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魔法少女ライゼンター -1-


 僕は、怪人の発生により一番最初に家族を失った人間だ。当時は小学校に入りたてで、被害状況もマスコミによりショッキングに仕立て上げられてお茶の間を流れた。有名となった僕は、親戚の家をたらい回しにされた。友達なんて作っている暇もなかったし、噂の子供として常に腫れ物扱いだった。

 やがて、東北の片田舎に引き取られた時、僕は既に中学生になっていた。人と仲良くなる方法を学ばなかった僕は、あっという間に田舎の狭いコミュニティに排斥された。待ち受けていたのは、悪くなる一方の生活に対する不満の捌け口。

 大人すらも頼れず、同年代に味方もいない。かといって引きこもって親戚の家に迷惑をかける訳にもいかない。

 八方塞がりだった僕の状況を変えるものは何もなかった。

 最終的に、変わったのは僕の方だった。現実に疲れて理想を描き出し、それこそが真実であり本当の姿だと思う。妄想の類いに取り憑かれた。

 なりたい理想は現実の中にはなかった。だからこそ、手の届かないものを願った。

 魔法少女へとなることを。




 魔法少女協会日本支部の中は騒然としていた。上級怪人出現のため、一時的に日本国内全域にいる魔法少女たちを異空間か日本支部へと避難していた。


 


 そして、私たちによる撃破の観測報告に沸き返り安堵するのとほぼ同時に、災厄級怪人の復活を知らされて顔色をなくした。


 戦争期最後の危機の再来に対して、日本支部では喧喧囂囂たる議論が巻き起こっている。


 


「とりあえず、全世界にいる魔法少女たちを異空間に避難させる」


 


 こちらまで急遽出向いてきたエンハンサーの決定に、他の魔法少女が尋ねた。


 


「私の家族はどうするんですか!?」


「可能な限り収容する。だけど、限界があるのは理解してくれ」


「魔法少女全員で立ち向かったら良いんじゃないですか?」


 


 これまた幼い魔法少女が武器を胸に抱えながら聞いた。震える彼女を別の魔法少女が抱きしめる。


 


「数を合わせて立ち向かうべき相手じゃないんだ。魔法は奪えば奪うほど力を増す。小さな戦力を数揃えても、取り込まれて強大になってしまうだけだ」


 


 基本的に魔法少女が力をつける方法と同じなため、普段は奪うという表現を使わないエンハンサーが脅すように答えた。


 


「もうおしまいなの? みんな助けられないの?」


 


 祈るような姿勢で蹲る魔法少女が呟く。


 彼女を安心させるように、魔法少女断頭が頭を強く乱暴に撫で回した。


 


「以前は倒せたんだろ? なら復活しても大丈夫だ。ただ、戦いの余波がデカいから避難しろってことだ」


 


 断頭がエンハンサーにアイコンタクトを送る。それに対し、彼女は頷いてから指示を送った。


 


「そういうことだ。幼い魔法少女と新人たちはとりあえず避難を開始してくれ」


「あの……っ!」


 


 誰かが手を上げた。レンの研修で見かけた新人の魔法少女である。


 


「わ、私は近くにいる民間人に避難を促してきます!」


 


 その言葉に、エンハンサーが一瞬ひどく眩しいものを見たように顔を歪めた。そして、すぐさま笑顔を浮かべる。


 


「ああ、よろしく頼む。魔法少女エインヘリアルが現在避難誘導や世界へ災厄復活の報せを出しているから、手伝ってあげてくれ」


「はいっ!」


 


 そして、魔法少女たちが各々部屋を出ていった。


 この場に残ったのは、東京上空から戻ってきた私とレン。エンハンサーに千葉くん、断頭、炎華と氷理のコンビだ。


 


「それで? 戦争期の生き残りにして魔法少女協会のボスがなんでそんなに暗い顔をしてるんだよ? 既に一回倒されてるんだろ?」


 


 断頭が疑問を口にした。


 


「…………まず、あの災厄級怪人は倒せていない」


「はぁ!? じゃあどうやって今の時代があるんだよ?」


「……当時の魔法少女協会全員があの怪人に挑んだ。多くの死者を出しながらも、魔法少女ライゼンターがリベリオンの極めて危険な状態に変身し、一撃必殺で首を落として機能停止させた。それだけだ」


「どうして怪人の首を落とすだけで機能停止するんだよ」


「……すまないが、それを知るにはまだ早い。機密事項なんだ」


 


 エンハンサーが頭を下げる。断頭は慌てて両手を振って質問を取り下げた。


 


「機能停止はともかく、なぜ撃破されていないのかというと、単純にあの怪人を生み出した存在が死滅していないからだ」


「魔法って願った奴が死んでも続くだけじゃないのか?」


「分からない。少なくとも、アレは産まれが特殊だからか、大元がいる限り不滅の存在なんだ」


 


 断頭が愕然とする。


 


「その大元はどこにある?」


「分からない。これまで何度かアメリカ大陸をライゼンターが探してくれたが、発見も破壊もできていないんだ」


「……じゃあ、もう一回同じ事をして、機能停止させられる可能性は?」


 


 断頭が縋るような声で答えを待つ。


 


「…………ゼロだ。一度目覚めたのなら、もう二度と効かないだろう」


 


 エンハンサーがいつになく低い声で希望を断ち切った。


 


 当時の戦争によって比べ物にならないほど鍛え上げられた魔法少女たちが、束になってなお敵わなかった相手だ。今の新人たちで同じ事をやっても、勝てやしないのだ。


 


 青白い顔で黙り込んだ断頭を、痛ましい目で一瞥すると、エンハンサーは指示を出し始める。


 


「君たちには他と違う指示を与える。まず、炎華と氷理は自衛隊や政府への連絡をしてくれ。あちらからの質問には答えず、すぐに戻ってきてほしい」


「「了解いたしました!」」


「…………終わったら、すぐに異空間へと避難するといい」


 


 エンハンサーは、部屋を急いで出ていく二人を見送った。


 その襟首を断頭が掴みかかる。


 


「じゃあなんだ? つまり、勝てないから自分たちだけでも避難しようっていうのか?」


「有り体に言えばそうだ」


「ふざけんな! ここでまた見捨てるっていうのか!? もし、いつか事が終わろうが、それよりも前に解決したところで、地球に見捨てた奴らとの関係は二度と修復できなくなるだけじゃねえか!」


「…………そうだな。おい、ライゼンター」


「なに」


 


 私は怒りを向けられないように小さく返事をした。


 


「異空間の拡張状況はどれくらいになっている? 収容人数と、最低限の食料自給率は?」


「まだ、一億程度の収容数と、それに対する一ヶ月程度の備蓄しかない。その後の自給率は十パーセント」


「そうか。エインヘリアル」


『はい、どうしました?』


 


 スピーカーのように部屋へ響くようにして、エインヘリアルとの通信を繋いだ。


 


「災厄級怪人の移動方向と、現在の避難誘導状況は?」


『現在日本に向かって進行中です。移動速度と避難状況から、できれば魔法少女が足止めを。あと、津波が来るのでそれを食い止めてほしいです。日本及び近くの国の避難状況は現在五割程度です』


「了解。引き続き作業を行ってくれ」


 


 エンハンサーの声にわずかな淀みもない。


 


「……は?」


 


 断頭が小さく疑問符を返す。彼女の手を力強く、エンハンサーが包んだ。


 


「予想していた状況とは違う。想定よりも悪い。だが、それでも私たちは準備していた。いくら強くなっても、魔法少女は個人だ。両手と目の届く範囲しか守ることはできない」


 


 エンハンサーの顔色は悪い。正直に言うと、思い描いていた状況よりも遥かに最悪なのだ。それでも、彼女は安心させるように力強く見つめた。


 


「まだ、全員を助けられるほどの余裕はない。人間と魔法少女は敵対した。だけど、一度大きく躓いた今なら、手を取り合うこともできるだろう。皮肉にも、人類の数は今激減しているからな。うまくやれば、犠牲者を出さなくて済むように立ち回れる」


 


 固く握り締めた手を解き、エンハンサーが堂々とした佇まいで号令を出す。


 


「今が踏ん張りどころだ! 絶望を前に膝を屈している暇があるなら、歯を食いしばって立ち上がれ! 上を向いて盛大に笑え! 我らの中にこそ希望は宿る!」


 


 通信の向こうで、魔法少女たちが返事をする。断頭の背中をエンハンサーが強く叩いた。


 


「一人じゃないんだ。君は、魔法少女協会前の子供たちを避難させてくれ」


「……ああ!」


 


 袖で顔を拭うと、断頭が頷いて駆け出した。千葉くんも、その後に続こうと、慌てて追いかける。


 


 三人だけが残った部屋で、エンハンサーが崩れ落ちる。胸を掻き抱くようにして俯いた。


 


「……あの子の理想に追いつけているのかな」


「大丈夫」


「……十分頑張っていると思うのじゃ」


 


 レンが肩に手を乗せる。私は傍に立つだけに留めた。


「立ち止まっている場合じゃない、か。……仲間の墓もここにあるんだ。絶対に倒してみせるよ」


 


 女王が立ち上がる。それだけで胸に熱がこもる。


 みんなとなら今回だって乗り超えられる。そんな気がした。


 

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