第一章 Ⅰ
第一章
Ⅰ
彼の名は宗心雪時。現在、大学生で二十一歳となる。雪時は、どうしても前向きに考えることができない人間だった。
誰かが前に進むのを見つめるだけで、前へ進めていないことを毎度毎度自覚するのだ。
しかし、そんな彼が唯一前向きに考えて行えることがある。それは――。
――ジグソーパズルだ。
ジグソーパズル。小さなピースを、当てはまる隣接のピースにはめていき、一つの絵を完成させる遊戯。絵だけでなく、写真の物もあり、ピース数も種類が様々である。
なぜ雪時がそれに魅了されたか。それは、中学生の頃に遡る――。
中学校に入学する頃のこと。入学式でそこそこ仲が良くなった友人と何気ない話をして別れた、いつも気にしていなかった桜並木。小学生の頃から毎年同じように通っていたはずなのに、何故かその時、その美しさに心を奪われていた――。
家に駆けて戻り、中学校に入ったことにより防犯も兼ねて購入してもらったスマホを机から手にすると、鞄を投げ捨てて家から出た。
先程の桜並木に戻り、スマホを向ける。
カシャ、カシャ、と何枚かを撮った雪時は、写真を確認した。しかし、スマホで撮った写真はどれも納得がいかない物だった。目の前にある、あの美しさをカメラで切り取れていないと感じたのだ。何十、何百と撮り続けたがどれも違ったため、雪時は残念に思いながら家へと帰宅したのだった。
しかし、どうにか形として残したかった雪時は、スマホを手にネットで何か代用品を探した。そして見つけたのが、ジグソーパズルだったのだ。種類が豊富にある中で、今日見た景色と似た構図を探し出し、すぐに購入した。それは衝動買いだった。パズルだけでなく、フレームなども購入すれば、中々な金額だった。だが、今まで貯めていたおこずかいとお年玉を持ち合わせて購入した。
数日後、家に荷物が届いた瞬間、それらを手に自室にこもった。
そこからは、彼も今思えば、狂気の沙汰であった――。