twilight star
一人の男が大地に寝そべっていた。
ゴツゴツしている事も気にせず、ただ空を見ていた。
内戦の続く国にカメラを持って男は身を置いていた。自分の国に男は妻と子どもを残し、戦地に向かった。
『俺はこの仕事をやめる気が無い。いつか死ぬかも知れない男だ。別れたければ言ってくれ』
いつだったか、こんな事を妻に言った。妻の幸せを願うからこそ言った言葉だった。
だが妻は微笑んで言った。
『私の幸せを願うなら、私を悲しませないことね』
その言葉に男は嬉しくもあり、辛くもあった。
妻の幸せは男の生死に掛かっていたから。もし自分が死んだ時は、この愛する女性を悲しませ、自分にはその悲しみを癒す事が出来ないから…
男は銃弾に倒れた。
逃げ惑う人々に混じりながら、カメラを持って辺りの様子を収めていた。
その時、男がカメラを向けてきた行為を見た兵士が、男に向け発砲したのだ。
撃たれた場所が即死に至らない場所だったが、出血が酷く、息も絶え絶えになっていた。
誰も男を助ける事をしない。助けたくても助けられないからだ。
仰向けに倒れた男を挟み、敵対する軍が撃ち合いを始めたからだ。
うつろな目の男は、銃弾の飛び交う夕暮れの空をぼんやり見つめていた。
飛び交う銃弾が少し光を帯びた残像を残し、夕暮れの空に浮かび上がった。
(綺麗だ…)
それはまるで流星群のように目の前を飛び交っていた。
(せめてこの光景を愛する妻に見せたい、私の死を悲しまないでくれ)
その想いだけでカメラを空に向けた。
一人の女性がある写真を手に取り見ていた。
その写真には男が最後に見たのと同じ光景が写っていた。
女性はそれを見て大粒の涙を流しながら微笑んでいた。