第二章 Ⅱ
第二章
Ⅱ
雪時は、自分の部屋へと移動した。一人暮らしの雪時がわざわざ大きな部屋を借りたのは、パズルを置く場所が欲しかったからである。飾る場所が欲しかったのだ。物置などに閉まってしまうとすぐには見ることができないし、何よりパズルに囲まれている空間が好きだったからだ。
落ち着く……。
雪時はただパズルが置いてあるこの空間が一番落ち着くと思っている。好きなパズルに囲まれた空間。
実は今置いてあるパズルはすべてではない。実家にはまだたくさんのパズルが置いてある。それでも一部を持ってきて、さらに欲しいものは購入して作って――。それだけで幸せだった。
部屋の真ん中に直で座る。ぐるりと見渡して今一番気に入っているパズルが真正面に来るようにする。
天の川を切り取ったパズル。
ゆっくりと眺め、ほうと息をつく。
そんな中、楽人の声が響いた。いつの間にか入ってきていたらしい。
「お前、本当に好きだよなー」
「人に名前をつけろとねだっておきながら、人には『お前』呼びか、この野郎」
「細かいことは気にするなって!」
ははは、と笑う楽人に相変わらず腹が立つ。雪時は殴れないことを今になって悔しいと思った。
「……ここは俺の空間だ。楽人は外に出ていろ。邪魔だ」
「えー……。でもさ、雪時は綺麗な写真の物ばかり作るよな」
「は?」
「絵とかそういうの作んねえじゃん。種類はたくさんあるんだろ? なんか、わざと避けてるように見えるぜ」
雪時は彼を見た。
何を、言っているんだ、こいつは……。何を、言おうとしている……?
その先を、その言葉の先を言うな。雪時は嫌な予感がしてそう願った。
しかし、楽人の口から言葉は放たれた。
「……なんか、自分を守っているみたいだよな。綺麗な写真で囲って、見たくないものは見ていない。それで満足か?」
「うるさい!」
思わず雪時は叫ぶように返していた。楽人の珍しく落ち着いた声が余計に腹が立つ。目の前に立つ自分と似た彼にただただ怒りがこみあげてきた。
「お前に、楽人に何が分かる! へらへらと俺の横で笑うだけ笑って、言いたいことを言って、お前こそ、それで満足か!? 分かったような口を利くな!」
雪時は勢いよく部屋を出て行った。冷静だったのは飛び出しながらも、家の鍵を掴んだことだ。慌ただしく鍵をかけて出て行く彼を、楽人は止めなかった。
雪時が去っていった先を見つめ、楽人は呟く。
「やっぱり、覚えていないんだな、あのこと……」
楽人の言葉は誰にも届かず、静かな空間に消えていった。