-2-
現場に急行すれば、なぜか覚醒したような状態の魔法少女の武器を持つ千葉くんと、民間人を守って倒れたのであろうB-01と、疲れと安堵で泥の中に腰を降ろした断頭がいる。
「遅いんだけど?」
「索敵は専門外。条件も悪かった」
私が魔法少女協会に提供しながら個人使用もしている観測魔術は、宇宙空間にて人工衛星のように地上を見下ろす魔術だ。天候が悪いと使えない。
魔法力を広げる探知系魔術は逆探知も楽なので、光学手法で観測したほうが安全なのだ。しかし、こういう時に使えない。今回は間に合ったが、次もそうなるとは言えないので、作ることも検討しよう。
それよりも、厄介な問題が目の前にあった。
千葉くんの手にある魔法武器。それも魔法力を使って発現している状態だ。
私の脳内魔法少女一覧にも該当する項目があり、元の使用者は死んでいる。つまり、千葉くんの手で魔法力を行使したのだろう。同時に、私が妙に千葉くんが気になる理由もわかった。そこにいたんだね……。
可能なら千葉くんであろうとも秘密裏に処分するのだが、ここにはB-01と断頭もいる。個人的な感情でも、できれば彼を殺したくはない。
厄介なのがB-01だ。これを放置すれば政府に知れ渡ることになる。
少しだけ悩むような素振りをしてから、対処を口にする。
「君は魔法少女?」
「はぁ!? どうみても男だろうが!」
「そう……」
まあ、実は女の子でしたとはならないか。
「魔法少女協会本部に連絡する。とりあえず身柄は確保させてもらう《ウルフズベイン》」
対生物用毒魔術を使う。基本的にはシュバルツドルヒに付与して切り裂くのだが、怪我させる訳にもいかないので、液体をかける。
「なっ!? あ、が……」
昏倒する千葉くん。ついでにシュバルツドルヒをB-01の顔の真横に投げ付ける。
「うわわわっ!?」
来たときには意識を取り戻していた魔法少女は、慌ててゴロゴロと全身を泥に塗れさせながら転がった。
「アンタ起きてたのかよ!」
「ど、どうも……へへっ」
気まずそうに起き上がるシスター。手元に戻ってくるシュバルツドルヒを掴み取り、適当に胸に突き立てて中にしまい込む。
魔法武器の出し入れは人によって様々だ。出しっぱなしで鞘があるタイプもいれば、私のように消したり出したりできるタイプもいる。私の場合は、シュバルツドルヒは胸に突き立てるか首に当てて中にしまうことができる。出すときは手元が光って自動的に握られる。ヴァイスシルトは適当にどこからともなく出し入れ可能なのだが。
「……で、どうするのですか? この男は」
「可能性だけは指摘されていたレアケースが発生した。魔法少女協会に連絡して判断を仰ぐ」
千葉くんをファイヤーマンズキャリーで担ぎ上げる。
「あの怪人はどうする?」
「人手が足りない。追いかけて倒すのは簡単。でも、この場にいる全員が自衛もままならない」
今からでも追いかけて倒すことはできる。しかし、その隙にこっちが襲撃されたり何かあるといけないので、そのまま逃がすしかない。
「早く合流する。集合場所なら雨風をしのげるから、とりあえず暖を取らせないと」
既に千葉くんの体は冷え切っている。
私も集合約束時間を五分は超えているので、早めに戻らないとまずい。
「くそっ……強くならないとな」
悔しそうに俯く断頭。
命を繋げただけ立派だ。そう励ましたかったが、ただ静かに空を飛んだ。
雨音が耳朶を叩く。雫が下に見える濁流に飲み込まれていった。




