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 頭がくらくらする。瞼を押し上げる気力さえもなかった。


 一番最初に戻ってきたのは嗅覚だった。

 蒸せ返るような鉄の匂い。それと、腐臭。


 五歳の時、私の住んでいた町に敵兵が攻めてきてーーそう、その後の奇妙な臭いにそっくりだ。

 静まり返ってもう叫び声も聞こえないで。あの感覚的で強烈な記憶は今でも忘れられない。


 次に戻ってきたのは聴覚だった。

 何処か遠くから、耳に障る音が聞こえる。言語化するならばそうだな、イーオーイーオー、とかどうだろう。

 聞いたことのない鋭い高い音。間近で聞いたらば鼓膜が破裂してしまいそうな。


 水が滴る音がした。しかし、なんだかねっとりとしている。

 そうかーーやはり血だ。この場所は血に塗れているのだ。


 一体何が起こっているというのだろう。

 察するにここで人が死んでいるのだろうが、私には魔法陣に捕まった以降の記憶がないしーーああ、もしや捕まったのか。帝国に。

 はは、油断してしまった。私らしくない。


 身体が重くて指一本動かせない。声も出せない。目も開かない。空気中の魔力さえ感じない。

 一つ、たった今戻ってきた触覚に基づいて言うとしたら、ここはとてつもなく寒い。凍りついてしまいそうだ。

 けれど身をよじって暖を取ろうにも身体は動かないし、適度に抑えた魔法も使えない。制御ができる気がしないのだ。

 今この状態で魔法を使おうものなら、自分をも巻き込んで今度は王都を全壊させてしまうほどの大爆発を起こすにちがいない。


 面倒だなと諦念めいたことを考えていると、大勢の人が駆けるような低い振動と、蹴飛ばされた 扉が地面に叩きつけられる金属音が耳に飛び込んだきた。

 続々と何者かがこの場所に侵入してくる。


「うわっ......何だこれは」

「なんて酷い」


 男の声が近づいてくる。

 すると誰かが駆け寄ってきて、私を強く揺らした。


「おい、嬢ちゃん大丈夫か?! おい!」

「生存者がいたのか?! すぐに外へ運び出せ!」


 脈を取られると、抱きかかえられるような浮遊感に襲わえた。助け......助けてくれているのか?

 けれど一体誰が? 帝国に反発する組織か何かだろうか。

 いや、なんだって良い。


 疲れた。もう。

 安堵も束の間、私の意識はあっという間に闇の中へ落ちていった。


 ***


 目を覚ますと、そこは真っ白な部屋だった。

 一瞬で清潔であると断言できるほどに、カラリとした空間。

 どうやら寝台に寝かされているが、枕やシーツは雪のような綺麗な色をしている。そのまま横を見ると、奇妙な音を一定周期で発する魔法具のようなものがあった。上空を見上げればそこには丸型の灯りがあり、昼よりも明るく部屋を照らしている。眩しくて反射的に目を瞑った。


 見たことのない物や魔法ばかりーーここは、帝国ではないのか?

 右腕を見てみると何かが刺さっており、私がそれを無理矢理抜こうとすると、誰かが声をかけてきた。


「おおい、起きたか。お嬢ちゃん」


 ふっと顔を上げると、これまた奇妙な白と黒の服を着た男が二人いた。

 真っ黒な髪に、真っ黒な瞳......それに顔はなんだか平たいし。異民族か。一体何処の国だ?


 服と言えばーー私の服も何やら薄いものに変えられていて、何だか肌触りが良い。

 まさかこいつらが着せ替えたとか言わないだろうな?


 片方は恰幅が良い男で、丸っこくて大きな目が優しく私を見ている。もう片方は目付きの悪い不機嫌そうな表情の男で、彼はあまり私に好ましい印象を抱いていないようだった。見てなんとなくそうとれた。


「私の言葉が分かるかい? お嬢ちゃん」


 男の言葉に私は頷く。

 私の首は驚くほどすんなりと動いた。今なら魔法なしで空も飛べるような気がした。

 私の反応に満足したのか、彼はにっこりと笑って、近くの背もたれのない椅子のようなものを引きずり、寝台のすぐ近く、私の真横に座った。

 私は向かい合うためにすぐ身体の向きを変えた。節々が少しだけ痛んだ。


「私は瀬口慶四郎。警視庁捜査一課七係の刑事だ」


 そう言って彼は、懐から何か黒い革製の紋所のようなものを取り出し、私に見せた。

 そこには何やら文字と、金色に輝く華の紋章と、慶四郎と名乗る男の肖像があった。随分と精巧な絵だ。


  そしてもう一人も名乗った。


「俺は城ヶ崎隼人。同じく七係の刑事だ」

「お嬢ちゃん、名前を聞いても良いかな」


 不思議な響きの名だ。しかしどうやら、彼らに私に対する敵対心はないらしい。


「リミナ。......リミナ・カインド」

「リミナさんか。早速だが、身体の調子はどうだい? 怪我はしていなかったようだが、酷い衰弱と栄養失調で丸一日眠っていたんだよ」

「衰弱、と......栄養失調?」


 まさか。私は健康そのものだったはずだ。

 しかし、魔法陣に魔力を吸われたとあらばそれも納得できる。きっとここは、帝国やあの国の大陸とは程遠い場所だ。そこまで私を飛ばすには並大抵の魔力じゃ足りない。不足分を私で補ったか......いやしかし、一体何のために?


「慶四郎、ここは何処だ? なんて名前の国だ? なんて名前の大陸だ?」

「ふむ......ここは東京都中野区の警察病院だ。そしてこの国は日本。残念ながら離島でね、大陸には属していない」

「に、ニホン......? それは、なんて大陸の近くだ?」

「ユーラシア大陸だが。君はおかしなことを聞くな」


 ユーラシア? まったく聞いたことがない。

 世界に大陸は四つしかない。これでも学校に通っていたし、他の連中と比べても学はあるつもりだ。ユーラシアなんて名前は地図にはなかったはずだぞ。


 困惑する私を尻目に、慶四郎の目配せで隼人が部屋から出て行った。誰か連れてくるつもりだろう。

 その後、確かに彼は白い制服の女性を連れてきて、一度ケイジ二人は外へ出た。 女性はーー看護師というらしいーー私に何かを咥えさせたり、刺したり、飲ませたりして、すぐ に部屋を出て行き、また彼らを呼び戻した。


 彼女に好きにされている間に、私の頭に、あるとてつもなく嫌な予想・・・・・・・・・・が浮かんだ。

 それはーー


「なあ、慶四郎。お前は魔法を使うか?」

「......魔法かい? そりゃあまあ、使いたいとは思うが使える訳がないな。私はただの人間だし」

「あ、あぁ......」


 嫌な予想が的中してしまったかもしれない。


 二人の怪訝な表情から察するにつまり、そういうことなのだろう。

 私は少し考え込んだ。

 恐らくここは、|私が元いた世界じゃない(・・・・・・・・・・・)。

 ここはそう、どこか違う世界。要するに異世界だ。それも魔法がなく、他の技術が発展した世界。

 通りでおかしいと思ったんだ。


 身体の不調は治ったはずなのに外気の魔力を感じない。 ふつう、魔法というものは自身の体内にある魔力と外気の魔力を融合させてことを起こす。

 こうすることで自分から出す魔力を極力少なくできる。 私はとりわけ魔力に敏感で、魔力が溜まっている場所もよく見つけるのだがーーああそうだ、ここに魔力はない。

 私が敏感なのは外気の魔力にだけじゃない。相手がどれだけのそれを有しているのかも分かる。

 彼らもさっきの看護師もそうーー紛うことなく、空っぽだった。


 ......やはり、ここが違う世界であるという線が有力か。 こんな大層な舞台を用意してまで誰かがからかっているとは思えないし、魔力のない人間なんているわけがない。

 信じたくないが、信じざるをえない。


「なあ、リミナさん。何か覚えていることはあるかい? 君は廃ビルで発見されたんだが」

「覚えているのは......血と、腐ったような臭いだけだ」

「犯人の顔は見てない?」

「犯人? ......一体何の話をしているんだ」


 私がそう言うと、二人は顔を見合わせた。

 慶四郎は私に向き直ると、言葉を慎重に選んでいるのか、ゆっくりと吐き出すように話し始めた。


「君は、行方不明だった国籍多数の男女、二十三名の遺体と共に発見された。匿名の通報があってね。それで君は保護された」

「遺体......やっぱり」


 あれは人間の死んだ臭いに違いなかった。


「私たちはその事件の捜査をしていてね」

「ああつまり、自警団の人間か。ケイジとはそういう意味か」

「いや、少し違うよ。警察は国に雇われた治安維持のための団体でね。きちんと給料も貰ってい るよ」

「......警部、こいつ中世からタイムスリップでもしてきたんじゃあないんですか?」


 隼人が投げやりにそう言う。


「止めなさい、隼人君」

「タイ、ムス......リップ?」

「気にしちゃいけないよ、リミナさん。......それで君は、事件に関することは何も覚えていない んだね?」

「ああ。さっぱり。何が起こったのかさえ記憶にない」


 もし私が見つかった周囲で二十三もの人が死んでいたのなら、私を犯人と疑ってかかるのは当然だ。その点に関して文句を言うつもりはないし、犯人扱いされたって仕方がないとは思う。

 しかし私はやっていない。


 天井の灯りや、心臓の打つ速度と回数を計測する器具のようにーーこれは看護師に聞いて得た確かな情報だーー魔法ではない技術の発展した世界だ。かなり価値観が異なる可能性がある。

 帝国のように、問答無用で処刑......ということはないことを信じたい。

 そもそも、魔法なしで二十三人もの人間を、か弱い少女が殺せるか? 殺せないが……殺せないと思ってくれるだろうか。


 ......さて、とりあえずどうしよう。

 このまま話が噛み合わないままだと埒があかない。

 ひとまず聞いてみるか。


「なあ、慶四郎。私が違う世界から来た人間だと言ったら信じるか?」

「え? あ......違う、世界?」

「ああ。私は魔法が使える。お前らは違うんだろう?」


 私がそういうと、きょとんとしている慶四郎を尻目に隼人が大声で笑い始めた。

 まるで、今までずっと堪えていたものを放つような、大げさで、人を馬鹿にしたような笑い声だった。予想通りの反応だったが、私はかなり気分を害した。

 隼人は一通り笑い終えると、私のことを指差して、


「ばっかおめー! 今時魔法なんて小学生でも信じてねえよ! もしかしてと思ったけど、まさかまだ厨二病治ってないわけ? ぷぷぷー、うけるー!」

「は? 何を言ってるのか全然分からないんだが」

「本当だっていうならほら、使ってみろよ!」


 隼人の煽りを受けて、私はむっとして手を翳した。

 外気と中の魔力は場所が違うだけで同じものだ。私はまず、外に魔力を放出した。しかしその様も隼人にとってはお笑い種だったようで、更に腹を抱えて笑いを強めた。


 空気中の魔力量が少なくなっているから、コントロールもしやすい。


 私は一瞬で空中に巨大な水の塊を作り出し(水が現れた瞬間、彼は「へ?」と素っ頓狂な声を上げた)隼人の顔に思い切りぶつけた。


 彼の身体がその衝撃に耐えかねて床に転がった。

 水が固いものにぶち当たって跳ねる大きな音がして、部屋にしばしの沈黙が流れる。

 ーーふん、 びっくりして。いい気味だ。


 後からこのことを思い返してみると、我ながら大人気ない行動を取ってしまったなと思う。悪いのは隼人だが、私もちょっとやりすぎた。


 隼人は放心して声も出せないで、そのまま動かなくなった。

 それが私の気分をさらに良くした。 ついに静寂を切ったのは慶四郎だった。


「い、今のが......魔法か?」

「ああ。もう一回やってやろうか。次はどうする? 火にするか?」

「いや! 結構だ。......すまない。リミナさん。部下の非礼を詫びる。どうか勘弁してやってくれ」


 そう言って慶四郎は頭を下げた。隼人からの謝罪は期待しないでおこう。

 慶四郎は立ち上がり、隼人を揺すり起こした。依然、呆然としている彼に追い打ちをかけるため、私は魔法で熱風を出して濡れた彼を乾かした。


「凄い......本当に、異世界人だっていうのかい」

「ああ。お望みなら雷だって落としてやるし、大飢饉だって救ってみせてやる。どうだ? 信じたか?」

「信じざるを得ないなあ」


 そうだ。お前らも現実をみろ。受け入れろ。

 私だって、ここが異世界だなんて信じたくはないのだから。


 それから私は慶四郎と平静を取り戻した隼人に自身の経歴と、ここに来るまでに起こったことを洗いざらい全て話した。

 彼らは何となく信用に値する人間だと思った。

 隼人は水をぶっかけられたにも関わらず魔法に興味津々で、他にももっと見せろとせびった。


「一応私、病み上がりだと思うんだが」

「公務執行妨害は無視してやるから。ほら、早く」

「チッ」


 右手を下に向けてクルクル回すと、小さな炎の獣ができた。それは意思を持って動き、部屋中を駆け回る。

 隼人が触ろうと手を伸ばしたが、どうやら熱を持っていることに気がついたようだ。すぐに腕を組み直した。

 ふむ......魔法の制御がかなりしやすい。


「そういえばリミナさん。どうして日本語が話せるんだい? それも魔法かい?」

「......日本語?」


 慶四郎の言っていることがよく分からない。聞けばこの世界には何百もの言語があり、さらに国によって言葉が違うらしい。

 なんて面倒な作りなんだ。私のところは何処も言葉は一緒だったぞ。


 しかし、確かにおかしい。

 どうして彼らの言葉が分かるのか。私の言葉が通じるのか。

 私にそのような魔法を使っている自覚はないし、そもそもそんな魔法知らない。


「ニホンゴとやらに母音は幾つある?」

「世間一般的には主に、a、i、u、e、oの五つだ」

「......こっちはそれに加えて更に四つある。『****』ーー聞き取れるか?」

「ん? もう一度言ってもらえるか?」

「『****』」

「なんといっているのか、さっぱり......」


 なるほど、発音系等が違うのか。

 自動的に翻訳される魔法でもかかっているのかもしれない。もしくは、私の口が勝手にそう喋るようにされているだとか......。

 どちらにせよ好都合だ。この世界にない言語を話しても、互いに面倒なだけだ。


「そのなんたらって言葉には、どういう意味があるんだ?」

「意味はない。ここにない母音四つを並べて言っただけだ」

「そうか......これは『りんご』だ」


 隼人は近くのカゴに入れてあった赤い果実を手に取った。


「お前も言え」

「......『りんご』?」


 それが何だって言うんだ。


「もう一回だ。『りんご』」

「は? 『りんご』」

「『りんご』」

「『りんご』」

「『りんご』」

「『りんご』」

「『りんご』」

「『りんご』......いや、お前。同じ言葉を、別にそんな何回も言わなくても......一回で覚えられるから。しつこい」


 彼は少し考え込むように手を顎に添えた。

 私と慶四郎は全く何をやっているのか分からない、といった表情でその仕草を見つめていた。

 何か意味があるのなら教えてくれ。ちょっと怖い。


「『もしかしてお前、この言葉も分かるのか? 俺には妹と弟が一人ずついて、父は警察官だった』」

「『お前の家族構成なんて興味ない。また水ぶっかけるぞ』」


 私がそう言うと、男二人は目を見開いた。 まあ、何かしら意味があるのだろうと私は隼人の言葉を待った。

 それにしても、このりんごって果実、市井で似たものを何度か見かけたことがあるな。そんな名前ではなかったけれど。


 世界をまたいでも、生態系は変わらないのか?

 惑星はどうなってる? こっちにも月二つはあるのか? こっちの方が技術は発展しているみたいだし、色々と違っていても不思議ではないがーー


「了解、分かった。意味のある単語なら何でも聞き取れるんだな、お前。そしてさっき俺は五カ国語で『りんご』と言った。その後、英語で話しかけた」

「全部同じ言葉に聞こえたが」

「そう、それなんだよ。なのにお前は日本語の『りんご』には日本語で答えて、英語で話しかけた時は英語で言葉を返した」

「......はあ」

「魔法ってこんなに高度なんだな。他者の意図を汲んで翻訳しているのか?」


 知ったこっちゃない。

 なんだそれと言わんばかりに私は肩をすくめて見せた。だいたい、この世界にはなんでそんなに沢山の言語があるんだ。流石に不便だろ。

 ほら見ろ、慶四郎も訳がわからんって顔してるぞ。一人で納得するな。


「とりあえず、言語は問題なさそうだから良いとして......係長、どうします? この小娘」

「上には哀れな被害者だと伝えておこう。事件のショックで心神喪失していると」

「退院してからの身柄の保護は?」

「戸籍がないのは面倒だな。誰かに協力してもらわなければ......とりあえず、私か城ヶ崎君の家にでも......」

「うちは無理ですよ。単身用の1LDKですし、実家は都外です」

「じゃあうちに来るか。娘が独り立ちして妻が寂しがっているんだ」


 なんだなんだ、結構大事そうなことが勝手に決められてるぞ。

 聞いてみれば、私の身柄引受人をどうするかの話をしているようだった。

 ふむ......全く見ず知らずの男たちだが、異世界に何もなしにほっぽり出されるよりかは遥かにマシだ。自分の正体を話して良かった。


 うーん、私が転移した場所は殺人現場か。

 二十三人......私を転移させた犯人がそいつらを殺したのなら、十中八九、魔法陣を増強させるための贄として彼らを使ったに違いない。

 魔力を魂で補ったか……。

 とにかく、この事件は迷宮入り間違いなしだろう。

 警察の皆さんには悪いが、この件に関して私は口を紡ぐぞ。


 どうも法執行の権力が強い場所のようだからな。変に嫌疑をかけられて捕まるなんてたまったもんじゃない。


 そうこうしている内に、私も眠くなってきた。

 この日はもう深夜だということで、二人は一旦警視庁というこの地の警察機関の総括所のような場所へ帰るという。


 私は看護師と見知らぬ眼鏡の男性からもう一度検診を受けると、そのまま深い眠りについた。

 この寝台は心地が良い。ふわふわしていて、温かい。

 それにここにいれば誰かに襲われたり、追いかけられたりする心配もない。

 シーツを爪を立てたままなぞると、ひゅいっという笛のような音が鳴った。笛といえば、村長の一人息子のエディエットは自作の横笛をいつも吹いていた。彼の小さな音楽会に私もよく招待されたものだった。

 あの時はもう、本当に楽しかった。


 ......皆ーー大丈夫だろうか。

 もしかしたら私が帰ってこないのを心配して、森の中を探しているかもしれない。悪いことをしてしまった。

 そしてやがて、私が本当にいないと分かったとき彼らはどう思うだろう。

 いや、けれど元より、私は何処の出身ともしれない余所者なのだ。


 ここでもそう。


  ーー早々に、私など忘れてくれ。

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