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-3-


 海上は荒れ狂い、激しい飛沫を上げて、スコールのように降り注いでいる。周囲が水飛沫だけで霧のように視界を塞いでいた。


 その先にある巨大な壁の如き怪人が蠢く度に、海は掻き回されて大津波を引き起こす。一度水位が大きく下がったと思いきや、高さ二十メートルもの波が押し寄せてきた。


 


「《流星光底》ッ!」


 


 圧倒的な質量を誇る津波を一振りの刀が両断する。海底まで見えるほど海を割ったのにもかかわらず、海は波を作る事もなく静かに隙間を埋めていく。


 


 剣豪の少女の背後には、長大な半透明の壁が広がっている。数メートル程の波はその壁に全力でぶつかるも、揺るぎない威光に遮られて先へ進むことを拒絶された。


 


 自身の身にかかる水を意識することもなく、少女が荒々しい息を吐く。彼女が立ち向かっている壁のように大きな怪人の一挙一動に全神経を集中し、一度のミスも無く攻撃を弾き返していた。


 


 巨人の周囲の空間が揺らめき波紋を生み出す。次元の向こう側から魔法力が送り込まれ、巨人へと降り注ぐ。色鮮やかな魔法力が魔術として撃ち出され、ぶつかると同時に爆発が発生する。互いに干渉しあい、光が水を透過してまるで花火のようにキラキラと輝く。


 


「攻撃というよりも鎮魂の儀式じゃなっ!」


 


 レンの呟きに答えるように、エインヘリアルからの通信が届く。通信の奥では魔法少女たちの魔術が紡がれて、輪唱しているようにも、歌声がさらなる歌声に掻き消されているようにも思える絶唱が響き渡っている。


 


『魔術システム《テラフレア》撃ちます! ショック体制を取ってください!』


 


 直後、空から光の柱が落ちてくる。凄まじいエネルギーが光すらも奪い取り周囲を暗くする。海を蒸発させる光線が巨人に直撃し、絶叫する。


 


 しかし、すぐさま傷が埋まっていく。撃ち抜かれた胴体に魔法のようなキラキラとしたエフェクトを残して。


 


『熱量排斥。環境再構築。あの人はまだなんですか!?』


「知らぬ! そっちこそ何も聞いておらぬのか!」


『あの人に連絡なんて畏れ多いですよぅ!』


 


 通信越しに怒鳴り合う。そうしている間にも、空間を魔法力が満たして、蒸発した海水や星への被害がなかったかのように切り替わる。


 


 鮮明になった視界に怪人の姿が映る。


 


 長らく海にいたせいか、その表面はてらてらとぬめりを帯び、肌にはフジツボなどの生物が覆い尽くすようにこびり付いている。


 貝殻に付く人間が本能的に嫌悪するような、カサネカンザシの棲管を思わせる白い筋が文様を描いて纏わりついており、レンの肌が鳥肌を立てた。


 


 二足歩行で動く首のない巨人。かつての仲間であり、魔法少女たちにとっても希望だった英雄。


 


 そんな彼女の成れの果ての姿。それすらも犯され生物に寄生されたような悍ましい異形となっている。


 


 


 


 


 モニター越しに映像を眺めていた氷理が青白い顔でエンハンサーに尋ねる。


 


「あ、アレが災厄級怪人ですか?」


「……そう。人類が生み出した最悪の存在。ヴィランだ」


 


 怪人を打倒するヒーローの行き着く先、人類によって与えられた名前が天敵だという皮肉に、エンハンサーは拳を握りしめた。


 


 二人のやり取りも意に介さず、炎華はモニターを眺め続けている。


 


「…………魔法少女? 何か、どこかで見たような、でも、違うような」


 


 炎華が記憶の底を探っている間に、他の魔法少女たちや、エインヘリアルから明るい声が届いた。


 


「魔法少女ライゼンターです! やっときました!」


 


 


 


 


「──よくやった! もう大丈夫!」


 


 急いで駆け付けた時には、レンの魔法力が既に底を尽きかけていた。


 


「遅いのじゃ……」


 


 いろいろ言いたいことがあるだろうに、口をもごもごと動かすだけで、何も喋らない。


 彼女を支えてあげると、胸をドンと叩かれた。


 


「後は、任せたぞ…………」


 


 そのまま、安堵の表情で意識を失う。


 


 彼女を異空間へ送ると、それまでの様子を止まって見ていた怪人に向き合う。


 


「今まで、待たせてごめん。やっと、その呪いの解き方を見つけてきたから」


 


 首のない巨人へ、短剣を掲げる。


 


「終わりにしよう」


 


 怪人が、空へ向かって、首を伸ばした。


 


「────────ッ!!!」


 


 聞き取れない大音響に大気が揺さぶられる。異空間に繋いでいた門が破壊される。波紋が消えて、正常な空を取り戻した。


 


 魔法力を乗せた声だけに、これほどの被害が生み出される。


 


 彼女の中には、様々な意思が宿っていた。


 その中に、探していた声を見つける。


 


『助けて』


 


 魔法少女ヒーローの声が、届いた。


 


 


 


「リベリオンッ!」


 


 唱える必要のない技を叫ぶ。魔法少女の身体を構成する魔法力の比率を作り変える。


 


 攻撃一辺倒。守りを一切考えない。魔法少女としての変身の維持すらも考えない決戦仕様。


 


 体から漏れ出す魔法力が蒼い炎を作り出す。二つの魔法武器は一つに束ねられて、水晶の大剣となった。


 


「モード・クレピスキュール」


 


 わずか四十秒しか変身を維持できない一撃必殺型。


 


「私の全てをこの一撃に賭ける! 《エターナルフォース──》」


 


 必殺技と言えば、と考えて暖めていた私の最強!


 


「《インフェルノ》!!!」


 


 青黒い炎を纏った一撃が巨人を切り裂く。全てを籠めた魔法力が放たれる。


 時が止まったかのような、あらゆるものの停滞。そして感覚の喪失。


 


 光が全てを包み込んだ。


 

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