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後夜

蛇足的な金髪美女の独り言。






古来より、日本には「神隠し」と呼ばれる現象がある。

多くは単なる失踪者のことを指すが、中には本当にどこか別次元の世界へ行っていたと思しき記憶を持って帰還する人もいるのだ。


神隠しは、現代風に言えば異世界トリップのことだ。


その方法は時代によって移り変わり、それはその時代に生きる人々の意識に由来する。


異世界トリップ、異世界転生、そんなジャンルの創作物が流行するに従い、何故かそれらの方法に一定の決まりが出来てきた。

その一つが、異世界転生トラックだ。


様々に生まれた創作物の中の、決して少なくない数が異世界への渡りの手段としてトラックが使われた。

そうして、また新たな怪異が生まれた。



ある時、私の管理するトラックが無関係の人間をひいてしまった。

死んだ男は言う。


「大事な女性がいるんだ。あんたらの言うことを聞くから、来世も彼女と共にありたい」


ふむ、悪くない。そう思った。

もともと創作物から生まれた怪異のため、その管理者たる自分もロマンティックな話は大好物だ。


男にはそのままドライバーになってもらった。

そして、意中の女性が本来の運命では酒気帯び運転の車に引き殺される直前に、彼自身によって女性をひくよう指示を出した。


そのまま他の車にひかれてしまっては本来の輪廻に乗って十中八九この世界に生まれ直すし、どこかの次元に飛んだとしても場所も時間も彼とは違ってしまうだろう。


そうして二人の生活が始まった。

情熱的に彼女を求めたわりに、男は雛を守る親鳥のような愛情を注ぐばかりだ。


つまらない。


そう思うのにどうしてだか目が離せず、私は他のトラックよりも彼らのトラックを眺めていることの方が多かった。


やがて短くはない時間が流れ、私はこの怪異の寿命が尽きかけていることを感じていた。

とっくに流行は去り、異世界転生トラックの存在は人々の意識から消えつつあった。

こうなっては、怪異はその存在を維持することは出来ない。

忘れられ、信仰を失った神が消滅するのと同じだ。


彼らの最期を直接見たくて、わざわざ現地に飛んだ。

久し振りにみる、画面越しではない、生の二人。


どこまでも互いを思い合っていて、兄妹のように、恋人のように、家族のように、二人は共にあるべき一組に見えた。

彼らこそきっと、オレンジの片割れ。

どうかどうか、いつまでも二人で寄り添っていて。


二人が固く手を繋いで、扉の向こう、まぶしい光の中へと歩いて行く。

彼らの姿が扉の向こうへ消え、ゆっくりと扉が閉まっていく。


届いても、届かなくてもどちらでもいいと、小さな声で私は言った。


「どうか、よい来世を。」





読んでくださってありがとうございました。

こんな感じで山も谷もない話になりそうですが、たぶんまた何か書くと思うので読んでもらえたら嬉しいです。

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