第一章 Ⅲ
第一章
Ⅲ
パズルをはめたような音がした――。
思わず雪時は振り返った。しかし、そこには何もない。気配もしない、空間には自分がいるだけだった。
気の、せいか……。まさか、パズルをやりたい気持ちが引き起こした幻聴だったり、して……。
雪時は苦笑した。自分が考えたことではあるが、滑稽に思える。
気を取り直して、荷物に向き直ったその時。雪時は会ってしまった――。
はい、回想終了。そして、こいつだったんだよなー、会ってしまったのが……。
講義が終わり、廊下を早歩きで進む雪時はイライラしていた。というのも、横にいる厄介な存在がへらへらと話しかけてくる状況が何よりの原因だった。
雪時とは違い、横にいる彼は不愉快だとかは思っていないようで。雪時から離れることがない。だからこそ、雪時は不機嫌だ。しかし、それと同時に思うことがある。
どうして、こいつはここまで俺についてくるのか、ってこと。
しかし、聞こうと思ったことも、知りたいと思ったこともなかった。雪時はじっと彼を見つめた後、盛大にため息をついた。すると、問題の彼は肩をポンポンと叩いてくる。実際には、叩けていないというのが真実ではあるのだが。
「どうした、どうしたー。俺がそんなに恋しいか。なんでも言ってくれていいぞ」
「一生黙っていろ、阿呆が」
雪時は吐き出すように言うと、その場を後にした。このままこの場所にいるのがまずいということは、一番自分がよく分かっている。何故なら――。
自分以外にこいつのことは見えていないということが分かっているからだ。
気がつかずに会話をしていた時、不審な目で見られていたのをよく覚えている。後で彼を問い質したところ、それが判明して思わず叫んでしまったのだ。生涯一の黒歴史決定。むしろ消滅したい出来事である。
聞かなかった俺が悪いのも分かっているけど、それにしても一言説明しておけっつーの。
雪時は本日何度目か分からないため息をついたのだった。
しかし、彼はまだこの時知らなかった。
もう一人の自分と名乗る男が大事な存在になるということに。
それに気がつくのは、いつかの話――。