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絶零のアポカリプス~君と手をとる異世界平定~  作者: 他仲 波瑠都
第3章 剣聖祭
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剣聖祭

天導暦822年 4月中旬


剣術の稽古に魔法の授業そして座学などおれたちは日々、魔法騎士になるための研鑽に励んでいた。


そんな中、俺たちにはある国をあげて開催されるビッグイベントが迫っていた。


その名も「剣聖祭」


これは騎士学園の生徒によって学年など関係なく混合で行われる武闘大会で、前世みたいに野球やサッカーといったスポーツによる娯楽が少ないこの異世界では大変人気な催しであり、国中からこぞって人が観戦しに来る、言わばオリンピックのようなものだ。


当日には会場周辺に屋台が立ち並び、たくさんの市民で溢れかえる。


そして大会は一週間ほどをかけて行われて、その盛況ぶりは、毎試合チケットが即完売で観客同士の奪い合いが始まったり、暴動が起きて騎士団がそれを鎮めるという、エル・クラシコもびっくりの賑わいっぷりだ。


でだ、この剣聖祭ってのは俺たちにとってはものすごーく、大事なアピールポイントなんだよ。


理由は簡単、この大会には毎年必ず王国騎士団の十師団・団長全てが俺たちの品定めの為に観戦しに来るのだ。


優秀な人材を確保して自分の団を強くするにはこの剣聖祭という場が団員スカウトにはうってつけの場だったりするし、俺たちも直接団長たちに自分を売り出す絶好の機会であるから、お互いにとって凄くwin-winなんだ。


ただ全学年合同ってのもあってやはり有利なのは上級生、特に三年生だ。


卒業を控える彼らは何としても将来を安泰させるべく死に物狂いで下級生とか容赦なく挑んでくる。


その結果、例年の殆どが上位に食い込むのは上級生であり、二年生、ましてや入学したての一年生が勝ち進むのは極めて稀なことだ・・・例年なら、ばね。


今年に限ってはその例年通りが通用しないと貴族同士の、そして市民同士の賭博の席で話題になっているらしい。


原因はやっぱり四大公爵家の跡取りたちが出場するってことだ。


彼らのレベルの高さは市民にすら知れ渡っており、今年は例年以上の白熱した試合が観れると盛り上がりまくっているようで、最近上級生の俺たちに向ける視線が妙に険しいのはきっとそのせいだろう。


と、以上が今教室でロッドさんが説明している事の要点をまとめたものだ。


「─────だ。質問がある者はおるか?」

「はい!」

「む?セイランくん、なんだね?」


質疑応答の時間を取ったらすかさずにセイランが挙手をした。


「トーナメントでは魔法騎士科と騎士科は別で行われるのでしょうか?」

「うむ、良い質問だ」


ロッドさんがちょび髭を弄りながら言う。


「君の予想通り、魔法騎士科と騎士科は別で開催されるのだ。魔法を使える者とそうでない者とでは戦いの形式に決定的な違いが生じるからね」

「ありがとうございます」


そう言ってセイランは納得した。


考えてみたらセイランは王族なわけだし今まで飽きるくらいに剣聖祭には出席してたと思うんだけど、恐らく気を使ってくれたのかな?


皆が質問しやすい空気を作る、王族たる所以か。


「じゃあ、私も!」

「レナくんか、良かろう、何でも聞きなさい」


次はレナが質問した。


「はい!知りたいのは戦うときの魔法の使用の有無と、武器は用意されるのか持参するのか、です!」

「これまた良い質問だな」

「まずは魔法の有無についてだがこれは勿論、魔法騎士を目指す者の勝負な為使用可能だぞ」

「へぇー、そうだったんだぁ」


ノーランがどこかで聞いた事あるような返事をする。


「武器に関しては持参してもこちらの用意した物でもどちらでも構わない。加えて剣に拘らず自分の扱いやすい武器を選んでも良いぞ」

「おぉ!結構自由にやっていいもんなんだな」

「そうだ。自分の持てる力の全てを出しなさい」

「最後に、組み合わせは明日の正午に学園の講堂に貼り出されるので各自で確認しておけよ」


そう言ってロッドさんは会議があるらしくきょあを出ていった。


「なぁ、シオン。楽しみだな!」


俺の前に座るノーランが後ろに振り返って食い気味に話しかけてくる。


「たしかに楽しみだけども、ノーランは随分と気合いが入ってるね」

「まぁな、俺は祭りごとに目がない人間でね、剣聖祭なんか俺の大好物ってもんさ」

「だろうね、見るからに好きそうだもん」

「それに・・・」

「ん?」

「他の貴族を見返すにはこの大会はうってつけだからな・・・」


そう言って彼は思い詰めたよう表情で俯く。


辛い過去の一つや二つ誰にだってある。


彼だっていろいろと辛い経験を経て、今この場にいるのだ。


本来ならここから親友ポジションキャラのイベントに入るのだろう、しかしまだその時ではないと思った俺は深く詮索はしないでおくことにした。


「へ、へぇー・・・」

「・・・」


流れる微妙に重たい空気。


前方からの、聞けよオラ!、といったような圧力を感じつつもスルーを決め込んでいる俺。


そんな居た堪れない気分で苦笑いを浮かべる俺にようやく救世主が現れた。


「シオンくん!そろそろ帰りましょう!」

「レナ!ありがとう、助かった!」


笑顔で駆け寄ってきた可愛らしい彼女に応え、お礼を言った俺。


急に貰った感謝の言葉に心当たりの無い彼女は首を傾げる。


「はい?」

「な、何でもないよ!早く帰ろうか!」

「むっ!怪しいですよシオンくん!また何かしでかしたのではないですか!?」

「”また︎︎”ってなんだよ、またって・・・」

「やっぱりシオンくんは自覚が足らないようですね。私がどれだけ──────」


レナの説教タイムが始まる。


こうなった彼女はとことん長い、早々に切り上げなければ日が暮れてしまうだろう。


「レナ!今一番欲しい物ってある?」

「えっ?欲しい物ですか、そうですね・・・あっ!ありますあります、新しいお洋服がもう二、三着欲しいかなーって」

「よし、レナが欲しい服好きなだけ買ってあげるよ!」

「いいんですか!?」

「任せなさい!それじゃ早速デパートへ行こう!」

「はい!では先に校門で待ってます!遅れちゃ嫌ですよ?」

「ははっ、善処するよ」


上手く誤魔化されてくれた彼女は意気揚々と教室を飛び出すと、肩で風を切りながら校門へと駆けていった。


ルンルンでスキップしてしまいそうなレナを見送った俺は親友のフォローに取り掛かる。


「じゃあな、ノーラン!あまり気負いすぎるなよ!」

「おう、俺のことはいいからさっさと彼女に構ってやれ。また拗ねちまうぞ?」

「余計なお世話だ、今行くよ」

「そうしてやれ」


俺が教室の扉に手をかけたときノーランが呼び止める。


「シオン!」

「うん?」

「その、なんだ・・・ありがとな!少し楽になったよ」

「気にすんな、辛い時はお互い助け合っていこうな」

「ぶふっ!それが男に吐くセリフか?」

「それ言われると急に気持ち悪くなるからやめろ!とにかく明日な!」

「じゃあな!」


こうして俺は前世では味わえなかった青春を身に染み込ませ教室を後にした。


そして余談なのだが、この後デパートでは三時間ほど彼女のファッションショーに付き合わされた挙句、入った洋服店の品揃えを大変お気に召した彼女は、計五着の洋服をお買い上げになられ、俺の財布の中には早くも冬が訪れたのでした。

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