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絶零のアポカリプス~君と手をとる異世界平定~  作者: 他仲 波瑠都
第1章 悲劇の始まり
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目覚めのとき

「・・・う、ん」


あぁ、思い出した。


自分が何者なのか、そして自分が一体何の為にこの世界にやって来たのか。


まぁ、思い出した事は良いんだが俺の死に方はほんとにしょうもなかったんだな。


なんかもっと、こう、小さい子がトラックに跳ねられそうだった所を身を呈して庇って死んだとか、めちゃくちゃデカい海王類から山賊に連れ去られた子を助けるために食われてしまったとか、


もっと心が熱くなるような死に方無かったんかねぇ。


しかしまぁ、過ぎた事はもうどうでも良いか


あの女神の不手際とはいえ何の変わり映えもしない最低ランクの人生からおさらば出来たんだ、文句など何一つとしてあるわけが無い。


それにいくらブスとはいえあんなに申し訳なさそうに謝る女の子に頼られれば男として応えない訳にはいかないしな。


頭の中での考えがひとまとまりしたところでとりあえず今俺が置かれている状況を確認してみる。


目覚めてから直ぐに感じたんだけど、とにかく目が開けにくい。原因はぼんやりとだが目星は付いている。


現在、あの夜からどれほど時間、日にちが経過しているかは判断の仕様がないが恐らくあの時に流した涙のせいだろう。


凄く優しく、温かい人達だった。


俺がまだ斎藤雄也として生きていた頃に喉から手が出るほど欲しかったものだ。


記憶を失ってしまっていたとはいえみんなで過ごした思い出は今でも心の中でずっと輝いてくれている。


あれだけ涙を流してもう既に枯れ果ててしまっていると思ったが少しでも気を抜いてしまえば今にでもまた溢れてきてしまいそうだ。


尊敬でき、強くかっこいい父。


いつも優しく、料理がとても上手な母。


少し意地悪だがいつも一緒に遊んでくれて可愛がってくれた姉。


俺の自慢の家族だ。


それだけはこの先いつまでも変わることは決して無い。


だけどそんな人達が居なくなってしまったんだ、心の中にぽっかりと空いてしまった大きな穴はとてもじゃないが埋まる事はないと思う・・・


しかしそんな事ばかりは言ってられない

いい加減前を向かないとまたお父さん達に怒られてしまう。


それに思い出が心の中にある限り寂しくなろうがいつでも温めてくれるはずだからね。


さぁ、しんみりとしたのはここまでだ!


次は手だな。


なんだろう、誰かに握られている感覚がある。


転生前によく読んでいたラノベとかアニメに登場する鈍感系主人公ならここで誰が自分の手を握っているか気付かないだろう。


だが、俺は違う!


女の子の些細な変化や気付いて欲しいという可愛らしいシグナル!そういった事にちゃんと気付いてあげて優しい言葉をかける事が出来る主人公・・・。


そう!非鈍感系主人公になるのだ!


さぁ、その非鈍感系主人公である俺が思うにこの手は恐らくレナの手なのだろう。


心の中でそう定めた俺は答え合わせをするべく、腫れていてまだ少し痛む瞼を何とか持ち上げてその俺の手を握っているものの正体を視界に入れた。


「・・・やっぱり、レナだよな」


俺の予想は正しく、レナが両手で手を握ってくれながら隣で眠っている。


レナも俺と同様にかなり目が腫れ上がって赤くなっており、それに加えて目の下に隈が出来ていた。

恐らくずっと側にいて看病してくれていたのだろう。


「そういえば俺、倒れる前に自暴自棄になって木に頭ぶつけまくってたよな・・・」


そうだ、それでレナが泣きながら必死に止めてくれてたんだったな。

しかもその直後に気を失って倒れるという最悪なコンボ技を決めたシオン・アレナドくん。


「そりゃあ、これだけ泣いて目も腫れるし、心配で眠れなくて隈も出来るよなぁ」


ただでさえ父さん、母さん、姉さんが居なくなってしまったばかりなんだ。

俺まであのまま逝っていたらレナは本当にこの世界で一人ぼっちになる所だった。


あの日初めてレナと出会った日にこの子は自分が守ると心に決めた。

そして先日お父さん達ともレナは俺が守ると約束した。


それなのに自分の事しか考えず、レナだって家族を失った悲しみは同じくらい大きいということは十分にわかっていたはずなのに、自分勝手で木に頭を打ちつけて更にレナを追い込んだ。


そんな自分が本当に嫌になる。


約束を何一つ守ることが出来ない自分の力の無さ・心の弱さに無性に腹が立つ。


そしてそれでもこんな俺を隣でずっと心配してくれたレナのことが愛おしいと思うようになっていた。

記憶を失っている時も好きだとは思っていたが多分それは家族に向けるものだったはずだ。


しかし、今は違う。


レナを家族としても愛しているが、それ以上に一人の女性として好意を抱いていることに気付いてしまった。

なんで家族への愛から異性への愛に変わったのかはわからないがそんな事はどうでも良い。

今はまだ直接言葉にして伝える勇気もそれに見合う俺の実力も無いから伝える事は出来ないが


”レナを愛している”


新しく俺の中に芽生えたこの気持ちだけは心の中に留めて置いて、いつか胸を張ってレナの隣に立てる時が来た時にこの気持ちを伝えよう。


気持ちの変化はその時にまた二人で話したら良い、多分レナは笑いながら聞いてくれると思うから。


まぁ小っ恥ずかしい話もここまでにしてそろそろレナを起こすかな。


早くレナの声も聴きたい事だし。


そして俺はゆっくりと上体を起こし、隣で眠っているレナの肩を軽く揺すった。


「レナ、レナ起きて」

「・・・ぅん?」


俺の声に反応してその可愛らしい目が開かれ綺麗な青みがかった瞳に俺の顔を写し出した。


「シ・・・オン・・・くん?」

「そうだよ、心配かけてごめんな」


まだ少し寝惚けていたのだろうが俺がまた声をかけると目をぱちくりと瞬きさせて、ずっと流していたであろう涙をまたいっぱいに溜めたまま勢い良く俺にしがみついてきた。


「シオンくん!良かったです!」

「うん、ありがとうずっと側にいてくれたんだろ

?」

「はい!あの時シオンくんが倒れてからずっと、ずーっと心配で・・・」

「あぁ、あれね」

「もう目が覚めないんじゃないか、もう二度と一緒に遊んだりお話をする事が出来なくなっちゃうんじゃないかって・・・」


レナの耐えていた涙がまた流れ出してしまう。

また泣かせてしまった本当に馬鹿だな俺は。


「ほんとごめんね、もう大丈夫だから」


安心させるように俺はレナを抱き締めた。


「シ、シオンくん!?」

「大丈夫だよ、もう絶対にレナを一人になんかしないから、俺がもっと強くなってレナを守る事が出来るようになるからね」

「シオンくん・・・嬉しいです、私ももっと頑張りますから無茶だけはしないでくださいね」


そう言ってレナが抱き締め返してくれた。

またレナの目からは涙が流れていたが先程までのものとは違い、どこか暖かく感じる涙だった。



━━━━━━━━━━━━━━━


「そういえばシオンくん」

「ん?」


あれからしばらくしてレナも落ち着いたので抱擁を終えてそろそろ現状の確認をしようと考え始めていた俺にレナが尋ねてきた。


「シオンくんって一人称”俺”って言ってましたっけ?」

「まぁ、それはけじめってやつかな」

「けじめですか?」

「うん、少しでも何かを変えていくことが大事かなと思ってね」

「なるほど、そういう事ですか」

「うん」

「でもそんなに急がなくてもゆっくりで良いんですからね?」

「わかってるよ、俺たち二人で一緒に強くなっていこうね」

「はい!」


などと少し照れ臭くなるような会話をした所で改めて今の状況をレナに確認した。


「俺ってどのくらい寝てたの?」

「約二日くらいですね、ずっと眠り続けてましたよ」


やっぱりそんくらい寝てたかぁ。

なんか身体の節々が痛かったしそれくらいかなとは思ってたけど。


「そっか、二日間も看病してくれてたんだな

ありがとね」

「いえいえ、シオンくんの為ですから!」


レナが眩しい笑顔で応えてくれた。


やばいめちゃくちゃ可愛い。


あぁ・・・こういうのを女神と言うのだろうな、俺の転生の手伝いしてるれる女神がもう少し可愛かったら良かったのに。


とはいえ今更そんな事を嘆いていても仕方がないので俺は話を進めることにした。


「う、うんありがとう

それでこのテントって誰の?」


そうここはテントの中だ。

端っこにはなにやら麻袋が置いてありそこに荷物が入っているようだった。


「これはですね、二日前に私達が迎えに行ったおじさんの知人の方のです」

「その人が助けてくれたのか」

「はい、もの凄い音がしたので駆けつけてみた所村は無くなっていて私がシオンくんを抱えて泣いていたのでとりあえず傷の手当などをして下さってお世話になっている感じです」

「へぇー、でその人はどこ?」

「先程何か食べ物を探しに行ってくると仰られて

いたのでもうすぐ帰って来られると思いますよ」


レナがそう言った直後、テントの扉が開いてそこから金髪の長い髪をした男の人が入ってきた。


「やぁ、やっと目が覚めたんだね」


そう言って彼は目を細めて微笑んだ。


これが俺たち二人の師匠となって様々な事を教えてくれる人との大事な出会いだった。


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