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絶零のアポカリプス~君と手をとる異世界平定~  作者: 他仲 波瑠都
第2章 バルハン騎士学園
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エルジン連合

天導歴816年 9月


これはシオンとレナがあの悲劇に見舞われた日から丁度一年程が経過した時だった。


━━━バルハン王国・王都━━━


この日、王宮に一つの書簡が届いた。


「エール王!エルフ族の長であるカイル・オーズ様より書簡が届きました!」


エール・リーデン

現在のバルハン王国の王である。先代の王とは異なり、圧政を強いる事無く民や臣下の助言にも耳を傾けるので皆から慕われる理想的な君主だ。


「ご苦労」


短く言ってエール王は書簡を受け取るとその内容を確認した。


「エール王!カイル様からは何と?」

「竜族に不審な動きがある為、連合を組み共に討つべし」


エール王が内容を簡潔に伝えた。


「また竜族じゃと?」

「先月、ハーラン殿が迎え撃ったばかりだというのに」

「もしやあの竜が出てくるのではなかろうな?」

「まさか・・・そのような事は」

「わからんぞ?あの事件もうかれこれ一年は姿を見せておらんからな」

「縁起でもないことを言うものではない!」

「何を言っておる!縁起等どうでも良いのだ。我々は常に最悪の事態を想定しなければならないのだぞ!」


臣下たちが騒ぐ中、エール王の右腕を務める

リーム・ロイズ大王補佐官が静かに耳打ちした。


「如何なさいますか?」

「ふむ。本音を言えば断りたいのたが」

「ですね。先月ハーラン様が出陣したばかりで今は休暇中ですし、他の四大公爵家及び剣聖様は何かと理由を付けて回避すると思われます」


四大公爵家と剣聖。


バルハン王国は国土を五分割して統治しており、王国がそのひとつを、そして他の四つをそれぞれ四大公爵家と呼ばれる王宮と肩を並べる程の力を持った公爵家が統治しているのだ。


各公爵家の当主は各々が王国騎士団の第一、三、四、五師団の団長を務めており王宮からの要請は勿論のこと自らの判断でも出陣する事が出来る権利が与えられている。


そして剣聖とは代々、第一師団の団長に与えられてきた称号で、その剣聖の力は各種族の長にも引けを取らないと言われている騎士団のシンボル的な存在だ。


「しかし長い年月をかけて築いてきた我ら人間族にとって大きな武器であるエルフ族との同盟をここで反故するわけにもいかぬまい」

「仰る通りです。公爵家様達が心より王様に忠誠を誓っていたならばまだ対処は可能でしたが・・・まぁ、現実そんな上手くは行かないものです」

「お主なかなかズバッと言ってくるのぉ」

「えぇ。これぐらいの気概を持たねば側近等務まりませんからね」

「ははっ。ワシはお主のそういうところは好きだぞ」

「お褒めに預かり光栄でございます」


ロイズはニヤリと笑みを浮かべ軽く敬礼をした後、表情を引き締め直し話を戻した。


「そこで王様に一つ提案があるのですが・・・」

「おぉ!何だ?申してみよ」

「では失礼して。この度の進行はご子息であるレドモンド殿下にお任せしてみては如何かと」

「レドモンドか」

「はい。殿下なら兵からの信頼も厚いですし、王族なのでバルハン王国騎士団としての面目も立つでしょう」

「しかしなぁ」

「王様が懸念される理由も承知の上です。確かにいくら殿下は兵から慕われていようとやはり四大公爵家の力には到底及びません」

「・・・」

「しかしながら今王国側で動かす事が出来る団の中で最も優れているのは殿下の師団ですし、何よりそろそろもう一皮むけていただけなければ公爵家に王国が呑み込まれてしまう恐れがありますゆえ」


ロイズが恐れること無く王様に進言する。


ロイズの言う通り、四大公爵家はそれぞれが自らが王国の利権を握ろうという野心を抱えていると言われており、特に第五師団団長のワルビー・バッハが率いるのバッハ家とはよく意見のぶつかり合いを繰り返している。


「確かに幾らハーランと言えども一人に背負わせるには負担が大きすぎるか」

「はい、そうですね。そう言えばハーラン様がこれより数年の間は積極的に休暇を取ることを許可していただきたいと申しておりましたよ」

「何?あのハーランがか。わしがしつこく何度も休みを与えようとしても頑なに断り、任務をこなしていたあいつがか」

「左様でございます。”自分の持つものを全て教えてあげたい弟子達を見つけた”と、嬉々とした表情で仰ってました。小さい頃から成長する姿を見てきましたがあんな表情をするハーラン様を初めて目にしましたよ」

「ハーランにそこまで言わせる子供達か・・・。それはそれは、今から騎士となった彼らと面会するのが楽しみになってくるのぉ」

「それに関しては私も同意見なのですが、王様にはそろそろご決断をお願いしたく存じ上げます」


玉座の前に並び言い争っている臣下達を一瞥し、話を切り上げて本題に突っ込んだ。


王は手を組んでうーん、と唸る。

そんな二人の間にしばし沈黙の時が流れた。

ロイズが待つこと数十分、ようやく顔を上げた王の表情はどこか晴れ晴れとしており、何かを決心したような顔つきだった。


「相分かった。お主の提案を受け入れよう。自分でも様々な事態を想定して策を講じてみたがお主以上のものは思いつかなんだ。感謝するぞ」

「はっ!有り難きお言葉、誠に光栄に存じます」


意見がまとまると王は今だに各々、好き勝手に自分の考えを言い合っている臣下達を一喝すると命令を下した。


「ええい!皆の者静まれ!我々バルハン王国は此度のエルフ族の申し出を受け、一月後第六師団・団長レドモンドを将に据え、共に竜族に攻勢を仕掛ける」

「各自進軍に備え兵の召集、兵糧の確保、行軍経路の確認を進めておけ!」

「はっ!!」


王からの鶴の一声で黙り込んだが、命令が下されると大きく皆が揃って答えた。


こうしてそれぞれが自分に与えられた使命を果たす為に奔走する日々が続いた。

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