異変
昼食を食べ終えた僕たちはお父さんの知り合いだという人との待ち合わせ場所であるリンゲル高原に向かう為足を進めていた。
僕がボーっとしながら歩いているとふいにレナから声をかけられた。
「いきなりなんですけど、シオンくんは大人になったら何になりたいんですか?」
ほんとにいきなりだなぁ・・・。
恐らくレナなりに僕と何か話したいと思ってくれての質問だろうから僕に出来る事はレナの気持ちにしっかりと答えてあげる事だ。
「うーん・・・一応はお父さんと同じ騎士団に入りたいとは思っているけど・・・とりあえず入学試験を突破して学園に入学することができてからかな」
この世界は魔法というものが存在する。これはどの種族も関係なく使えるが、使える事が出来る者は限られておりそれぞれの種族によって特徴が異なっているのだ。
竜族は火属性魔法にとことん強い。恐らく他の種族の火属性魔法では竜族に太刀打ちできないだろう。
でもそんな竜族にも欠点というものは存在するのだ。彼らはひとつひとつの魔法のレベルは高いが使える魔法の種類が少ないらしい。しかし、火力が高いのはもちろん彼らは皮膚がとてつもなく硬いため一般の兵士でさえ防御力が高く他の種族からしたら覚えることが出来る魔法の種類・数の少なさ程度のアドバンテージは無いに等しいみたいだ。
そして次は魔人族だ。魔人族は闇属性魔法に特化している。この闇魔法もとても強力で厄介なのだが、一番の脅威は魔人族の中で魔法が使える者の中でも一部の魔人しか使えないという召喚魔法だ。
この召喚で出てくる魔物は野生にいるようなものでは無く、魔人族に伝わる伝承記らしきものに記されている魔物と契約しているらしくかなり強力で凶暴なものなので他の種族も苦戦を強いられている。
次はエルフ族について。エルフ族はどの属性に特化しているというわけではなく、全属性の魔法を高水準で放つことが出来る。それにエルフ族のみ全員が魔力を有しており、皆が魔法を使用可能だ。
ただそんなエルフ族にも欠点はある。
それは種族の人口が少ないという点、なんだけど・・・。
確かに争いにおいて数の力は強大だ。だけどそれを補っても余り有る魔力量と洗練された戦い方を駆使する事でエルフ族は数での利をこちらには全く感じさない。むしろエルフ族は一人一人の寿命がとても長いので兵の練度がとてつもなく高くとても強力な種族らしい。
そして最後は人間族・・・と思ったのだがレナが何やら不思議そうにこちらをみている、続きは今度にしようか。
「れ、レナどうしたの?」
「いえ、先ほどからシオンくんがどこかみながらブツブツと喋ってらして気になりましたので・・・」
「そ、そうかな?気にしなくていいよ」
「そうですか?」
「う、うん。そんなことよりレナは何になりたいの?」
僕はなんとか誤魔化すためにレナに尋ねてみた。
「私はシオンくんと同じ道を歩みたいと思っています」
「え?」
「私はあの時シオンくんと家族の皆様に助けていただいた日よりずっとあなた方と一緒に居ること、力になれることを、と思っておりますから!」
レナはすぐに照れてしまう事が多いがこうして言ってくれる時はしっかり言うので聴く度に嬉しいしなんかむず痒くなってくる。
「レナ・・・」
「ありがとう まだまだ力不足のこんな僕だけどいつか強くなって君をちゃんと自分の手で守ることが出来るようになるからね」
「ありがとうございます!」
「でも、守られるだけなのも嫌なので私もシオンくんを守れるくらいに強くなれるよう頑張ります!」
レナは涙ぐみながらそう言ってくれた。
こうして友情?絆?を再確認し合った僕たちは気合いを入れ直してリンゲル高原への道を急いだ。
────リンゲル高原────
「つ、着いたぁー」
太陽が山の向こうへと沈み始めたころ、僕たちはようやくリンゲル高原へと辿り着いた。
「お疲れ様ですシオンくん」
「ありがとう、レナは大丈夫?」
「はい!久しぶりに来ることができたのもあってむしろ楽しかったです」
そう言ってレナは微笑んだ。
「じゃあ、あそこにある湖のそばで待ってようか」
「はい」
こうして僕たちは湖のほとりにある以前家族でピクニックに来た際に作っておいたベンチに腰を下ろした。
「シオンくんは昨夜おじさんが言っていたあの竜のことはどう思いますか?」
僕がベンチに座り呆けていると不意にレナからそんな事を尋ねられた。
「うーん話で聞いているだけでも凄いって言うのはわかるんだけど、やっぱり実際にみてみないと分からないかなぁ」
「そうですよね・・・」
「とりあえず今はこの平和な日常が続いてくれればそれでいいかな」
「私もそう思います」
僕が噛み締めたようにそう言うとレナは頬を赤らめながら恥ずかしそうに呟いた。
そんなレナをみて僕も照れ臭くなって顔を背けようとした時、突然何かが頭の中をよぎり気づけば僕は無意識に言葉を発していた。
「でも・・・」
「平和な日常なんてそう簡単に続くわけがないし、歯車ってのはたったひとつ何かがズレたり壊れたりするだけで全て狂っていくこと位僕は既に知っているはずなのに・・・」
「シオンくん・・・?」
「あれっ?今・・・僕は何を・・・」
その時・・・。
ドゴォォォオォンーー!!
上空のどこかから、この世の終わりを告げるような激しい雷鳴が轟いて、大地を震わせた。
「シ、シオンくん!これは!」
「これは雷か?いや、でもこんな激しい雷なんて今まで一度も」
そう僕が思案していると、
ゴ、ゴゴゴロ、ゴロ、ゴゴー!
地震だ!なんだこの揺れの強さは!?
やばいな、立ってられないぞ・・・!
「レナッ!大丈夫か!?とりあえずベンチに掴まって・・・」
僕はそう言いながらレナの方をみた。
「レ・・・ナ・・・?」
何故か僕の方を向いたまま呆然として立っていた。口をパクパクさせ、何かを伝えようとしているがその口から出てくるのは声になりそうもない掠れた吐息だけだった。
僕の後ろに何かいるのか?いや、違うなレナがみているのは・・・
そう思って僕は恐る恐る振り返り顔を上げ、目に入ってきた光景に戦慄した。
漆黒の雲が渦巻き、雷鳴も鳴り響いている。
そしてその渦の中からみえるものは・・・。
どんな獣でも睨まれれば一瞬で逃げ出すであろう鋭い目に、赤黒く光っている鱗、そして噛み付かれてしまえばどんなものでも豆腐のように簡単に砕け散ってしまいそうな程の牙、獅子のように大きく裂けている口・・・
頭にはとてつもなく大きな角と神を汚す名が深く刻まれた冠を持った竜が顔を覗かせていた。