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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

泣き虫が笑った日

作者: 水野 藍雷

HSP(Highly Sensitive Person)は感受性が強く、些細なことで動揺する人のことです。

 俺は子供の頃から泣き虫だった。

 両親に叱られるとすぐに泣き、友達が怒こりだすとまた泣いた。テレビで特撮ヒーロー物を見ても、敵の怪獣が怖くてテレビの前で泣いた。

 そんな俺に両親は呆れ、友達は俺を虐めた。


 自分でも何故泣くのか分からなかった。

 普段は普通に生活しているのに、少し感情が高まるだけで勝手に涙が出る。

 両親からは泣くのは恥ずかしいことだと叱られるが、俺は泣きたいなんてこれっぽっちも思っていない。だけど、我慢したくても我慢できずに涙が勝手に零れ落ちる。

 皆にはそれを言いたかった。でも、自分でも泣く理由が分からないのに、他人に説明なんて誰ができる? それが辛くて俺は泣いた。


 俺は虐待されている環境から、笑う事を知らずに成長した。




 思春期に入っても周りからの虐めは続いていたが、俺の心に変化が現れた。

 今までは怖くて泣いていた。だけど、ある時から愛に対して泣くようになった。相手はテレビドラマの中の俳優と女優だった。悲哀に泣き、愛が実ればそれでも泣いた。

 現実の愛は未経験だったけど、俺は愛について知った。




 中学生だったある日、小学校の頃から虐められていた同級生から暴行を受けていた。殴られる理由なんて何もない。ただのストレス解消で殴られた。

 夕日が射す放課後の教室、居るのは同級生と俺だけ。

 俺を散々殴った同級生はスッキリしたのか、倒れて泣いている俺を鼻で笑うと教室を出ようとしていた。


 その時何かが俺の中で弾けた。


 教室に置いてあった誰かのバッドを掴み、後ろから同級生の頭目掛けてぶん殴った。何度も何度も頭を殴った。

 視界が涙で滲む、俺は殴りながら泣いていた。


 気がづいたら同級生は死んでいた。

 その死体を見下ろしながら涙を流す意味を考える。


 これは怖くて殺したんじゃない、愛しているから殺したんだ。

 そう、俺は自分を愛している。だから俺は泣いたんだ。


 俺は現実の愛を知った。




 そのあと俺はすぐに教師に押さえられ、警察に連行された。

 少年鑑別所に送られた俺は、精神鑑定を受けた。

 その結果、長年の虐めによる極度のPTSD、それと偏ったHSPを患わっていると診断されて、少年院に送られず保護観察処分となった。


 医者からの説明を聞いて、俺が泣く理由が分かった。

 俺は弱いから泣いていたのではなく、病気だから泣いていた。

 だけど、何故もっと早く気づかなかったのか、どうして誰も教えてくれなかったのか、それを考えて俺は先生の前で泣いた。




 数年が経ち、俺の保護観察処分が終わった。

 学校には行っていない。親は人殺しの俺を腫れもの扱いして無視した。

 定職には就けず、登録制の日雇い労働で金を稼ぐ。誰とも付き合わず、趣味もない。俺はただ生きるために生きていた。


 ある日の夜、俺は仕事の帰りに警察の職質を受けた。

 その日はたまたま自転車のライトが壊れていて、無灯火で乗っているところを捕まった。


 警察官に話し掛けられて俺は体の震えが止まらなかった。

 脅迫はされていないが、警察官の服装が俺を緊張させた。

 そんな俺を警察官は訝しみ、鞄の中を見せろと言ってきた。


 鞄の中にはナイフがあった。

 俺は今まで襲われ続けていた。だけど、医者の話を聞いて自分が弱くないと知り、強くなろうとナイフを護身用に肌身離さず持っていた。


 ナイフを知られたくない俺は警察官に抵抗した。警察官は俺の自転車を掴み、脅迫に近い職質を続ける。

 そして、警察官が応援を呼ぼうと無線機に手を掛けようとしたその時、俺は鞄のナイフを取り出して警察官の腹部を刺した。


 刺した理由は愛のためだった。

 俺は自分を愛している。だから、自分を助けるために戦った。


 警察官が驚き、俺の顔を見てからナイフの刺さった自分の腹を見る。

 刺された箇所の服は黒く滲み、血が滴り落ちていた。

 警察官が震えながら腰の拳銃を抜こうとする。だから、俺は相手が抵抗できなくなるまで、泣きながら何度も刺し続けた。




 目の前で警察官が地面に倒れて死んでいる。

 再び殺人を犯して、なんでこんな事になったのか分からず泣いた。


 その時、叫び声が聞こえた。

 振り返ると、二人の女が佇む俺を指さして叫んでいた。

 その叫び声に人が集まる気配がする。


 俺はそれを無視して、警察官が所持していた拳銃を奪うと銃口をこめかみに押しつけた。

 目を瞑って引き金を引こうとする。だけど、俺は引き金は引けなかった。


 騒ぎに駆け付けた男が俺を取り押さえようと無防備に突進してきた。

 その男に向かって発砲する。放たれた弾丸が男の胸を貫いた。

 男は撃たれるなんてこれっぽっちも思っていなかったのだろう。俺を不思議な物を見るような目で見ながら死んだ。


 いつの間にか野次馬が俺を囲んでいた。

 自分が撃たれるなんて思っておらず、俺をスマホのカメラで撮っていた。

 囲んでいた適当な女に向けて銃を撃つと、腹部に命中して撃たれた女は地べたに倒れた。

 それで、野次馬は自分達が危険な状況に晒されていると知ったのか、慌てて逃げ始めた。


 右手には拳銃、左手にはナイフ。


 俺は愛する自分を守るために、逃げ惑う野次馬を殺し続けた。




 俺の拳銃の弾丸が尽きた。そして、その頃になってようやく大勢の警察官が駆け付けた。

 警察官は俺を取り囲むと拳銃を構えて、武器を捨てろと叫んだ。

 だから、俺は警察官に向かって拳銃を構えた。


 響き渡る複数の発砲音。

 囲んだ警察官の拳銃から一斉に弾丸が放たれて、俺の体に銃弾が突き刺さった。

 背中から地面に倒れる。痛くて体が寒い。

 死ぬと分かって嬉し涙が出た。


 本当は死にたかった。こんな自分が嫌で嫌でたまらなかった。

 だけど死ねなかった。

 何故なら自分を愛しているから。愛している人をどうして殺せる?


 だから、殺してくれてありがとう。


「あーははははっ、はははは、あーははははっ、あーははははっ、あーはは、ははははははははっ、はは、ははっ、あーははははっ、あーははははっ、はははは、あーははははっ、あーははははっ、あーはは、ははははははははっ、はは、ははっ、あーははははっ」


 俺は初めて本気で笑い、死ぬまで笑い続けた。


もし、感受性の強すぎて泣き虫の子供を持つ母親がいたら、一度でも子供と向き合って話し合ってください。

泣くのが病気だと知るだけでも、子供にとって救いの一手です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい! [一言] 年をとると感情が動きにくくなります。 この作品を読んで久しぶりに感情がうごきました。
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