王都デート!
雲一つない晴れ渡る青空が眩しい。
昨日のレナとの約束を果たすべく、バルハン王国・王都の中心地である王立リーデン記念公園にある噴水前でレナを待っていた。
何で同じ宿なのに待ち合わせなんてしてるのかというと、彼女からの強い要望を受けたからである。
「恋人っぽく待ち合わせしたいだなんて・・・」
俺はボソりと呟くと昨日の会話を思い出した。
・・・
「え?別々に宿を出たい?」
「はい、それで何処か目印になる場所で待ち合わせなんかしたいなって」
レナの提案に俺は首を傾げる。
「何で?一緒に出発した方が良くない?」
「そ、それはそうなんですけど・・・」
「じゃあ」
「あっ・・・」
レナが肩を落として悲しそうな顔をした。
「どうしたの?」
「・・・」
「レナ、理由を言ってくれたらちゃんと聞くからさ。ゆっくりでいいからレナのやりたいこと、考えてること教えてほしいな?」
「シオンくん!・・・ありがとうございます」
レナは一度大きく深呼吸をするとゆっくりと口を開きわけを話した。
「あ、あの!私も、街にいる女の子みたいに男の子と待ち合わせをして、そ、そので、デートっぽいものを経験したいなぁって・・・」
「なっ!」
「ダメですか・・・?」
目尻に涙をためて上目遣いで俺を見つめるレナ。
俺は彼女のこの仕草に滅法弱い。
まぁ、俺じゃなくたって好きな人にこんな可愛らしいお願いをされたら叶えてあげるのが男の役目だろ!
「うん、わかったよ。レナの言う通り待ち合わせにしよう」
「い、いいんですか!?」
「うん」
「やったぁー!すっごく嬉しい!シオンくん大好きです!」
パっと表情を綻ばせて喜びを爆発させるレナ。
「あはは、喜んでもらえて何よりだよ」
「はい!目いっぱいオシャレしてきますね!」
「それは楽しみだな」
「ふふ」
・・・
と、いった経緯があり現在に至るのだ。
そんなこんなでレナを待っているのだがなかなか姿を見せない。
十中八九またナンパでもされているんだろう。
このナンパに対して本人はかなり嫌悪感を抱いているみたいだけど、そもそもの話レナの容姿からして声が掛けられないというのがまず無理な話なのだ。
髪の毛は昔よりも伸びて腰の辺りまである綺麗な銀髪ロング、顔立ちは超・超・美人で可愛さも兼ね備えている。
体型は華奢なのに出る所は出ており所謂、巨乳だ。
そして青色の瞳と艶のある銀色の髪、俺の理想のヒロイン像を全て併せ持ち体現したような女の子が彼女、レナ・コーリングへの俺からの評価だ。
本人も自分の容姿のレベルの高さについては多少よ自覚はあるみたいでこの前なんか、
「誰かさんに綺麗って思っていただけるように自分磨きは絶対に怠りません!」
と俺に対して宣言していた。
彼らと同じ男としてこんなに綺麗な子が一人でいたら声を掛けたくなる気持ちもわからんでもない、だから彼女に負けないように俺も努力をして彼女に釣り合う男になると決めている。
それで、だ。
話は変わるんだけど今日、遂に俺は彼女に告白をしようと決意してこの場にやってきたのだ。
俺が告白を決めたのには理由が幾つかあるんだ。
彼女と恋人になって学園生活を送りたい。
今まで何も言葉にしてあげていなかったから早く関係をハッキリさせて彼女を安心させたい。彼女があれだけアプローチして全面的に愛情を表現してくれているんだ、決めるべきところは男の俺が引っ張って彼女をリードしたい。
そして最近やたらハーランさんと彼の恋人であるブリューネ・レイズさん、それから当の本人であるレナさんからの無言の圧力に屈したからであった。
まぁ、とりあえずそんな感じなんだよ。
・・・それにしても、レナ遅いなぁ。
と、俺が考えていたその時。
「シオンくーん!お待たせしました!」
「ううん、俺も今来たばっかり・・・っ!!」
待ち人がようやく到着したようで声を掛けられたので振り返った俺は彼女の姿を見るなり、固まってしまった。
「あのぉ・・・ど、どうでしょうか・・・?」
固まっている俺を他所にレナは後ろで腕を組むとモジモジと照れくさそうに多分服装の評価を求めた。
「あ、あぁ!えっとね・・・」
レナの声に意識を取り戻した俺は改めて今日のレナのコーデを上から下までじっくりと眺める。
彼女は露出度の高い服はあまり好まない傾向にあるので今日とてそれは同様だった。
青を基調としたゆったり目のワンピースを着こなし、首には俺がだいぶん前にプレゼントしたネックレスをかけていた。
髪型は普段は下ろしているのだけなのだが今日に限っては編み込みを入れたり髪を後ろで結んだりしてハーフアップ、二次元の女の子にありがちだったお嬢様ヘアーだった。
「・・・やばい」
「え?」
「マジでめちゃくっちゃ!似合ってるし可愛いよ!」
「っ!えへへ、ありがとうございます!シオンくんもかっこいいですよ!」
そう言って頬を染めたレナが俺のことを褒めてくれる。
レナが髪型をセットしてきたように俺も今日は一大決戦の日とあって俺も気合を入れて髪型のセットをしてきたのだ。
普段下ろすだけで何もしていない前髪を六:四くらいの割合で分けて片方を上げる前世で流行っていたアップバンクという髪型だ。
斎藤雄也の時は美容院に行っても動画を真似てセットしてみても悲しい事に自分で笑う程に全然似合わなかった。
しかし、このシオン・アレナドならどんな髪型でも映えるのだ!
サンキュー!女神!
「はは、そう言ってもらえて良かったよ。それじゃ時間も惜しい、行こうか」
「はい!エスコートよろしくです!」
「はいはい、任されました」
おどけて言ってみせるとレナも笑ってくれて和やかな空気が流れる。
そして俺たちは手を繋ぐと期待と少しばかりの緊張を胸に歩き出したのであった。
────
「シオンくん!そろそろお昼にしませんか?」
「あ、そうだね。お腹も空いてきたことだしそろそろか」
あれから俺たちは公演を散策した後、王都の美術館に赴き二人であーだこーだ言いながら楽しく美術鑑賞をしていた。
そして最後の美術品を鑑賞し終えたところでレナが昼食を取ろうと提案してきたので俺も彼女の提案にのって美術館と同じ建物内に併設された最近王都で人気だと言うカフェへと向かった。
「へぇー、内装かなり凝ってるなぁ」
「ですね、なんでもあの美術展に作品を展示している美術家の人がこのカフェのデザインに携わってるとかいないとか」
「なるほどね。・・・ん?それって結局携わってるの?」
「知らないです」
テヘッと舌を出して、いたずらっ子のように笑ったレナ。
あっ、今の可愛い。
「ははっ、レナが冗談言うなんて珍しいね」
「そうですかね?」
「うん、俺の知る限りではね」
「確かに・・・。多分シオンくんとのデ、デートが楽しすぎて浮かれちゃってるんですよ」
俺の理性のライフが三十ポイント程削られた。
「そ、そうか、と、とりあえず何か注文しよう」
「はい!」
「すみませーん、注文お願いします!」
片手を上げ店員さんを呼びそれぞれ気になった物の注文を完了すると、雑談をしながら料理が運ばれるのを待った。
「お待たせしました!ハンバーグランチと旬の魚のムニエルランチでございます」
「わぁ!美味しそう!」
「ほんとだね」
俺たちが雑談に花を咲かせているといよいよ注文した料理が運ばれてきた。
レナがムニエルのランチで俺がハンバーグランチだ。
「それじゃあ料理が来たことですし」
「うん」
「「いただきます!」」
二人で手を合わせて食前の挨拶をする。
これだけは毎回欠かさないようにとお母さんからの教えなので俺たちは忠実に守り実行しているのだ。
「うーん!このお魚、身が柔らかくて美味しいです!」
「それは良かった」
「シオンくんも一口食べますか?」
「え?いいの?」
「はい!勿論です!」
そう言ってニッコリ笑うとレナは魚を箸で少し大きめに分けると差し出してきた。
「えっ・・・」
「どうしました?」
レナが不思議そうに首を傾げる。
いやいやレナさんそれカップルが絶対にやることの一つ【⠀ア~ン 】じゃないっすか!?
えっ?良いんですか?周りに結構人いますけど?
そんなことを考えているとレナが
「あっ、もしかして私のじゃ嫌でしたかね?」
と、あらぬ誤解を生んでしまい彼女は落ち込んでしまった。
「いやいや!絶対にそんなことは有り得ないから!
ごめんね、少しぼーっとしてただけなんだよ。じ、じゃあ、有難く貰うね?」
「はい!どうぞ!」
何とか軌道修正に成功した俺は意を決してレナからのア~ンを受け入れた。
「おぉ!これ美味しいね!」
「ですよね!味付けもあっさり目で食べやすいですよ。勉強になります」
と、レナが言う。
「うん、美味しいっちゃ美味しいんだけど・・・」
「?」
「やっぱりレナの作る料理の方が圧倒的に俺は好きだな」
「ふぇっ!?」
俺の賛辞にレナが素っ頓狂な声をあげる。
実はハーランさんとの修行の日々の中で料理を担当していたのは彼女だった。
基本的に彼は外せない任務などで家を開けることが多かったし俺たちはハーランさんの同じ別荘でも別館の方で寝泊まりをしていたのだ。
それに彼のご飯はブリューネさんが用意してたからね。
その他にも、俺の料理の腕が壊滅的だったこと本人からこれだけは譲れないと鬼気迫る表情で直訴されたことも相まってのことだった。
そして見事に胃袋をがっしりと掴まれた俺は今ではどんな高級料理店よりも彼女の作る料理の方が美味しく感じるようにまでなっていた。
「も、もう!そんなに褒めたって何も出てきませんよ!」
「いや、本心で言ってるんだけど・・・」
「~ッ!そ、そういうところなんです!」
そう言うとレナはそっぽを向いて淡々と食べ進めた。
ちょっと気まずさを感じながら俺も止まっていた箸を動かして食事の時間が過ぎていった。
────
「お会計お願いします!」
「かしこまりました!只今お伺いします!」
何とか機嫌を直してくれたレナと再び雑談を交えて食事を終えた俺は店員さんを呼び会計の準備をしてもらっている。
「あの、シオンくん・・・」
「うん?」
レナが何やらよそよそしくしながら俺のことを呼んだ。
「どうしたの?」
「いえ、その・・・」
「あっ、会計のこと?それは気にしないで良いよ!ここは男の俺がもつからさ!」
いざ、男の甲斐性を示す時!
一応言っておくがあの試験会場での陰口を気にしているわけではないからな!
だけど俺のそんな考えは即座に否定された。
「違います!あっ、それに関しては凄く嬉しいですよ?だけど違うんです、そうじゃなくて・・・」
「え?」
「だから、その・・・・・・・・・いに・・・」
最後の方が聞き取れなかった俺はもう一度彼女に尋ねる。
「ん?」
「だから!お手洗いに行ってきます!ですから、シオンくんは先に外に出ててください!バカッ!!」
そう言ってレナは大声で用件を伝えると便所・・・化粧室へと走っていった。
そして取り残された俺は周囲のお客さん、それからあんなに丁寧で気さくな接客態度であった店員のお姉さんからの冷たい視線が刺さりまくったのであった。
────
不覚にも恐らくまたダメ男認定されたであろう俺は何とか店内を抜け出すと外で建物の壁に背を預けてレナを待っていた。
「ねぇ、君もしかして今一人?」
「はい?」
突然声を掛けられたので顔を上げるとそこには二人組のお姉さま方がおられた。
「良かったらさ、一緒にそこのカフェでお茶でもしない?」
「え、い、いや・・・えっとぉ・・・」
「あははっ、可愛い反応するね。大丈夫だよ、カフェ代は私たちが払うからさ」
ただ単に女性経験に乏しく、吃ってるいるだけなのにそれさえも好意的に捉えてくれる。
実はこういった逆ナンを経験したのは一度や二度じゃないんだ。
だけど俺はこの誘いに一回たりとものったことが無い。
なぜなら・・・。
「遅れてすみません。シオンくん」
「あっ、レナ!」
そう言ってレナはニコニコしながら俺の腕を抱え込む。
「あなた方は?私のシオンくんに何か御用ですか?」
「え、いや・・・な、なんでもないですよ!ちょっと道に迷っちゃったんで聞いてみただけですから!それじゃあ、ごゆっくり!」
「ま、待ってよ!」
そして彼女たちは引き攣った顔をして逃げるように去っていったのだった。
「レ、レナ?何か怒ってる?」
「いえ、別に怒ってないですよ?いつも通りの私です」
レナはお姉さま方が走っていった方向を睨みながら俺の問いに答えた。
「そ、そう?」
「はい!もう大丈夫なので、気も取り直して早く行きましょう!」
「なら良かった」
「次は、お洋服を見たいです!」
「わかったよ。服ね、じゃあここからだとデパートの中にある洋服店が一番近いな」
こうして睨んでいた事に関してはサラッと流して午後のデートを楽しむために俺たちは洋服店も出店しているデパートに向かった。




