第一章 Ⅱ
第一章
Ⅱ
雪時はそれから自室にこもっていた。中学生になったはずの彼は、パズルを進める手を止めなかった。つまり、学校にしばらく行かなかったのだ。共働きの放任主義な両親がさすがに心配するレベルである。しかし、彼はどんなに声をかけられても、うんともすんとも言わずにパズルを進めた。
両親も仕舞いには何も言わなかったが、部屋の前に食事を置くことだけは止めなかった。
雪時も睡眠はろくに取らなかったが、食事だけはしっかりと取っていた。このことを今思えば、彼も自分を褒めたくなる。そうしていなかったら、今頃どうなっていたか考えるだけでも恐ろしいと思うのだ。
初めて行うパズルが1000ピースの物で、心が何度も挫けそうになったのをよく覚えている。だが、雪時はあの景色を残すことだけを考え、ひたすらに作り続けた。
そうして、苦労して作ったパズルは、雪時が見た光景そのものだった。それを見た彼は、こう思った。
やっと手に入った。僕が残したかったあの景色を、やっと、自分の……自分だけのものにできた……! 初めて、執着した、かな……。
達成感に浸った彼は、そのまま眠ってしまったのだった。
それからというもの、パズルが唯一の生きがいだった。
そんな中、十日間以上通っていなかった学校はその後通った。しかし、知らぬ間にいじめられているという結果になっていた。入学して早々何日も来なかったことから、この頃の同級生には丁度いい標的だったのだろう。
だが、それも雪時は自分のせいだと考えるだけだった。元々の性格から、相手が悪いとは思わなかったのだ。
幸いすぐにいじめが発覚して謝罪はあったが、それすらも「自分が悪かったのだからしょうがない」と彼は自分を責めただけだった。
それでも、彼の心が挫けることなくここまで生きてこれたのは、パズルのおかげだった。気に行った景色に近いパズルを購入し、糊付けまでして完成させる。額に入れた後、部屋に飾ってそれをじっと見つめる。それが至福の時間だった。そして、彼の部屋はすぐにパズルだらけになった。
時は経ち、大学へと雪時は進むことになる。増えたパズルを保管するためにも、広い部屋が欲しかった彼は、高校卒業とともに、一人暮らしを始めることにした。
引越し後すぐに荷解きをしていると、頭の中でパチッという音がした。それは、パズルをはめたような音だった。
今はパズルをしていないのに――。
この時から、彼の運命は動き出したのだった――。