試験開始まで
セイランと別れて受け付けを済ませた俺はすっかり拗ねてしまったレナに連行され、校内にあるベンチに腰をかけていた。
そして俺はというと絶賛彼女のご機嫌取りの真っ最中である。
「悪かったって、レナ」
「・・・何が悪かったかわかってないくせに」
「うっ・・・いや、待ってくれ。流石の俺でも無神経過ぎたって事くらいは理解しているつもりだ」
「いえ、私は別に怒ってないんですよ?確かにセイランちゃんは女の私から見ても凄く綺麗で可愛いし、とても優しい良い子ですもんね」
「・・・」
「シオンくんが思わず見蕩れちゃうのも仕方ないです」
そう言ってレナは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
ついさっきまでは女の子の可愛い仕草の一つと思っていたけど、いざ面と向かって体験すると何故か行き場の無い罪悪感に駆られる。
それからちょっとだけ面倒臭いと思ったのはここだけの秘密だ。
こうなってしまってはいくら謝ったとてあまり効果は望めずに時間だけが経過するだろう。
謝っても進展無し、ならばここは大きく路線変更をしよう。
「そうだね。レナの言う通りセイランに見蕩れてしまったのは事実だよ」
「ほら、やっぱり・・・」
レナがシュンと肩を落とす。
「でもね、レナは大きな勘違いをしている」
「勘違いですか?」
「うん、まずは第一に男に産まれたからには綺麗な人を目で追ってしまうのはどうか許して欲しい」
「・・・」
「だけど俺が見蕩れてしまったのは彼女自身の容姿にじゃなくて、レナと仲良くしている彼女の姿に見蕩れていたんだ」
「私と・・・仲良くしているセイランに・・・?」
「そうだよ、俺の大事なパートナーであるレナとこれから仲良くしてくれる人が現れたことに物凄く嬉しくて舞い上がっちゃってね、ついつい眺めてしまったんだ」
「大事な・・・パートナー・・・!」
ボフッ。ラノベやアニメではこんな効果音がついてきそうな程にレナの顔は真っ赤に茹で上がった。
おっ、これは少しばかり逆転の兆しが見えてきたかな?
「そうそう、大事なパートナーだ。それに俺が女性に目を奪われたのは産まれてこのかた、ようやくこれが二回目の事なんだよ」
「二回目・・・、じ、じゃあ!一回目の女性は一体どなたなんですか?」
「聞きたい?」
「ぜ、ぜひ!」
「それはね・・・・・・君だよ」
「え?」
「レナなんだよ。あの日俺たちが初めて出会った時に一目でこんなに可愛い子が存在するんだ!って衝撃を受けてね。まるで頭に落雷が落ちたみたいだったなぁ」
「そ、そうなんですか」
「いやぁー、本当に嬉しいよ。レナみたいな可愛くてお淑やかな優しい女の子が俺の隣にいてくれるこの奇跡!俺の人生の中で一番の幸福だね」
「そ、そんな!私こそシオンくんと出会えたこのう、運命は一生私の宝物です・・・!」
レナが恥ずかしがりながらもウットリとした表情で俺に寄りかかってきた。
よし、ミッションクリアだな。
結果オーライなので良いんだけどはっきりと言えば自分でも何を言っているのかわからない。会話に脈絡など全く無いに等しく、ただ話題をすり替えてレナを褒めちぎっていただけだ。
それにセイランを美人だと言った件に関しては何一つ取り繕えてはいない。
でも実際に今述べたことは俺がレナに対して抱いてる想いをそのまま口にした形なので何も酷い事はしていない筈だ。
まぁレナを不安にさせたのは事実で心が傷んだし、一個お願いでも聞いてあげるかな。
「本当にごめんね?」
「いいんですよ、ちゃんとあなたの話を最後まで聞かなかった私にも落ち度はあります。それにシオンくんの気持ちを知れて嬉しかったので・・・」
「うーん、そう言ってくれるのは有難いんだけど・・・やっぱり俺の気が晴れないからさ、レナに提案があるんだけど」
「なんですか?」
「レナのしたいこと何でも一つだけ叶えてあげるよ」
「わぁ!本当ですか?ありがとうございます!」
満開の桜のように表情を綻ばせて笑顔になってくれた想い人をみると、こちらも心が温かくなる。
提案して良かったなと一人で頷いているとレナがおずおずと要望を口にした。
「で、では!明日シオンくんとこの王都で、デートしたいです!」
「明日か、試験も終わって暇だろうし・・・良いね!行こうか」
「はい!」
かくして俺とレナは明日のデートの約束をして円満に仲直り出来たのだった。
終わり良ければ全て良しってやつだね。
──────────
「これより入学者選抜試験を行う!私は本日の試験官を担当するロッド・スワンという者だ」
黒いちょび髭がチャームポイントのロッドさんが俺たち受験生とは向き合う形で挨拶をする。
あれから直ぐに集合をかけられた俺たちは指示通りに学園の運動場に向かった。
到着するとそこには既に百人以上の受験生が整列しており、急いで一番後ろの列に並んだ。そして少し待つとロッドさんが現れ台に登り今に至るというわけだ。
「まず最初に本日、我が校の魔法騎士科の試験に参加してくれたこと誠に感謝する。尋常じゃない程の狭き門だがお互いに競い合って切磋琢磨し、何とか数少ない席を自らの手で掴み取って欲しい」
狭き門かぁ・・・ハーランさんには心配しなくても二人共受かるよ、と太鼓判を押されたもののやはり不安には付き纏ってしまう。
「それではあまり長くしても時間が無駄になる為、早速だが試験を行う。皆の者着いてまいれ」
ロッドさんが歩き出したのをみて俺たち受験生もぞろぞろと動き出した。
前を行くロッドさんの後をつけて歩くこと数分、俺たちは先程の運動場よりも少しばかり規模を縮小したこれまた運動場に連れてこられた。
見渡してみると少し離れた所には的がいくつかあり察するにそこへと魔法を打ち込むことによって威力や精度を見極め合格者の選抜をするのだろう。
「第一の試験はこの場で諸君の魔法の才を見させてもらうものだ」
ザワザワと周りの受験生が騒めく。いよいよ始まる試験に高揚する者、緊張してガチガチになる者など反応は十人十色で見ていて飽きない。
「内容は簡単。ここからあそこに見える的に目掛けて火、水、土属性の魔法を打ってもらうだけだ」
「そして打ち込む魔法の種類は火球、水球、土球に限定するものとする」
説明を終えたロッドさんは数人の試験官と共に資料らしき物を持って椅子に座ると順番に名前を呼び、試験を開始した。
火、水、土の魔法か・・・見事に全部俺が苦手な属性じゃないか!
そんな事を考えているとレナの名前が呼ばれた。
「では、行ってきますね!」
「うん、レナなら大丈夫だから!応援してるよ」
パンッ!
俺が手を出すとレナもつられて手を出し軽くハイタッチをする。
乾いた音が響いた後、レナは俺に背を向けてロッドさんの待つ運動場の中央へと走っていった。




