ハーラン・ロワード
「やっと目が覚めたんだね」
「あなたは・・・?」
テントの中に入って来た男の人が起きている俺を見ると安心したように微笑んだ。
体型は細身でスラッとしており身長は軽く180cmはありそうだ。髪は長髪で綺麗な金色をしている。
そして何よりめちゃくちゃイケメンだ。
シンプルに男として負けた気分になってしまう。
今、シオン・アレナドとして生きている俺は前世と違って顔には結構自信があるつもりだったのだがこの人はレベルが違うな。
透明感があるというか、神秘的というか・・・
これ以上考えるのは辞めておこう。何故か無性に悲しくなってくる。
「そうだね。まずは自己紹介をしておこうか」
男の人は俺の問いに軽く頷き、笑みを浮かべると背筋を整えて名乗ってくれた。
「僕の名はハーラン・ロワード。君のお父上と同じ王国騎士団の第二師団で団長をやっている」
「第二師団の団長!?しかもハーラン・ロワードってあの有名なこの世界で唯一の氷魔法の使い手っていう・・・」
ハーラン・ロワード
名誉ある王国騎士団で若くして団長を務めているとんでもエリートな人物。魔法の才能が歴代でも一二を争うレベルと称され、得意な魔法はこのハーランにしか使えないと言われている氷魔法だ。
この氷魔法は何人もの優れた魔法騎士達が会得しようと試みたが結局誰一人としてそれが叶うことが無かった。
そしてこれは余談だがめちゃくちゃハーランさんはモテるらしい。
「そんな大それた者じゃないよ」
「いえ、めちゃくちゃ凄いですって!いつも父さんが言ってましたよ」
「そうなのかい?だったら嬉しいな。あの人は私の恩人で目標でもある人なんだ」
「え、でも父さんって第八師団の団長ですよ?」
「ははっ、団の序列なんて関係無いんだ。あの人はね僕に団長としての在り方、心構え等たくさんの事を教えてくれたとても素晴らしい人だ」
はぇー、こんな英雄みたいな人にここまで言われて慕われるなんてやっぱり父さんは凄かったんだな。
自分の事ではないが自慢の家族をそして自分が尊敬する父が褒められた事に少し照れ臭くなるのと同時にとても誇らしく感じた。
心がホカホカしたような気分に浸っているとハーランさんが少し顔を歪めて尋ねてきた。
「それでね僕が君のお父上に会いに来る約束をしていた者なんだけど・・・」
「君のご家族と村の人達はどこにいるのかな?」
「え?」
あれっ?レナからは聞いてないのか。
そう思った俺は隣にいるレナに目をやる。俺の視線に気付いたレナは目を閉じて静かに答えた。
「レナ言ってないの?」
「はい、これはシオンくんが目を覚ましてから二人で話をした方が良いかと思いまして」
「なるほど・・・確かにこの話は二人でした方が良さそうだね。どちらか一人で話すには辛すぎる」
そうだ、レナはこういった気遣いがちゃんと出来る子だったんだ。
レナの優しさを感じているとハーランさんが心配そうな顔と声で聞いてくる。
「教えてくれないかな。あの日君達に何が起こったのか、そして何を見たのか」
俺はもう一度レナの方を見て目を見つめると手を差し出した。レナは俺の手に気付くとしっかり心情も読み取ってくれたのか優しく手を繋いでくれた。
ほんの僅かだがレナの手が震えている。
・・・違うな、これは俺の手も震えているんだ。
俺はそんなレナのそして自分の不安も掻き消すように手にギュッと痛くない程度に力を込めるとゆっくりと大きく深呼吸をしてあの日に起こった出来事について語り始めた。
「実は・・・」
こうして俺達は今までの事をハーランさんに説明した。
とてつもなく邪悪で禍々しいオーラを放つ竜が現れたこと。
そしてその竜がポカロ村に向かって強力な黒炎を撃って攻撃したこと。
急いで村に駆け付けた時には既に手遅れでもうそこには村があった形跡など何一つとして残っておらず、ただ真っ黒に焦げた大地が広がっていたこと。
必死に呼びかけていると三つの光が現れ、その正体は父さん、母さん、姉さんだったこと。
最後にみんなと話をしてレナは自分が守ると約束したこと。
全てを話した。
途中で何度も言葉に詰まったり、家族を失った悲しみ・孤独感が込み上げてきて散々流したはずの涙が溢れそうになった。
だけどその度に隣にいるレナが繋いでいる手に少し力を入れて慈愛に満ちた顔で微笑み俺を安心させようとしてくれた。
そうだ・・・俺の隣にはいつもレナがいてくれるんだ!
俺は心を奮い立たたせて気持ちを入れ直し四苦八苦しながらも何とか全てを話しきった。
「・・・これが今までにあった事です」
「そうか、ありがとう話してくれて。辛かったろうに」
黙ったまま悲痛な表情を浮かべて俺達が話すのを見守っていたハーランさんはそんな俺達に労いの言葉をかけてくれる。
「はい、正直に言うと今でも叫び出したくなるくらいにキツいです」
「我慢しなくてもいいんだよ?」
「いいんです。絶対に耐えきってみせます」
「どうしてなんだい?君はまだ七歳の男の子だろう。辛い時は自分を抑え込む必要なんて無いし、そんな事して欲しくないな」
ハーランさんが心の底から俺達を心配して言ってくれているのはもの凄く伝わってくる。
だけどこれだけはもう二度と誰にも譲る事は出来ないし、譲りたくないんだ。
「・・・決めたんです」
「うん?」
「さっきの話にあった通り、みんなと約束したんです。”レナを守る”って」
「・・・」
「それにレナにはかっこ悪いところなんて見せたくないんですよ!レナにはピンチや辛い時、悲しい時にはいつでも俺を頼ってほいしから!」
「・・・」
黙ったまま俺を見つめるハーランさん。
しばしの間沈黙が続き少し重い空気が流れる事となった。
この空気を一体どうしたものかと悩んでいると今まで静かに会話に耳を傾けていたレナがおずおずと口を開いた。
「シオンくん」
「どうしたのレナ?」
「わ、私もです」
「ん?」
「私もシオンくんを守ります!」
「!?」
いきなりのレナの俺を守ります発言に戸惑っているとレナが両手で手を握りしめて力強い目・表情で俺に訴えてくる。
「私だって約束したんです!おじさん、おばさん、リーナお姉ちゃんに”シオンくんの事はよろしく頼む”って!」
「それと私も同じです。シオンくんが辛い時、悲しい時、泣きたくなった時にはいつでも私があなたの傍にいますのですぐに頼って欲しいんです!」
「レナ・・・」
「シオンくん、一人で全部を抱え込もうとしないでください。嫌な事があったら私に話してください。嬉しかった事でも楽しかった事でも良いんですよ。私がいつでも何でも何度でも聞きますから」
レナの想いに目頭が熱くなるのを感じた。
ほんとにレナはかっこいいな。全くこれじゃあどっちが主人公か分からなくなっちゃうじゃないか。
「わかったよレナ、これからは何かあればちゃんと君に相談するよ。それで一緒に解決しようね」
「はい!そうしてくれると私も嬉しいです」
レナはそう言うと嬉しそうに眩しい笑顔で笑った。
こんな感じで和やかな雰囲気に包まれていると静かに僕たちの会話に聞き耳を立てていたハーランさんが
唐突に笑いだした。
「アッハハハハ!」
「ハ、ハーランさん!?」
「いきなりどうしたんですか?」
これだけ凛とした人でもこんな笑い方するんだなぁと思っているとようやく収まってきたのかハーランさんは少し目尻にあった涙を拭うと軽く息を整えるため先程の俺の様に深呼吸をした。
「ごめんね。君達を見てたら我慢出来なくなっちゃって」
「何かおかしなこと言ってました俺達?」
「違うよ、むしろその逆」
「逆ですか?」
「うん、君達は最高だよ。素晴らしい絆だ」
「そ、そうですかね?」
ハーランさんの言葉にレナが照れている。
うん、めちゃくちゃ可愛いな!流石はレナだ。
「心の底から思うよ。シオンくんは自分の目標をしっかり持っているし心も強い。そしてレナちゃんそんなシオンくんを支えようと頑張りたいって気持ちは見ていて伝わってくるし、ちゃんと周りを見て行動・発言も出来る」
「流石はリゲルさんの家族だね」
あのハーランさんに褒められた。これは純粋に嬉しいんだがレナを見るとたぶん嬉しいのだろう頬が少し赤らんでいた。
むっ、少し機嫌が悪くなる。
よくあるラノベとかだとここで主人公は
あれっなんだこのモヤモヤは?
などと言うのだろうが俺は違う!これは嫉妬だ!
何故わかるのかって?それはな俺が非・鈍感系主人公だからだ!
ん?まだなんかあるのか。
なになに、恋人もいた事無くてましてや女友達さえいた事ないお前に何がわかるのかだって?
・・・うるせぇ!経験は、経験は無いがなぁ
俺は様々なラブコメ漫画小説を読み漁り、ギャルゲーもこなしてきた生粋の恋愛マスターだぞ!
・・・・・・・・・・・・はぁ、俺は一体一人で何をやっているのだろうか。
考えてみれば俺がやったのなんて所詮は創作のものだ。リアルに誰かと恋をした訳では無い。そんな事自分が一番理解しているはずなんだけどな、ハーランさんを見てると気後れしちゃったんだ。
前世の斎藤雄也だった時の俺だとここでもっと落ち込み自信を無くしていただろうがシオン・アレナドとしての俺はもうこの程度の事じゃへこたれない。
家族との約束をあるが一番はレナの隣にいても恥ずかしくない男になりたいから。レナが頼ってくれて自慢したくなるような男になる事を決意したからだ。
そのためだったらどんなに辛い事も頑張って乗り越えてみせる。もう俺は前世の時の自分じゃないんだ。変わるんだ、変わりたいんだ!
よしっ!切り替え成功!少しだけ成長出来たんじゃないかな。
などと前半はしょうもないが後半は良い事を考えていると先程まで少し頬が赤かったはずのレナが気付けば既にその頬から赤みは引いてた。
「ハーランさん聞きたいことがあるんですけど」
「なんだい?」
「ハーランさんっておじさんと何か約束してた事とかあったんですか?」
あっ、それ俺も気になってたやつ。
そうなのだ。あの第二師団の団長を務めているハーランはとんでもなく多忙なはずだ。しかも今はあの竜が現れてただでさえ竜族以外はどの種族も慌ただしく調査など進めている。
そんな中でハーランさんがわざわざ父さんに会いに来たんだ。よっぽどの理由がるに違いない。
俺達の考えていることを察したのかハーランさんは微笑むと答えてくれた。
「今回はリゲルさんに頼まれて、君達に会いに来たんだよ」