女神様ありがとうございます
「実はリゲルさんに頼まれていた事があったんだ」
「頼まれていた事?」
「おじさんからですか?」
二人で顔を見合わせて考えてみるが全く心当たりは無かった。
そんな俺達を見てハーランさんは爽やかな顔で笑ってその頼み事やらの内容を話し始めた。
「君達二人の魔法の才能を確かめて欲しいって頼まれちゃってね」
「父さんがそんな事を・・・」
「ハーランさんは何で引き受けてくれたんですか?」
ハーランさんに尋ねるレナ。
その質問に素早くハーランは答えてくれた。
「僕はね、リゲルさんに恩を返したいってのもあるけど一番の理由はシオンくん・レナちゃん。二人の魔法の才能が気になったからなんだよ」
「俺達の・・・」
「魔法の才能が気になった?」
再び俺達はお互いの顔を見つめて首を傾げる。
「でも俺達はまだ魔法が使えるかどうかなんてわからないですよ?」
「そうです。もしかしたらシオンくんはともかく、私は才能無いかもしれないですし・・・」
レナが不安そうな声で言った。
「何言ってるんだよレナ。俺だってまだあるかわかんないじゃん」
「大丈夫です!シオンくんは絶対に才能があります!それに誰よりも強い魔法騎士になるに決まってます!」
「だからまだそれはわからないでしょって!魔法が使える人が少数なのはレナも知ってるでしょ?」
「知ってます、知ってますとも!それでも私はこの世界の誰よりもシオンくんを信頼してるので!」
レナがハァハァと息を荒くして一気に捲し立てた。
俺って奴はまたレナにここまで言わせて・・・
自己嫌悪に陥るが今はそんな事している場合じゃなくレナに言うべき事があるので何とか気持ちを切り替える。
「うん、レナありがとう。いつもそこまで言わせちゃってごめんね?」
「いいんです。私が自分の意思で行動・発言している事なので」
ニッコリと笑うレナはやはりとてつもなく可愛いしいつでも俺の癒しになってくれる。
そんな他人からしたらむず痒くなって来るような温かい空気が場を支配しだした時に俺達の様子を微笑ましげに眺めていたハーランさんが一つ咳払いをすると話を戻そうとした。
「おほん、そろそろ本題に移っても良いかな?」
「あっ、すいませんつい夢中になっちゃって」
「わ、わ、私ったら!ごめんなさい!シオンくんの事になるとすぐに周りが見えなくなってしまって・・・」
顔を真っ赤にして慌てたかと思うと次第にシュンとして落ち込むレナ。こんな風にレナはコロコロと表情が変わるので見ていて飽きないし凄く可愛らしい。
「謝る事なんて無いんだよ?確かに周りが見えなくなるのは危ないかもしれないけど、それくらいならこれからいくらでも直していく事が出来るし何より一人の人をそこまで大切に想う事が出来るのはとても素晴らしい事なんだからね」
「ありがとうございます!」
「うん、その意気だ」
場が上手くまとまった。こういう状況を本当にスマートに収めて次に進める事が出来るハーランさんをもの凄く尊敬する。俺もあんな男になりたいもんだね。
そしてかなり話は脱線したがようやくハーランさんは本題に触れだした。
「まず僕の得意な魔法に相手の魔法の性質や方向性を読み取るものがあるんだ」
「おぉ!凄いですね!」
「ですです!」
キラキラとした尊敬の眼差しを俺達が向けるとハーランさんは苦笑して少し照れていた。
「まぁ、その事は良いんだ。それでね僕はリゲルさんに何回かその魔法を教えたんだよ」
「父さんに?」
「頼み込まれてね。完全習得とまではいかなかったけど、ざっくりとは感じれるようになったらしい」
「流石はおじさんです!」
「へぇー。てことは父さんはその魔法で俺達の才能を見極めたって訳ですか?」
「そうなんだ!そしてここが一番重要なところなんだけどね」
ハーランさんが興奮気味に話す。
そして俺達はゴクリ!と喉を鳴らしてハーランさんの言葉を待った。
「君達二人にはリゲルさんが今まで感じたことの無い程の可能性を感じたらしいんだ」
「ほんとですか!?」
「間違いないよ。今だってまだ魔法は使って無いけど君達からは漂ってくるんだよね。歴代でも類を見ないレベルの高レベルの魔法のオーラが」
ハーランさんのこの言葉に俺達は舞い上がってしまう。
「やったなレナ!」
「はい、シオンくん!やりましたね!」
「な?言ったろ。レナは大丈夫だって」
「うぅ・・・。だってだって!自分じゃわかんなくて不安だったんですもの!」
「まぁそれもそうだね。でも何にせよこれで第一関門は突破したってところか?」
「はい!」
こうして二人で喜びを分かち合い笑っている俺達の様子を生暖かい目で見ていたハーランさんが口を開いた。
「君達ほんとに仲良いよねぇ。見てて楽しいし僕まで嬉しい気持ちになってくるよ」
ハーランさんに指摘されてレナは勿論俺まで柄にもなく照れてしまった。
「でねリゲルさんが言っていた事はまだあるんだ」
「これ以上まだ感じれた事があったんですか?」
「うん、君達の特化魔法の大まかなものまでわかったらしい。この魔法は僕がかなり努力して会得したはずなんだけど流石はリゲルさんだ。たった数回でここまで出来るようになるとは僕も驚いたよ」
そう言うとハーランさんはレナを指差した。
ちなみに特化魔法とは他の魔法が苦手な代わりにそれだけは他の追随を許さない程の強力な魔法のだ。この特化魔法使えるのは極僅かで団長レベルの人くらいしか使えないらしい。
「まずはレナちゃん」
「は、はい!」
ガチガチに緊張しているレナ。
「リゲルさんはね君からは周囲を癒すようなオーラを感じるって言ってたから恐らく君の特化魔法は回復魔法だね」
「回復って・・・ほんとですか!?」
まじかよ、回復魔法を使える人なんて歴代でも存在したのはほんの数人で今は一人しかいないくらいに貴重な魔法だ。
「そういえばレナからはたまに癒されるような空気を感じる事があったけど」
「シオンくんも感じてたんだね」
「はい、薄っすらとですけど」
「いや、それは多分君のレナちゃんへの好意からくるものだよ」
ハーランさんにあっさりと否定され少し落ち込む。
結構ズバズバと言うタイプの人のようだ。
「私が回復魔法・・・」
「凄いじゃないかレナ!」
「シオンくん・・・。はい!これでシオンくんが怪我したらすぐに治療出来るかもしれないので嬉しいです!」
飛びっきりの笑顔で嬉しい事を言ってくれるレナ。そんなレナを見て俺の口元が自然と綻ぶ。これから言い渡される自分の特化魔法は一体どんなものかと緊張していたがレナのおかげで幾分か和らいだ。
「レナぁ!」
「シオンくん!」
手を取り合う俺達。まるで映画のラストシーンのような感動がそこにはあった。少しの間その雰囲気と自分に酔っていると。
「はいはい。そこまでにして」
これじゃあ話が終わらないと焦ったハーランさんが手をパンパンと二回叩くと軽く俺達を咎めた。
「君達ねぇ。仲が良いってのはさっきも言ったように勿良い事なんだけどもうちょっと落ち着こうね」
「あははは」
「はぅぅ。私ったらまた・・・」
レナが真っ赤に染まった頬に手を当てモジモジしている。
レナ可愛い、可愛いレナ!
大事な事なので二回言っちゃいました。
そしてついつい欲望に負けてレナの頭を撫でてしまう。仕方ないだろう、だってレナは”俺に”頭撫でられるのが大好きみたいだし。現にほら、体をくねくねさせて「えへへ」とか口から溢れてるんだぞ!
俺は悪くない!
まぁそんな具合にまたもや甘い雰囲気を醸し出す俺達を見てハーランさんが呆れたように溜息をついた。
「はぁー、もうわかったから。次シオンくんね」
「あ、なんかすんません」
一応形だけだが反省の意を示す。
「わかったのならいいよ」
にこやかに笑って許してくれたハーランさんは続けた。
「リゲルさんによれば君からは僕と同じようなオーラを感じたらしい」
「えっ?ハーランさんと同じようなって事は・・・」
「シオンくんもしかして」
おいおいまじかよ!
これが転生特典ですか、女神様ぁぁぁ!?
「君は僕と同じ氷魔法が特化魔法かもしれないね」
はい来ました。皆さんこれが異世界転生の醍醐味ってやつですよね。
「シオンくんはやっぱり凄いですね!」
レナが自分の事みたいに・・・いや自分の事以上に喜んでくれている。またそんなレナの頭を撫でたくなったが今はそれよりももっと大きな衝動に駆られていた。
「・・・・・・・・・」
「シオンくん?」
黙ったままの俺を見て心配してくれるレナ。構ってあげたいのは山々なんだけど今はそれどころじゃないんだ。
あぁもう我慢出来ない!
「よ・・・・・・」
「どうしたんで」
「よっしゃぁぁぁぁぁあぁぁー!!」
「!?」
俺の雄叫びにもう一度声をかけようとしていたレナがビクッ!と肩を震わせ驚きで口を噤んだ。
「シ、シオンくん?」
「ごめんごめん。ちょっと嬉しさが爆発しちゃって」
「ふふっ、シオンくんでもそんな事あるんですね。可愛いです!」
「レナ、男が可愛いって言われても嬉しくないんだよ?」
「そうなんですか?でも安心してください!シオンくんはかっこいいって私は毎日思ってますよ!」
おう・・・天然って怖いな。
「じゃあそろそろ僕の魔法で答え合わせしようか」
また長くなりそうなのを悟ったハーランさんが声をかけた。
「「お願いします」」
声を揃えて頭を下げる。
「任せて。じゃあ始めるよ」
ハーランさんはそう言うと俺達ち向けて手を差し出すと詠唱をした。
⟬魔法探知⟭
ハーランさんが唱えると俺とレナは光に包まれたかと思うと二人の周りを古代文字が羅列された帯のようなものが駆け巡った。
「・・・・・・」
「ど、どうでしたか?」
緊張で声が上擦ってしまう。そしてしばらくの沈黙の後にハーランさんは探知した結果を告げた。
「・・・リゲルさんの言う通りだったよ」
「という事は!」
「うん、レナちゃんは回復魔法。シオンくんは氷魔法の特化魔法を所持しているみたいだね。それも歴代屈指のレベルだ。」
「やったなー!レナぁ!」
「シオンくん!?」
俺は嬉しさの余りレナに思いっきり抱きついてしまった。
「あはは、程々にね」
ハーランさんはそんな俺達を笑って見守り時間は過ぎていった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「落ち着いたかい?」
「えぇ、おかげさまで」
「あぅ・・・」
頃合いをみてハーランさんが声をかけてきた。
若干レナがまだ朦朧としているが気にしないでおこう。
「これから君達には僕の所有している別荘で暮らしてもらう」
「良いんですか?」
「大丈夫だよ。そっちの方が安全だし僕も魔法を教えやすいしね」
「えっ、ハーランさんが直々に鍛えてくれるんですか?」
「うん、これはリゲルさんから頼まれていたもう一つの事ってのと僕が君達を気に入ったからね」
うおぉぉぉ!最高だろこれ。あれか?女神がくれた
《出会い運上昇》の恩恵か?まぁとりあえずあのハーランさんが指導してくれるんだこれ以上に頼もしい事はない。
「じゃあよろしくお願いします!」
「お願いします」
俺が頭を下げたのをみて慌ててレナも頭を下げた。ハーランさんはそんな俺達の肩に手を置くと力強く言った。
「僕が責任を持って君達を強くするよ。それで三人で”あいつ”を倒そう」
「あいつって・・・」
「まさか・・・」
「君達が見たそして家族を奪った竜。その名も
《アポカリプス》を」
アポカリプス・・・そうかそれがあの女神が言っていた、そしてみんなを殺した奴の名か。
俺は隣に居るレナの手を握りその目を見る。気付いたレナは握り返して俺と視線を合わせると力強く頷いてくれた。
大丈夫だ。レナが一緒にいてくれる。俺は強くなるんだ!もう大切な人を失う事の無いようにそして二度と後悔なんてしないように!
こうして二人を導いてくれるハーラン・ロワードと出会ったシオンとレナは決意を新たに《アポカリプス》を倒し四種族を平定するという過酷すぎる道の一歩目を今踏み出した。