと息を吐いた。

 真っ白な吐息が、冬の夜の冷たい空気に溶けていく。

 ピリッと肌に貼りついた冷気。

 何を馬鹿なことをしているんだと、突然冷静になって失笑がもれた。

 十二月三十一日。

 もうあと十分とちょっとで今年も終わる。

 世の中が、今年の紅白はどうだったねとか、そろそろ初詣に出かけようかとか言ってるような時間帯。テレビではきっと全国各地の鐘の音がリレー形式で鳴り響いている、そんなころ。

 日吉ひよしはたった一人、冬期閉鎖中のサッカーグラウンドにいた。

 一面雪野原のその場所は、日吉にとっては思い出深い場所だった。

 今座っているその場所は、巴高校演劇部の部室があった場所だった。

 湯が沸くのを待ちながら眺めるその雪原は、二十年前、彼が通う学び舎だった。


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