アレナド家
山菜採りを終えた僕はレナと楽しく会話しているうちに気付けば家に辿り着いていた。
「「ただいまぁー」」
僕たちがいつも通り帰りの挨拶をすると台所の方からパタパタと足音を鳴らしながら一人の女性がやってきた。
「お帰りなさいシオン。今日も山菜はちゃんと採れた?」
「うん!今日も沢山採れたよお母さん!」
この女性は僕のお母さんで
名前はシーナ・アレナドという。僕と同じ金色の髪を腰の辺りまで伸ばしており、すごく料理が上手でとても優しい僕の自慢で大好きなお母さんだ。
「レナもシオンを迎えに行ってくれてありがとうね」
「いえいえ。おばさんのお願いなら何でも聞きます!」
「あーもうっ!ほんとに可愛いわね!」
お母さんはそう言ってレナを抱きしめると優しい手つきで頭を撫で始める。
「お、おばさん?」
「んー?どうしたのレナ?」
「いえ、ちょっと恥ずかしいというか」
「なにぃ、照れちゃったの?」
「も、もうおばさん!」
この光景を目にしたらわかるようにお母さんはレナを本当の娘のように溺愛している。姉さんの事も可愛がっているのだがレナは姉さんと違ってお淑やかで癒されるようなホワホワとした雰囲気をしているThe・女の子という感じでついつい可愛がりたくなってしまうのだ。
僕達がこんな感じで戯れていると今度は階段からドタドタと荒々しい足音と共にレナとは正反対の性格をした少女が降りてきた。
「レーナー?理由はそれだけ?」
「姉さん!」
彼女の名はリーナ・アレナドといい僕の五つ上の姉だ。綺麗な黒髪は父親譲りで後ろで結んでいる。誰にでも物怖じする事無く向かっていく結構・・・いや、かなり勝気な性格だ。
「・・・リーナお姉ちゃんそれはどういう意味ですか?」
ちなみにレナは姉さんの事をリーナお姉ちゃんと呼んでいる。始めの頃はリーナさんと呼ぼうとしていたが、姉さんのゴリ押しでお姉ちゃんを付けるようになっていた。
姉さんいわく妹に憧れていたらしい。最初は恥ずかしがっていたレナも以前は一人っ子だったからお姉ちゃんが出来たみたいだと、とても嬉しそうにしているので僕は心の中で姉さんに感謝の意味を込めて親指を立てておいた。
「意味ってねぇ・・・・・・」
何故か姉さんは一瞬僕の方を向いた後、意味ありげにニヤリとした笑みを浮かべ言った。
「レナにとって愛しの我が弟であるシオンを迎えに行きたかっ」
「わぁーーー わぁーーーー!」
突然レナが叫びだした。急にどうしたんだ?
「レナ?」
「シ、シ、シオンくん今のは!」
「あらあらレナったらなにをそんなに慌てているのかしら?」
「もう、リーナお姉ちゃん!変な事言わないでください!」
「変な事?じゃあレナはシオンの事は別に好きじゃないって事かな?」
「違いますよ!私はシオンくんの事が好きです!」
「ほほぉーう?お姉ちゃんは嬉しいよ。こんな熱い告白を間近で見られるなんてね」
「あっ。シオンくん!い、今のもち、違くて・・・そうです!これは言葉の綾ってやつなんです!」
真っ赤になりながら両手を大きく振り回し必死に何かを誤魔化そうとしている。
「安心して、僕だってレナのこと好きだよ?」
「えぇぇーーー!そ、それってまさか・・・」
「そりゃあレナは僕たち家族の一員だし、
大切な妹みたいなもんなんだから当たり前でしょ」
僕が揺らぐ事は無い確固たる事実であるという風に言うと、
「・・・そうですよね・・・シオンくんはそういう人・・・いや、嬉しいし、そういうところも好きなんですけどね・・・・・・」
レナがショックを受けたようにして項垂れていた。
「レ、レナ?」
「可哀想に我が妹よ。こんな鈍い弟ですまんな」
「大丈夫ですリーナお姉ちゃん、もう慣れましたから」
「ね、姉さん・・・レナ・・・それっていったい」
僕がそう言いかけたとき、
「はいはい、あなたたち話もそれくらいにしてシオンとレナは手を洗ってきなさい」
「リーナもはやく食器を並べるわよ」
「「「はーい」」」
お母さんに促されたので、とりあえず僕たちは山菜をしまって手を洗いに行く事にした。
「「「「「いただきます」」」」」
あれから手を洗い山菜もしまった僕たちはお母さんに夕飯の準備が整ったから来なさいと呼ばれた。
そして食事前の挨拶をし夕飯を食べ始め僕がまずはスープから飲もうと器に手を添えた際に話しかけられた。
「シオン、今日もしっかり山菜を採れたらしいな」
「うんお父さん。流石にもう二年くらいはやってるからね」
この人はリゲル・アレナド。僕のお父さんだ。
お父さんはバルハン王国騎士団で十師団あるうちの第八師団の団長を務めているとても強くてかっこいい僕の尊敬し目標である人だ!。
普段は王国にいて王都の警護や戦争に行っているけどここ数日は休暇を貰ったらしく家に帰ってきている。
「そう言うな。最近国境警備やらで帰れなかったからね、ようやく会えたのもあって余計に成長を感じるんだよ」
「そうなの?」
「ああ、リーナなんてどんどんガサツになっている気がするしな」
「ちょっとお父さん!それどういうことよ!」
姉さんがそれは聞き捨てならないと立ち上がった。
「はっはっは、冗談だよ」
「リーナ落ち着きなさい?そういうところよ。フフッ」
「も、もぅ・・・」
お父さんとお母さんにからかわれ姉さんは赤面したまま静かに座り直した。僕も最近姉さんはどんどん色んな方面で荒くなっていると思うがここで何か言うと爆発しそうなので心の中に留めておくことにした。
「レナちゃんもほんとに可愛くなったな」
「そ、そんなおじさん私なんて・・・」
「いやいやほんとほんと、シオンの嫁にほしいくらいだよ」
「お、お、お、おじ、じさん!?それは」
レナの顔が一瞬で真っ赤に染め上がる。
レナが困っているなここはひとつ助け舟をだそう!
「お父さん何言ってるんだよ。冗談にしてもあまり面白くないよ、ねぇレナ?」
僕がお父さんを窘めると、レナがキョトンとした後に頬をプクーっと膨らませて不機嫌になった。
「え?・・・シオンくんのバカ」
あれ?なんか悪口を言われたような。
「あぁ、ほんっとにこの鈍感男は・・・」
「何でこんなに鈍感に育っちゃったのかしらねぇ」
「ははっ、いつみてもシオンの鈍感さとそれに振り回されるレナちゃんの掛け合いは面白いな」
なんだろう・・・ものすごくいたたまれなくなってきた。みんなして鈍感、鈍感って一体僕のどこをみたらその考えになるのか理解できない!
自分で言うのもなんだが僕は結構周りに気を使えるタイプの人間だと思ってるんだけどみんなの認識とはズレがあったようだ。
そんなことを考えているとさっきまで僕に呆れていたお母さんが何かを思い出したのかハッとして目を見開いた後顔を俯かせた。
するとその直後辺りに重い空気が漂いだした。
みんながビクッと背筋を震わせてお母さんの方に視線を向けるとお母さんの背後で青い炎がメラメラと燃え盛っていた。
お母さんは魔法使えないはずなんだけどな・・・
この世界はエルフ族を除いてみんながみんな魔法を使えるわけではなく、魔法を使える者は限られている
のだ。そして人間族ではその限られた者がお父さんのように王国騎士団に入り国を守っている。
おっと、いよいよ荒ぶるお母さんが口を開いたようだ。
「そういえば」
「あなた、さっきからレナに可愛い可愛いって一体どういうつもり?まさかレナのこと口説いてるんじゃないでしょうねぇ」
お母さんの眉間にシワが寄せられ、額には青筋がたっている。いつもは綺麗で優しくて大好きなお母さんだが、この状態のお母さんは控え目に言ってかなり面倒くさい。
周りをみてみると姉さんはまたか、という顔をして頭に手を置いている。
レナはというとアタフタしてお父さんとお母さんを交互にみている。
そんな二人を横目に僕もどうしようかと悩んでいると遂にお父さんが動いた。
「いやいやそんな口説くだなんて、そんなこと自分の可愛い娘同然の子にするわけないだろ?」
「で、でも!ほんとにレナは優しいし可愛いらしいしまだ若いから・・・」
「そ、それに・・・」
「どうした?」
「わ、私はまだあなたがこの家に帰ってきてから可愛いとか言ってもらってない・・・」
「ははっ、なんだそんな事か」
「そんな事ってなによ!私にとっては一大事なの!」
「うん、そうだよね。ごめんねシーナ」
「私こそごめんなさい。少し熱くなりすぎたわ」
「君は謝らなくて良い。これに関しては僕が悪かったよ」
お父さんはそう言ってお母さんの頬に手を添えた。
「シーナはまだ全然若いし、凄く可愛いよ。僕が情けなかったらすぐ誰かに取られちゃうんじゃないかっていつも心配するくらいにね」
「あ、あなたったら・・・べ、別にそんな私なんてもう若くないしそれに私はこれまでもこれからもあなた一筋よ!」
「うん、そうだねありがとう。僕もずっとシーナ一筋だよ」
「あなたもありがとう。凄く嬉しかったわ」
「ほんとに世界で一番綺麗だよシーナ。愛してる」
「私もよ。愛してるわリゲル」
お互いに愛を囁き合って二人は抱き合った。
・・・一体子供の前で何をしているんだろうこの親たちは。
お父さんが帰ってきたらいつもこんな感じで時と場所を選ばずにイチャつき出すからとても困る。
しかし、お父さんもお母さんも離れ離れで寂しいのはわかってるし僕たちも両親の仲が良いのは嬉しいので何も言わない事にしている。
再び周りをみてみれば姉さんは呆れてスープを飲んでおり、レナは顔を真っ赤にして俯きながら
「いつか・・・私も・・・シオンくんと・・・・・・・・・」
とニヤニヤしたがら言ってるような気がしたが気のせいだという事にしておいた。
そんな感じで家族揃っての楽しい夕食の時間は続いていった。