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深夜の神社で釘を打ち付ける危険なお姉さんに遭遇。失恋話を聞かないと「呪う」と泣きつかれて、俺は彼女の話を聞くことに。とりあえず、振った彼氏に復讐で手を打たない?

作者: 黒髪

 彼女が欲しい。

 そう強く思ったことは一度もなかったが、高校二年生の夏休み。

 ともなると、周りの連中が「彼氏と夏休みは旅行に行くだ」とか「実は一夏の思い出を作る(意味深)」だとか、頭が空っぽな話ばかりするのである。


 学生の本分は何かと、問われれば、勉学!? それが健全な高校生の在り方。


「と、口では言っているが……実際のところ……俺だって彼女欲しいよ!」


 詰まるところ俺は女に飢えていたのである。実際に何度も海岸沿いを歩いては、麦わら帽子を被った白のワンピース姿の女の子の姿を想像したことか。


『キミ……わたしのこと……お、覚えてるかなー?』

『あはは……お、覚えてないかー。もう、わたしのことなんて……わたしはお、覚えていたんだけどなぁー』

『でも、やっぱりキミは変わってないね。ずっとずっとあのときから』


 で、そのまま俺とワンピース姿の女の子は永遠の愛を誓い合って——チュ。


「ねぇー。ミツルー、……マジで今のアンタ気持ち悪いわよ……食欲無くした」

「うあああああああああああ!!」

「驚き方がキモい」


 姉貴だった。ジト目である。俺よりも四歳年上の姉貴は、現役の女子大生。

 愛嬌のある端正な顔立ちで大学内のミスコンに出場経験有り。茶色に染めた髪と露出度の多い服装(ショートパンツはマジで目のやり場に困る)が特徴的だ。


「クッション抱きしめてキスしてるとか……。どれだけアンタ女に飢えてんのよ」

「別に飢えてるわけじゃねぇーよ。というか、人の部屋に勝手に入ってくんな!」

「えーだって、自分の部屋を汚したくないでしょ?」

「俺の部屋だったらいいのかよ! このバカ姉貴っ!」


「あーお姉ちゃんに向かって、そんな口の聞き方でいいのかなー。アンタが中学校の頃に、あたしの下着を漁っていたことをクラスメイトに教えても——」


「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!! やめてください。それだけはやめてください。マジでっ! マジでっ……そ、それだけは」


 優しい美人でだとか持て囃されているが、実際のところは性格が悪い奴だ。

 まぁー美人ってところだけは、認めてやってもいいけど。


「それで……アンタ、彼女が欲しいとか言ってたけど?」

「そこから話聞いてたのかよっ! マジで盗み聞きはやめてくれ。この変態っ!」

「変態じゃないわよ。というか、アンタって童貞よね?」

「あの……姉貴。弟の性事情に関して口出しはやめてくれ」

「お姉ちゃんなんだから、アンタのことは知っておくべきでしょー?」


 どっかのエロ漫画かよ……マジで。姉貴の野郎……俺のベットの下からこっそりと読みやがったな。俺をおちょくりやがって。


「い、一応……経験はあるよ」


「はい、ダウトね。アンタに身体を許す女の子がいるわけないし。そもそも、アンタ……嘘つくときに鼻がピクピクって動くくせあるのバレバレだし」


「クッソー! あー悪かったな。童貞で! 俺は、姉貴と違って、純粋なんだよっ! ピュアなのっ! ピュア。姉貴は色んな男とやりまくるクソビッチかもしれないけど……お、俺は違うんだよっ!」


「クソビッチで悪かったわね……。でも、まぁーアンタが童貞で安心したわ」

「はぁー? あ、安心って……ど、どういう意味だよ……?」


「えー口で言わないと、アンタ分からないの? あ、あたしがアンタの初めてをもらってあげるって言ってるのよ……可愛い弟の初めてをね」


「ちょっと……姉貴、何を言い出すんだよ。マジで言ってんのか?」


 いつものようにからかっているだけだ。

 何を俺は本気になってんだよ。姉貴はいつもこんな奴だろ。

 昔から俺をバカにして、そしていつもおちょくって遊んでくる奴だ。


「本気よ、だって……可愛い弟が高校二年生になってもまだ童貞でしょ?」


 アイスを食べ終わり、口元に少しだけチョコの跡がある姉貴。

 柔らかそうなピンクの唇に指を当てて、物欲しそうな瞳。


「可愛い弟と言ってくれるのは嬉しい話だけど……俺と姉貴は姉弟だろ」

「血の繋がりとか関係なくない? アンタ、そういうエロゲばっかりやってるじゃない。知ってるのよ、アンタがお姉さん属性だってこと」


 エロゲとかラノベとか漫画とかで、血の繋がりがある禁断恋愛は好きだけどさ。それとか、前世で永遠の愛を誓い合った二人とか、最高に好きだけど。


「って待て!! 違う。姉属性に萌えるのは事実だが、現実の姉とは違う理想の姉に萌えているのであってだな——」


「もう言い訳はいいって。アンタの目を見れば分かるわ。あー今、エッチな目で見られてるって。姉に萌えるど変態弟くん」

「マジかよ……お、俺……姉貴をエッチな目で見ていたとは……」


 嘘です。時々見てしまうことがあります。だって美人のお姉さんだよ?

 少しだけ歳が離れているけど、性の対象として見るのは普通だよな?


「仕方ないわよ。だって、あたし可愛いし?」

「自分で言うなよ……まぁー可愛いって知ってるけどさ」

「アンタがあたしの脱ぎたてパンツをくんかくんかしてたことも知ってるわよ」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああー」


 バレてないと思っていたのに。バレていないと思ってたのに。


「お姉ちゃんは何でもお見通しなのです。というわけで、童貞くん」

「童貞くんってあだ名はやめろよ。このクソビッチ」

「はぁー口の聞き方がなってないわねー。アンタが小さい頃、あたしと結婚するーって指切りしたことも忘れちゃったのかなー。あの頃のミツルは可愛かったんだけどなー。お姉ちゃん、お姉ちゃんと言って、いつもあたしにベタベタで」


「ああああああああああああああああああああああああああ、やめてくれやめてくれ。そんな過去はない。俺が姉に萌えるなど、ありえないっ!」


「と言いながら、今でもアンタは童貞なわけでしょ……? それって、今でもあたしのことが大好きだからでしょー?」


 さっさと吐けとでも言うように、姉貴は詰め寄ってくる。近すぎてめちゃくちゃいい匂いがするんだが。女の子はどうしてこんな色香を放つのか。


「違うって。別に……お、俺は——」


 俺の口元に、姉貴が白魚のような指を当ててきやがった。

 唇と唇が合わさっているわけじゃないのに、や、柔けー。


「これも全てはあたしの責任なんだよねー。ミツルって別に顔が悪いわけじゃない。そ、それなのに……まだ童貞って、これってもう……お姉ちゃんに恋してるからなんでしょ? というか、あたしが可愛過ぎて他の女性を見ても何とも思えないんだよねー?」


 オリーブオイルのように透き通った茶色の瞳は大きくて、圧倒的な迫力がある。目力が強いとでも言うのか、吸い込まれそうになっちまうね。


「そうだよ……あ、姉貴が……悪いんだぞ。姉貴が可愛すぎるから」


「姉貴じゃなくて、お姉ちゃんでしょ? ほらもう一回言ってみて」


「誰が言うか——」

「ふーん。ほらぁー、お姉ちゃんって言ってみてよ。可愛がってあげるから」

「お姉ちゃん……が、か、可愛すぎるからいけないんだ」


 本気で答えてみたけど、姉貴は思惑通りと言った感じのニヤケ顔。

 で、そのまま大きな声で。大粒の涙を流しながら。


「本当に、アンタって可愛いわよねー。昔から性欲に忠実で、あはは。一緒にお風呂入ってた頃もあたしの裸見て、おちんちん勃起させてわよねー。あーもう笑いが止まらなくて……涙が出てきたんだけど」

「悪かったな……男ってのは見境がないんだよ」

「ふーん、じゃあー約束通りに一緒にヤろっか?」


 真っ直ぐな情熱的な茶色の瞳。ジィーと見られるだけでほおが熱くなっちまう。クッソー俺はどれだけ美人に弱いんだ。家族なのに。お姉ちゃんなのに。


「照れちゃって可愛いなぁー本当にミツルはー」


 ほっぺたをぷにぷに触られてしまう。で、丸書いてチョンまでされた。素直に痛い。こいつ……マジで弟を何だと思ってたんだ。


「約束は守っただろ……そ、その……さ、さっさと……そ、その」

「ふーん。やって欲しいんだぁー。お姉ちゃんに興奮してるんだぁー。もうピクピクって下半身も元気になってるみたいだし」

「くっ!?」


 慌てて、俺は下半身を隠す他なかった。

 ほらな、言ったろ。姉貴は昔からこんな奴なのだ。

 弟の弱みを握っては色々と揺さぶってくる嫌な奴なんだよ。


「ごめんごめん……冗談だって。ほら、そんなに拗ねないでよ。中に出すのは無理だけど……ゴム付けてなら一回ぐらいはヤらせてあげるからさ」


「もういいよ。どうせヤラせてくれないの知ってるし」

「えー残念ー。あたし、本気だったんだけどなぁー」

「流石はクソビッチ、あざとすぎる。だが、俺は騙されない」

「本気だったのに……お姉ちゃん、お願いします。ヤらせてくださいと言ったら、気持ちいいことやってあげるよおー」


 素直に土下座してお願いしてみた。俺って単純すぎる。


 パシャ♪ パシャ♪


 えっ……? 何このシャッター音。


「よぉーし。これインスタにあげとこーっと。絶対にバズるわ」


 ニッコリ笑顔の姉貴。対して、俺はぷっくら膨れ面。


「そんなに怒らないでよー。友達にお願いしてアンタの童貞をもらってくれる人探してみるからさー。あたしの友達だから、絶対に可愛いわよー。一夏の思い出になるわよ」


「どうせ、クソビッチ連中だろ。興味はねぇーよ。俺が好きなのは、非処女ではない。俺が大好きなのは、処女なのだ」


「うわぁー。出た……処女厨。あのねー、アンタに教えてあげるけどねー。世の中に処女で可愛い女の子はいないのよ。大体イケメン連中から処女を奪われてるの。それにアンタって年上好きでしょー? 自分より年上で、おまけに処女。これって絶対に地雷だから……マジで気をつけなさいよ。絶対に……面倒に——って、アンタ、どこ行くのよ! もう外は暗いのよぉー」


「別にどこだっていいだろうが」


 そう言い残して、俺は自転車の鍵を取って家を出た。


「で、どうして俺は……こ、こんな場所に来ちまったんだぁー」


 自転車を漕ぎに漕いで辿り着いたのは、古びた神社の境内。近所では幽霊目撃情報が多発している。聞くところに寄れば、毎年自殺者が出るのだとか。


「それにしても夏場ってのに……肌寒いなぁーここは……」


 勢い余って家を飛び出したのは良かったものの、本当に俺は何をやったんだか。このまま家に帰ればいいだけの話だが、まだ帰りたくはない。


『世の中に処女で可愛い女の子はいないのよ——』


 姉貴の言葉が頭の中で反芻する。


 聞きたくなかった。あんな夢のない話なんて聞きたくない。


 姉貴の話は十中八九正解だろうな。年上で可愛い処女の女性。

 そんなのただの幻想だって分かっているさ。

 だがな、俺は求めているんだ。そんな女性を——。そんな運命の人を。


 そう、今まさに……神社の奥にある林を歩く女性のような。

 白のワンピースに、背中を優に越した長い黒髪。

 頭には麦わら帽子を被っていて——いや、被ってない。


 頭には白の鉢巻きを付けて、蝋燭を三本ぐらい括り付けて。


 近くにある木に向かって、釘を打ち付けながら。


「シネっ!? キえろぉ!? シネっ!? シねっ!? シねっ!? わたしを振りやがって!? わたしを振りやがって!? あの男は絶対に許さん! 許さんっ!? 絶対に許さんっ!? んー?」


 視線を感じたのだろうか、長い黒髪の女性はこちらを見てきて。


「ぎゃああああああああああああああざあああああああああああああ!!!!」


 あまりにも彼女が大きな声で叫ぶので、俺も思わず叫んでしまった。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 こうして、俺は運命の人と出会った。

 年上で可愛くて処女だけどめちゃくちゃ面倒な地雷女と。


 ボサボサの髪だけど……見てみれば、普通の女性だった。

 あーなんだ、お化けじゃなかったんだー。と安心したのも束の間。


「あれ……どうして手に金槌と釘を持っているんですか?」


 訊ねたら、即刻泣かれた。ボロボロって涙流された。

 うわぁー俺が泣かしたみたいじゃん。というか、こんな雑木林で何やってんのと思い、俺は女性の近くにあった木を見ると——。


 男性と思しき写真の数々。顔の部分は見えないけど、釘めっちゃ打たれてる。


「呪いをかけてやってんだよ……くっくっくっく……わたしを振った男には復讐を。これがわたしの……ヒッヒっヒ」


「あーヤベェー。今日、母ちゃんに店番頼まれてたんだったー」


 踵を返して、雑木林から離れようとするのだが……。


「逃げるんだね……泣いてる女性を置いていく最低な男なんだね……ぐすん……ぐすん……こんなに美人なお姉さんを残して……どっかに行くんだよね。そうだ……もう最初から分かってんだ。男なんて所詮そんなもん。最初は見た目で判断して声をかけてくれるけど……わたしの性格を知った瞬間に……呪ってやる呪ってやる。お前も一緒に呪ってやる。そうだ、絶対に呪ってやる」


 危ない女だった。絶対に近寄りたくない人ナンバーワンだよ、これは。


「ふむふむ。名前は石田ミツルくんって言うんだぁー」

「なんで、俺の名前知ってんだよっ! って、あー俺の財布す、擦られてる!」

「ふっ。これぐらい朝飯前さ」

「自慢していうなっ! スリって普通に犯罪だからなぁっ!」

「……グレーゾーンだから大丈夫だよ?」


 パシャ♪ パシャ♪


「キャっ……な、何するのっ。と、盗撮魔っ!」


 スマホで写真を撮ってあげた。フラッシュにビビって、女性は顔を手で隠した。写真慣れしていないのがもろわかりである。


「盗撮魔じゃねぇーよ。俺の財布を奪った件で、警察に届け出を出す」

「あーごめんー。落ちてたよー。ミツルくんー。良かったねぇー財布見つかって。あのさー財布拾ってあげた人はお金の一割もらえるって言うよね」


「お前、さっき擦ったって自分で言ってたよな? とりあえず、俺はもう帰るからな。もうお前みたいな人間と関わってたら、人生が狂っちまう」


 面倒な相手に関わるのは懲り懲りだ。俺の人生は姉貴に壊されたと言っても過言ではないからな。できるかぎり、面倒な奴らとは関わらない。これが人生の鉄則だ。


 林から離れて、ぬかるんだ泥を歩いていると……。


「……そ、そうだよね……誰も……誰も……わたしのことなんて……面倒な女だよね……うん、分かってる……そう……そうだ。わ、わたしは面倒な女。みんなに迷惑をかけちゃうダメな女なんだ……そうだ。そうだよ……何もできない」


 うわぁーやっぱり逃げて大正解だったなぁー。あんな奴と関わったら最悪だ。


「でもいいんだ……もう、わたし、楽になるから。ここで、わたしの人生はおしまい。ううん、違うの。ここからわたしの人生は変わるんだよ……ふふっ、沙耶。ここからわたしは変わるんだよ。そうだ、そうだよ、ここからわたしは」


「ミツルくん……ごめんね。さ、最後に迷惑かけちゃって、わたしみたいな……ダメな人に……時間かけさせちゃって……バイバイ、ごめんなさい」


 弱々しく霞んだ声だった。けれど、どこか鬼気迫るものを感じた。

 助けを訴えかけているような、そんな感じだ。


「こ……こ、こんな声を聞いたら、このまま帰れるはずがねぇーだろ」


 そう思い、俺は歩みを止めて振り返る。

 暗くて見えなかったけど、女性は縄を握っていた。木からぶら下がっている。

 涙を流して。まるで、自分の人生を悔い改めてやるように。

 そして、自分の過去を悔やむような表情で。ごめんなさいと、全世界に対して謝罪するような面持ちだ。何が何だか意味が分からない。


 ただ、彼女がやろうとしていることは分かった。


——自殺だ。


 女性は輪っかを強く握って、自分の首元へと持っていく。


「あっ、あの馬鹿野郎……何を勝手に死のうとしてんだよっ!!」


 気づいたら、俺は柄にもなく走っていた。

 間に合う保証はどこにもない。ただ救いたいと思った。

 別に助ける義理はないのに……ただ、少し関わっただけだ。


 それにも関わらず、俺はどうしようもないほどにお人好しみたいだ。


「なぁ……何をやってんだよ。お、お前……バカかよ?」


 ギリギリのところで、俺は女性を止めることに成功した。

 抱きしめるしかなかった。ただ後ろからギュッと抱きしめるのみ。

 もっと他の方法もあったかもしれない。けれど、咄嗟にできたのはこれだけだ。


「……ど、どうして、も、戻ってくるんだよ……こ、このまま楽にさせて」


「ふざけんなぁ! お前が勝手に死なれたら困るんだよっ!」

「別にいいでしょ。わたしの人生()だもん。好きにさせてよっ!」


 腰を屈めた女性は左右に肩を振って、俺の腕を振り解こうとする。

 後ろから抱きつく形で止めた俺の顔にはバチンバチンと、女性の長い髪が当たる。普通に痛かった。柔らかさなど感じなかった。目に入ったら、普通に涙を流すレベル。


「どうして……死ぬんだよ。どうして……命を無駄にすんだよっ!」


 理解できなかった。まだ女性は見たところ、若い。

 年齢はざっと二十代前半と言った感じだろう。

 それにも関わらず……なぜこんなにも苦しんでいるのか。


「……振られたの。振られたんだよ。 ……好きだったの」


 そうか……彼氏に振られたんだな……。色恋沙汰があったんだな。


「振られるのは辛いよな……分かるよ、俺だって」


 中学時代に勢い余って好きな女子に告白したら、ごめん生理的に無理と言われたよ。そんな俺だって、こうやって生きてるんだぜ。


「……絶対に運命の人だったのに。ハンカチを落として困ってたわたしを、助けてくれた優しいお方だったのに……」


 そうか……彼氏とはそうやって会ったんだな。

 運命と思っても、仕方ねぇーよな。

 俺だって、当時好きだったクラスの女子を運命の人と思ってたさ。

 でも、いいじゃねぇーか。お前はまだ……付き合えたんだからさ。


「それからわたしは彼のことをずっと思っていた。彼の家だって特定したし、彼のために料理を振る舞ったこともあった。もちろん、ポストに入れてね。で、でも……でも……彼はわたしを裏切ったの。彼はわたしを見てくれてなかったの。あの人……わたし以外の女がいたのよ。わたし以外の女がっ!?」


 ギリっと歯を食い縛る音が。

 それと同時に、俺の同情心にプッツンと亀裂が走る。


「お前、それってストーカー行為って言うんじゃねぇーか?」


「…………ち、違う……あ、あれは…………求愛行動……」


 同情した俺がバカだった。コイツは彼氏に振られたわけじゃねぇー。

 ただ勝手にハンカチを拾ってくれた人を運命の人と勘違いしたバカだ。


「よぉーし。とりあえず、自殺する前に警察に行こうか。それで罪を償ってから、死ぬなら死んでもらおうか?」


「け、警察だけには突き出すのはやめてえええええええええーーーーー!!!!」


「ゆ、許してくれるの……? わ、わたしのこと……警察に突き出さない?」


 体操座りの格好をした女性が、上目遣いでこちらを見てくる。

 涙で潤んだ瞳を見せつけられると、男としてはかまってやるしかない。


「警察には突き出しませんよ。呪われそうで怖いですからね」

「そ、そう……ありがとう……キミ……や、優しいんだね」

「優しいわけではありません。女性が困ってたら助ける。それが男です」


 自信満々に胸を張って、俺は言ってやった。ちょっと惚れてもいいんだぜ。


「さっきまで帰ろうとしてたくせに。店番があるんだーとか言ってたのに」


 痛いところを突かれてしまった。まぁー普通に考えて、髪ボサボサで貞子さんみたいな格好の女性とは関わりたくないと思うのは当然だよな。


「それでは、ストーカーさん」

「ストーカーって言うのは、やめて!! わたしには名前があるの。沙耶(サヤ)って名前が!!」


 名前で呼べってわけか。


「それでは、沙耶さん。俺、もう帰るんで」


 回れ右。

 面倒な人とこれ以上関わる必要性はない。

 と言うわけで、歩き出したわけだが……ググッと引っ張られる。


「あのぉー腕を離してもらえませんかねー?」

「わたしの自殺を止めたんだ……今から話を聞いてもらおっか?」

「マジですか?」

「大マジだ。キミはわたしの失恋話を聞く義務がある」


***


「自転車二人乗りって青春感があっていいねぇー、少年」


 大きく腕を広げて、沙耶さんはゲラゲラと笑っていた。

 サーカスに出てくる玉乗りクマみたいな感じだな。


「青春感ってよりは、ホラーって感じの方が強いですがね」


 泥で汚れた白のワンピースを着た長髪の女性。

 うん、絶対にB級ホラーにありがちな設定だな。


「そうだよね……うんうん、たしかにホラーだ。キミみたいな若い男の子が……さっきの神社にいたって。も、もしかして……キミは死神とか?」


 相手側からしたら、俺の方がホラーだよな。

 真夜中に突然現れた男とか。それも神社だし。ホラー感増すわな。


「生憎ですが、あなたをあの世に連れていくことはありませんよ。連れて行くのはコンビニです」

「流石はキミだぁー! 今日は絶対に飲むぞぉー! スカッとするぞぉー!!」


 コンビニへと到着したものの……うむ、今まで暗くて分からなかったけど。


「沙耶さんや、アンタはここで待っててくれ」

「えー? どうしてー? わ、わたしはもう用済み? 捨てちゃうの? 跨がらせるだけ、跨がらせたくせに……」

「自転車になぁ! 自転車にっ! それだけは覚えとけっ!」

「えーどうしてー? わたしを連れて行ってくれないのー? わたしとコンビニに行くってそんなに嫌? 大丈夫だよー、迷子には絶対にならないようにキミの手を握っててあげるからさー」


 コイツ……迷子になる自信があったのかよ。こんな小さなコンビニ内で。


「あのなー、お前……コンビニの窓ガラスで自分を確認してみろ!」

「うん。分かった……やってみるっ!」


 そう言って、沙耶さんはコンビニの窓ガラスと睨めっこ。

 うむーなどと唸って、自分のほおをうにゅーと握ってみたり。


 あれー? 今まで気づかなかったけど……コイツ、意外と可愛くね?

 すげぇー面倒だけど。すげーメンヘラだけど。


「鏡よ、鏡。この世で一番可愛いのはだぁああれー?」


 子供みたいな無邪気な声を上げて、訊いてやがる。

 で、その後、少しだけ上擦った声を作って。


「それは決まってるぴー。沙耶ちゃん以外にはいないのぴー」


 うむうむ……やっぱり自分可愛いとか自惚れしてやがる。

 いやぁー俺だって風呂場の鏡で映った自分に惚れてるけどさ。

 本当……どうしてだろうな。風呂場の俺はかっこいいのに。

 あの無敵状態が学校に行けば、絶対に学校でモテるはずなのにっ!


「鏡の精に聞きました。世界で一番可愛いのは自分でしたっ!?」

「おい……お前、現実を見ろ。ほらぁースマホの内カメラっ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ。可愛い沙耶ちゃんのお顔が泥んこで……服もボロボロぉー。目も泣き腫らして……お、お化けみたいだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「うるせぇーから、テメェー黙ってろ」


 スマホに映る自分の顔と、俺の顔を見比べて、沙耶は言った。


「でも、大丈夫っぽい。まだ……わたし、コンビニに入れるねっ!」

「悪かったな。俺の顔が……カッコよくなくてっ!」


 ふざけてやがる。コイツ……可愛いけど、めちゃくちゃうざいっ!


 最終的に二人でコンビニに行くことになった。

 トイレの化粧台で泥を落とすんだってさ。うむ、傍迷惑な奴だな。

 その間に俺は適当におにぎりと……スナックコーナー少ねぇーな。


「おっと……焼きサバがあるだけまだマシか」

「お、お姉さんはこれにするー!!」


 気付いたら、沙耶さんが近くにいたみたいだ。

 彼女の手は一個200円はかかる紙袋型のおにぎりへと伸びていて。


「それ高いやつですよ。知らないんですかー? お母さんに言われたでしょー? コンビニのおにぎりは100円までだって。って……あれ? アンタ誰?」


 隣に居ると思っていた女性は、沙耶さんではなかった。

 服装とかは沙耶さんのものだけど……で、でも別人だ。


 体躯は痩せ細っており、病的なまでに白い肌を持っているのは確かである。

 と言っても、それは一種の美しさに見えてきた。男性なら分かるだろ?

 病弱な女性を守ってあげたくなるって気持ちはさ。髪はボサボサと言うよりは、お風呂上がり状態って感じだな、前髪とか濡れてるし。自然体をどこまでも貫いており、うむ……私生活を覗き見してるようだ。でも、残念。


「貧乳はねぇーわな……お姉さん属性に必要なのは母性感溢れる胸だよな」

「わ、悪かったなななぁ。貧乳で。これでもわたしはCカップはあるんだぞ。Dカップにもう少しでなるかもしれないんだぞ。この野郎」


 頭グリグリされた。うー、いてぇー。とりあえず、こんな暴力を振るう奴は。


「沙耶さんですかー? 見違えましたねー」

「どうだどうだ。お姉さんに惚れたかー? どうだぁー? 可愛いだろー?」

「このうざさは、沙耶さん以外にはいませんねー」


 可愛いのは認めてやるが、口に出すのはやめとこ。コイツ調子に乗りそうだし。


「ねぇーお願いー。おにぎり買って買ってぇー。お願いー」

「調子に乗らないでください。誰が買うかー」

「お酒も一緒に買ってよぉー。わたし……お金持ってないんだもん」

「調子に乗るなっ! 誰が買うか……」

「いいんだね……いいんだね? わ、わたし……泣くよ?」


 泣き出す一歩手前と言った感じで、沙耶さんは指を目元に当てている。

 で、こちらを見つめて、様子を伺っているようだ。


「子供を連れ歩く母親の気持ちが分かった気がします。分かりましたよ……もう、今日ぐらいは話に付き合ってあげますから。し、仕方ないですねー」

「ありがとう……お姉さん、奢ってくれる人はだーいすき」


 満面の笑みを浮かべられると、困るなぁー。

 俺、弱いんだよな、あんな感じの無邪気な笑みってのにさ。


 店員が俺たち二人を見るなり、ケッと嫌そうな顔をして舌打ちしてきたけど……俺は何も悪いことしてねぇーぞ? 多分カップルか何かと勘違いしたのかもしれねぇーけど、そんなの全然ねぇーからな。

 ただ、面倒な女の相手をするはめになった可哀想な男子高校生だぞ。

 そんなことを思い、俺はレジ袋を受け取ってコンビニを後にした。


「沙耶さん……何してるんですかー?」

「いやぁーべ、別にー何ともー。ただこれ見てただけだよ」


 そう言って沙耶さんが指差したのは、地元では有名な夏祭りのポスター。花火がドドンと打ち上がった空に、浴衣姿の綺麗な女性の姿。


「あはは……別にわたしには、縁もゆかりもない場所なんだけどね……こ、こんな場所」


 出店はもちろんのこと、豪華アーティストや漫才師が歌や漫才を披露したり、他にも大きな花火も毎年打ち上がったりと、老若男女問わず楽しめる一大イベント。


「ほら、もう行こー。ぼぉーとしちゃって」


 先に自転車に跨った沙耶さんに呼ばれて、俺はポスターから目を離して、彼女の元へと向かった。


 次の目的地はどこにしようかと悩む暇もなく、俺は自転車を漕ぎ始めた。別にどこかに行くつもりはない。ただじっとしてるのが嫌だったのだ。


「ありがとうねー。チュウハイ買ってくれてぇー。かああああぁぁぁぁーこ、これだぁー。あーい、生きてるってす、素晴らしいねぇーーーーー!!」


 プシューという音が聞こえてきた後、豪快に喉越しが聞こえてきた。

 おっさんみたいな飲み方してやがるな、こ、こいつ。モテないわけだ。


「一人で勝手に飲んでるじゃねぇーよ。こ、この馬鹿野郎がっ! 遠慮をしれ」

「遠慮しない。それが、わたしの生き方なのですっ!」

「く……くそったれが。お、お前って人生舐めてるだろ?」

「人生舐めてる……? んーそんなわけないじゃんー。わたしは人生の最底辺を生きてる人間だよ。もう重圧で押し潰されそうになってるぐらいだし」


 自転車を漕ぐ速度を上げると、後ろに乗る沙耶さんの髪の毛が靡いてきた。

 香水のにおいがプンプンする。香りには詳しくないので、種類は分からん。

 ただ……ひたすらに甘い。クラスの女の子たちからは嗅げない大人の匂い。


「それでこれからどこ行くのー? どこ行くのー? ひくっ……どこ行くの?」

「別にどこに行こうとは思ってはいませんけど……適当な場所で」

「適当な場所で、お姉さんに乱暴する気だな。お姉さんがお酒弱いこと知ってて、それで……夜道で、わ、わたしの初めてを奪うつもりだなぁー、こ、この変態くんめがぁああああー」


 運転中の相手にはちょっかいを出すなと言われてこなかったのか?

 完璧に酔っ払っており、後ろから腕を回して顔を触ってきやがる。


「酒を買えと言ったのもお前だよ。それにお前の処女とか要らねぇー。一度ヤったら、お前の場合は……地獄まで付いてきそうだし」

「うん。多分、どこまでも付いていくと思うよ。そして一緒に幸せに暮らそうね? って言うと思う。それでわたしは専業主婦になって、ニート生活を堪能するのだぁー。がはははははは、沙耶ちゃん、大勝利なのだぁーいえぇーい」

「はいはい、沙耶ちゃん……大勝利だねぇー。はぁーい、凄いねぇー」

「そうですそうです。沙耶ちゃんをもっともっと褒めて褒めて。もっともっと世の中は、わたしを褒めてくれないとダメダメ。お父さんも、お母さんも、もっともっと沙耶ちゃんを褒めてくれないと……うえええええええええええええええん」


 はい、突然泣かれました。何コイツ……情緒不安定過ぎないか?


「大丈夫か?」

「大丈夫だよ……涙と鼻水はキミのシャツで拭いてるから」

「涙は許す。ただし、鼻水、テメェーはダメだ」

「すぐに乾くから安心して大丈夫だよー。美人の鼻水って貴重だよ?」

「生憎ですが、俺にはそんな特殊な趣味はないので」

「えーつまんないーつまんないー」などと言いながら、背中に沙耶さんの顔がぐにゃりぐにゃりと当たっているけど……これって鼻水が……。


 これ以上深く考えるのはやめとこ。うん、絶対にやめてたほうがいいわ。


「あーあのさー場所指定してもいいー? いい場所思いついたんだけどー」

「どこでもいいですけど……できるだけ近場でお願いしますよ」

「はぁーい、かしこまリンゴー。ズバリ、ホタルの見える公園だぁー」

「ホタルの見える公園と言われても……俺知らねぇーし」


 そもそも、と呟いて困惑気味に訊ねてみた。


「都市開発が進んでいるこの片田舎に、ホタルっているんですかー? ホタルって綺麗な場所にしか生息しないと聞いたことがあるんですけど」

「ふっ。わたしを誰だと思ってるんだい。一週間前にもその公園に赴いたんだよ。大丈夫、お姉さんをドーンと信じなさいー」

「沙耶さんだから信じられないんですけど……」

「まぁまぁー道案内はしてあげるからさー。お任せリンゴー!!」


 ふーん、それなら俺も助かリンゴー。


 って、おい……なんだよ、リンゴという語尾はぁっ!?


 公園に無事到着。薄暗い電灯が一箇所か二箇所あるのみ。

 遊具などはブランコがあるのみぐらいで、他は何もなし。

 近くに川が流れているのか、せせらぎが聞こえてくる。


「それにしてもこんな場所に公園があったんですねー」

「正直、わたしも知らなかったぐらいだし。でも隠れたスポットだぜ。一人で泣きたいときはここで決まりだ。で、呪うときはあの神社へゴー」

「神社って一応神を祀る場所なのでは?」

「別にいいんだよー。というか、キミって神様とか信じる系の人ー? うわぁー、詐欺師に引っかかった先輩が教えてあげるけどねー。キミは詐欺に遭うタイプだねっ!」


 ビシッと指を差されて、自信満々に言われてしまった。


「詐欺師に引っかかった先輩が言うには間違いありませんね。実際に俺……もう沙耶さんに騙されているわけですし」

「騙す奴は悪くない。騙される奴が悪いんだぜ」


 えっへんと胸を張って、ドヤ顔で言われた。なんだよ、この自信は。


「詐欺に引っ掛かったって、何したんですか?」

「布団を買ったんだー。お布団、イェーい。総額72万円のふかふかだよーん。人生の三分の一は睡眠です。つまり、睡眠の質を上げれば、あなたの幸せはなんちゃらかんちゃらと言われて……そのまま一括払いでチャリンよ。で、それから二時間後に自分の過ちに気付いて『テメェーふざけんなぁー金返せーこのゴミ業者がぁーよ。さっさと金返さないなら、呪うからな。お前の孫の孫の代まで、呪ってやるからなぁー。あの世で一生お前らが詐欺してたことを恨んで恨んで楽しみに待っててやるからなぁー覚悟してろよーこのゴミが』とブチギレしたら、お金もお布団もプレゼントしまーすと言われたよ。流石だね、クーリングオフ制度!」


「そ、壮絶な人生を歩んでることだけは分かりました……」


 詐欺師グループも大変だなぁー。こんな面倒な女に物を売りつけて。


「あぁーやっぱり他人の金で食べるご飯は美味しいなぁー。最高だよー」


 ブランコに乗って愉快にぶらんぶらんと揺れる沙耶さん。


「自分より年下にお金を払わせて複雑な気持ちにならないんですか?」

「複雑な気持ち……? どうして? 沙耶ちゃん世界で一番可愛いからフリーパスだよー」


 思考回路がイかれてやがる。自意識過剰にも限界があるだろ。


「それで……身の上話というか、お前は何歳だよ? ってか、何?」

「ふっふっふふ、よくぞ聞いてくれました」


 パチパチと手を一人でに叩いて、沙耶さんはおにぎりをむしゃむしゃと全て口の中に放り入れてしまった。あーお、俺の200円……あんなにあっさりと。


「ほんにゃら……んむっ、いまがら……全部せつめ……ん」

「おい、食べながら喋るな。慌ただしい奴だな」


 ギブギブと言うように、沙耶さんは太ももをパンパンと叩く。呻き声っぽいのを出しているが……も、もしかして……こ、コイツ。


 喉におにぎりを詰まらせたんじゃねぇーか? こ、このバカが。

 まだ口を付けていないペットボトルの水を投げて渡してやった。


「ぷはぁー……ああーし、死ぬかと思ったよ……良かった生きてて」

「自殺未遂の分際で、何が生きてて良かっただよ」

「……うう……沙耶ちゃんをイジめたらダメだよ。沙耶ちゃんは心弱いんだから。もう豆腐なんだからさ」

「はいはい。分かったよ、それでさっさと話せよ。失恋話っての」

「せっかちだなぁー、キミは。やれやれ、お姉さんの失恋話を聞かせてあげよう。全く若者は大人の恋愛話が好きだなぁー」


 頭をポリポリと掻きながら、沙耶さんは照れた口調で言ってきた。


「今すぐ家に帰ってもいいんだぞ? こ、この地雷女がぁ」


 拳をギュッと握りしめて、お姉さんに向けると……。


「ひぃー暴力男だぁー女の子に手を出すとか最低だぁー」


 若干腕を上げて顔を隠していた。うむ、とりあえずビビってくれてみたいだ。


「話してあげる前に、少年よ。ほろよいをプリーズだ」

「アンタ……これで何本目だよ。もう二缶は飲んでるだろ?」

「いえぇーい。お酒最高ー!!」


 ダブルピースしてきやがった。反省の色なしだな。


「お酒は没収だ。お前は飲み過ぎだ」


 ビニール袋から取り出そうとしない俺を見て、お姉さんは険しい表情になった。そのまま遠い方向を眺めながら、ポツリと呟いてきた。


「大人ってのはね……お酒を飲まないとやっていけないこともあるんだよ、少年。それでも大人は現実を受け止めて生きていかないといけないのさ」

「かっこよく言っても、お酒は渡しませんよ。というか、騙されませんから」

「ちぇ……ケチンボケチンボケチンボ。未成年のくせに生意気だぁ!」

「未成年で悪かったですね。大人のくせに無一文の人には言われたくないです」

「むっ、無一文とは失礼なっ! 今日はお金を持ってなかっただけで、家にはあるもん。まだ……そ、その……5000円ぐらいはあるもんっ!」


 むきぃーとほっぺたを膨らませているけれど……。


「5000円って大人として誇っていい数字なのかよ? アァ?」


「……っく、そ、それは……。あのさー知ってるかい? お金の多さで、マウントを取るのはどうかと思うんだけど。そもそもキミってまだ高校生でしょ? さっきのコンビニだって、親のスネをかじって買っただけなんでしょ? ほらぁーわ、わたし言える立場じゃないじゃん。やぁーい、やぁーい」


「残念だったな。俺はバイトやってるんだよ。お前とは違って。おい、スネ齧り」

「ううう……と、年下にマウント取られたぁー。うわぁーん、全然違うー。わ、わたしの思ってたのと、全然違うー。もっとカッコいい大人の余裕を持ったお姉さんみたいな立ち位置が良かったのにー。うわああああーん、全然違うー」


 マウント取ったわけじゃなくて、自分から墓穴を掘っただけだけどな。


「泣くのやめろよ? ほら……ハンカチ貸してやるから」


 ポケットの中に入っていたハンカチを渡してやると、沙耶さんはすぐに泣き止んだ。


「……い、意外とや、優しいところがあるんだね……きゅ……きゅん!」


 今……変な効果音が聞こえてきた気がするけど……何かの間違いだよな?


「親のすね半かじりくん」

「お前……どこまで自分と俺を同類にしたいんだよっ! この丸かじりがぁ!」

「ごめんなさいぃー。だ、だって……お姉さんみじめでしょ? 可哀想でしょ? だって、わ、わたし……引きニートだよ?」

「ヒキニートで……ストーカー行為を繰り返して、挙げ句の果てには自分より年下には人生とはなんぞやを語る自殺願望アリの面倒な女ってわけだ」

「えっへん。どうだ? 凄いだろ? おまけにアル中だぜぇーイェーい」

「素直に笑えないからな、お前。自分の立場を弁えたほうがいいぞ」


 言われなくても分かってますとでも言いたげな表情で、沙耶さんは頷いて。


「弁えているよ。沙耶ちゃんは世界で一番可愛くて、でもあまりにも可愛いから神様が試練を与えているんだよ。人生をハードモードにしてやろって、もうー神様も困った人だよねー。全く、気まぐれな神様だよ」


 コイツの頭の中はどこまでめでたいんだぁ? あれかー? 現実逃避してんの? もうさ……お、俺の手に終える相手ではないと思うんだが……?


「ユーはどうしてヒキニートへ?」


 あまりにも惨めだったので、俺は沙耶さんにお酒を与えた。ゴクゴクと幸せな表情を浮かべて「ぷはぁーこ、これがた、たまらんんっっっーー!!」などと言ってやがる。コイツ……呆れるな。人様のお金で飲む酒は美味いのかね。


 グビッとチューハイを口に付けながら、沙耶さんは思い詰めたように。


「本当にどうしてこんなふうになってしまったんだろうねぇー。地元の女子校育ちでそのままエスカレーター式で女子大に通って、そのまま気付いたら就職する時期。恋も何も知らずにうん、気付いたら……あっという間に大人になってて……無事にどうにか就職先も決まったんだ。で、最初は頑張ったんだ、最初は頑張ろうって。で、でも……頑張りすぎて、反動で壊れちゃった」


 沙耶さんはどこまでも明るく笑った。自分を嘲笑うように。もしかしたら、笑わないと辛いのかもしれない。笑わないとこの話ができないかもな。


「あはははは……少年も大人になったら分かるときが来るよ。あー分かるときが来たら……ダメなのかな。とりあえず、うん……意外と社会が厳しかったってお話。ってーど、どうしたのー? そんなに落ち込んだ表情してさ。あくまでも、わ

たしの話だって。だからさ、キミは大丈夫。キミは絶対に大丈夫だよ」


 念を押すように、大丈夫だと二度も言われた。

 今までコイツのことを勘違いしていたのかもしれない。

 キャラを作ってるだけで……コイツ意外とまともなんじゃないか?


「ぷはぁー。チュウハイ本当に美味しいぃーー。久々のお酒最高ー。それも他人の奢りで飲むお酒マジでうめぇえええええええええええええー」


 前言撤回。やっぱり、この女はただのダメ人間だな。


「ねぇー、キミの肉まん美味しそうだね!」

「あげませんよ……捨てられた子猫みたいな目をしても」

「ケチンボケチンボ……一口ぐらいいいじゃん!」


 駄々を捏ねられるのは面倒なので了承してやった。


「うううぅー。に、肉まん美味しいねぇー。もう一口ちょうだい!」

「一口って言ったくせに……チキン買ってあげたのに」

「ふふっ。成長期の女性はお腹が空くんだよ」

「嘘つけっ。もう過ぎてるだろうがぁ!」

「甘かったな、ミツルくん。女性にはここがあるのだよ」


 沙耶さんは自分の胸元をバンっと叩いてみせた。


「全然成長してるようには見えないんだが? 貧乳女」

「今に見てろよー。一年後、いや二年後には巨乳になってやるからな!」


 目尻に涙を溜められて言われてもなー。

 本人も自覚ありなのかもな。もう手遅れだって。 


「巨乳の良さは分かりますけど、貧乳ってそんなにダメですかー?」


 男としてはデカイ方がいいと思うが、大きいのも小さいのも個性だろ。


「女子力って知ってるだろ? 数値が小さければ雑魚扱いされるんだ」

「と言っても、Cカップはあるんでしょ? いいじゃないですか」

「向上心がない奴だな。少年漫画では世界最強を目指すだろ。それと一緒だ」

「胸の大きさで競う前に、自分の人生で競って見たらどうですか? ヒキニートさん」

「うぐっ……」


 沙耶さんは顔を背けてもう肩をプルプルと震わせた。

 そのままブランコを漕ぐ速度を上げながら。


「もうぉーいいもんいいもん。わたしのおっぱいが大きくなっても、絶対にキミにだけは触らせてあげないんだからね。もうぉーお姉さんにイジワルした罪は大きいもんねー。絶対にもう許してあげないもんー」


「あーいいですよ、別に。俺だって、沙耶さんの胸を触っても何も思わないと思いますし。第一、そんなに揉んでやろうと思うほどに大きくないじゃないですか?」


「むぐぐぐぐっーーー。Dカップをバカにしたなぁ! 現段階で女性の七割を敵に回したと思えよ、この夢物語くん。幻想の女性といつまでもデレデレしてやがれ」


「Dカップって、はい……また見栄を張って盛りましたね。さっきまでCカップって言ってましたし。第一、沙耶さんって……Bカップぐらいじゃないですか?」


 ギクっと身体全体を反応させて、沙耶さんは声を上擦らせて。


「そんなわけないでしょうー。わたし、ヒキニートだけど……嘘だけはつかないよー。まだ狼少女じゃないよぉー、うんうん……まだまだそこまで……落ちぶれはないよぉー」


「狼少女と言ってる時点でアウトですけどね。もう少女という年齢じゃないですし」


「いつの日か……絶対に豊胸手術して……絶対に絶対にみ、見返してやる。アコムにお金を借りて絶対にやってやるもんっ!」


 沙耶さんがヒキニートになった理由が分かった気がする。

 コイツ絶対に一人にしちゃダメな奴だわ。借金塗れになって自爆するタイプ。



***


「あーそういえば、ホタルが何とか言ってませんでしたっけ?」


 その言葉を皮切りに、沙耶さんに連れられて川沿いまで歩いた。

 すると——黄緑色の光が飛び回っていた。

 人工の光が一切ない空間を彩る無数のホタルたち。

 自然特有の輝きに、俺は声を忘れて見惚れてしまう。


「どうだい? 綺麗でしょー?」

「こ、こんな場所があったんですね……し、知りませんでした」

「近場って誰も知らない穴場が意外とあるもんだよ」


 沙耶さんは誇らしげに言い放ち、目元をうっとりさせた。

 しばらくの間、俺たちは小さな命の輝きを見届けた。


「終わっちゃいましたね……」

「仕方ないよ。ホタルって19時から21時と言われてるし」


 クルリと顔を回転させて、沙耶さんは言った。


「少しだけ……真面目な話に付き合ってくれるかな?」

「そのために来たんですよ。最後まで聞いてあげますので」


 沙耶さんは頑張り屋だったのだと。昔は自堕落ではなかったのだと。

 色んな人から頼りにされるような人間だったのだと。

 完璧主義者ではないまでも、相手が求めることに全て答えようと。

 彼女は努力に努力を重ねて、余程無理をしていたらしい。


 その結果——沙耶さんは壊れたのだと。


「学生時代は大丈夫だったんだよ。で、でもね……社会に出たら無理だった。どんなに頑張っても頑張っても、仕事は次から次に出てくる」


 終わりのない、果てしない仕事の数々。

 他人に頼ることを知らない彼女は自分一人で業務に取り組んだ。

 でも無理だった。おまけにお人好しな沙耶さんは他人の仕事も手伝った。


「最初は大丈夫だったんだよ。全部上手く行ってたんだ。でもね——」


 途中から職場は沙耶さんに任せればいい、という考えに至ったらしい。

 当たり前の話だが、人間はサボりたい。働き蜂がいれば働かない蜂もいる。


「それでね、限界が来たの。睡眠時間がどんどん削られて、業務もどんどん増えて……家に帰るのは深夜帯で、それからまた仕事に向かうのは朝が明ける頃。辛かったけど……それでも給料は良かったんだ。誰もが知ってる企業だったから」


 結末を話すと、沙耶さんは仕事を辞めたかった。逃げ出したかったらしい。

 家族や友人からは「頑張りなさい」「あの企業で働いてるのー凄いねー」と言われて、自分はまだ恵まれていると思っていたらしい。


 こうして頼りの綱の言葉さえも、彼女に負担を募らせる結果になった。


「で、現在は仕事を辞めて、ダメ人間になっちゃったんだ」


 ここから先に語られたのはニート生活の日々。そして——。


「わたしは彼に出会ったんだ。運命だと思ったの、でも違った」


 だって、彼には可愛い彼女がいるんだもの。


 どこまでも掠れた声で沙耶さんは言った。


「多分ね……わたしは怒りの矛先を探してるんだと思う」


 怒りをぶつける場所が欲しくて、心のモヤモヤをどうにかしたくて。


 彼女は呪うことにしたのだ。もうどうすることもできなくて。


 手段はどうだって良かったのだ。

 ただ自分を傷付けない方法を探していたのだ。


 それなら——俺ができることは。


「復讐しましょうよ、俺と一緒に」


 逆恨みだと思うが、このままでは沙耶さんは絶対に変われない。

 一歩でも前に進めればいいのだ。そしたら変われるかもしれない。


「ふ、復讐って……? で、できないよ……そ、そんなこと」


 震える声で、沙耶さんは視線を下に向けたままだ。


「怒りの矛先がないのなら作ってあげればいい。本当なら俺がなってあげればいいんですけど……ここはその沙耶さんを振った男(厳密には彼女持ちだと発覚しただけ。告白はしていない)に復讐してやりましょうよ」


「……だ、ダメだよ……そ、そんなことできないよ……」


「呪いをかけてた人が何を言っているんですかー? 良い作戦があるんです」

「良い作戦って……?」と、体操座り状態の沙耶さんが顔だけを上げる。


「夏祭りがあるでしょー? 俺たちでそれぶっ壊しましょうよ」

「ぶ、ぶっ壊すって……そ、そんな大それたこと……」

「俺たちが一番夏祭りを楽しめばいいんですよ。どんなカップルよりも、どんなリア充よりも。俺たち二人が」


 男子高校生という身分の俺にできることはこれぐらいだ。

 もっと大人になれば、もっと素晴らしいアイディアが出てくるかもしれん。

 ただ——これで少しでも、沙耶さんが救われればそれでいいのだ。


「無理だよ……だ、だって……わ、わたし……お金持ってないから。ニートだよ……わ、わたし……無駄遣いとかできないもん。お祭りの出店って高いし」


「安心してくださいよ。お金のことなら、俺がどうにかするので」


 そう言って、俺は座った沙耶さんの腕を無理矢理引っ張って。


「お姉さんの一日を、俺に買わせてくれませんか? 一日一万円で」

「ど、どういうこと……? そ、それに……う、腕、ちょっと痛いかも……」


 顔を赤く染めたままに、目だけをこちらに向けた沙耶さん。

 そんな年上の彼女に向かって、俺は言ってのける。


「今年の夏祭り一日だけでいいんで、俺の彼女になってくれませんか?」


 僅かに開いた窓から風が入り、遮光カーテンが揺らいだ。

 遮光と銘打ってるくせに西日の光は遮れなかったらしい。

 心地良い風と蜜柑色の光が寝ていた俺を襲って——。


「ちょっ……うおお? や、ヤベェー……待ち合わせに遅れる!!」


 ベッドから飛び起きた俺は着替えを済ませて、洗面台前の鏡で髪を整える。

 と、焦る俺の前に、浴衣姿の姉貴がやってきた。


「姉貴も夏祭りに行くんだな」

「まぁーね。どうー? 可愛いでしょー? この浴衣」


 ゆっくりと一回転して、花柄の赤浴衣を見せびらかす姉貴。

 胸元辺りが若干キツそうに見えるなぁー。やっぱり巨乳は大変だ。


「あー可愛い可愛い。彼氏さんに褒められたらいいな、それじゃあ」


 ニッコリと笑みを浮かべた姉貴に見送られて、俺はそのまま家を出た。


 自転車をガチ漕ぎして、待ち合わせ場所に十分前に辿り着いた。


「あのー? ま、待ちましたか? 色々とバタついてて……あはは」


 沙耶さんは待っていてくれた。本当に来るか心配してソワソワしてたのが可愛く見えたけど……お、俺って末期かな? 面倒な女なのに。


「大丈夫……わ、わたし……ニートだから。時間だけはあるから……うん」


 自虐ネタで誤魔化されてしまった。何だか、俺が悪いことしたみたい。


「それにしても……」


 沙耶さんの私服チェック。前回と同じく白のワンピースか。


「あ、あの……ちょっとそんなにジロジロ見ないでよ。何か付いてる?」

「はい。いっぱい憑いてますよ。大量の霊が」


 ふざけて言ったつもりが、沙耶さんは顔色を真っ青にしてガクガク震え始めた。で、そのままぎこちなく口の端を上げて、正当化するように。


「そ、そ、そ、そ、そんなはずないでしょー。ゆ、ゆ、ゆ、幽霊とかありえない」

「実はあそこ……幽霊目撃情報があるんです。それに自殺スポットだし」


 目元に涙を集めた沙耶さんは俺のシャツをグイッと掴んで、


「……幽霊取ってよ……お、お祓いしてよ……わ、わたし……こ、怖い」


 流石に可愛そうに思ってたので、俺は言ってのける。


「今の全部嘘ですよ。俺霊感とかないですし」

「……ふー、よ、良かった、良かった……」


 彼女の肩の震えが止まり、一安心と思ったのも束の間。

 だけど、と呟いて、沙耶さんは、


「大人をからかうのもいい加減にしなさい!」


 この後、めちゃくちゃ説教された。幽霊にどれだけ怖がってんだよ。


***


「あのー……こ、これ……ほ、本当に似合ってるかなー?」


 衣装室から出てきた沙耶さんは顔色を真っ赤に染めていた。


「似合ってます。正直、男たちは二度見、三度見はしますね」


 夏祭りと言えば、浴衣に決まってるだろ。

 そう思った俺はレンタル浴衣店へと向かい、彼女に似合った服を探すことに。

 で、現在試着している青色の浴衣。模様は麻。お世辞抜きで合う。


「お、大人をからかうな……お世辞を言っても……な、何も出ないぞ」

「ヒキニートの沙耶さんに何かを出してもらうつもりはありませんよ」

「……ま、また……お、大人をからかってる。もうぉー」


 と言いながらも、沙耶さんは鏡に映る自分に見惚れていた。

 両手をほおに添えて、そのまま小さな声で。


「沙耶ちゃん……か、可愛いかも……やっぱり沙耶ちゃん可愛いかも……」


 などとうっとりした目付きで言って、何かを思いついたのか、振り返ってきて。


「わたしだけ浴衣を着るのはズルい! き、キミも着なさい!」

「キミも着ろと言われてもですねー。お金を払うのは、俺っすよね?」

「そ、それは……そ、そうだけど……わ、わたしだけき、着るのはは、恥ずかしい」


 顔を少しだけ下へと向けた後、沙耶さんは決した表情で言った。


「そ、それにあ、あそこを見てよ! 彼氏彼女カップル浴衣コーデって!」


『今年の夏は浴衣で決まり。カップルで一緒に浴衣を着て、花火を見よう』との宣伝ポスター。


「そ、それに一着借りるのと、カップルで二着借りるの一緒だって書いてるよ」

「俺別に浴衣を着るような男ではないですし……そういうのは、彼氏彼女がやることで……、俺は、べ、別に」

「今日だけは、今日一日は、わたしの彼氏になってくれるんでしょ?」


 下唇に指を当てて、甘えた口調で沙耶さんが言った。


「そうですね。分かりましたよ、すぐに着替えるんで待っててください」


 どれを選ぼうか分からなかったので、沙耶さんが全て選択。

 と言っても、流石に派手な色は嫌なのでお断りしたけど。

 緑色とかピンク色の浴衣は現在の俺に強すぎる。というか一生着れない。


「うむうむ……意外とキミって浴衣が似合う男だね」

「そうですかねー? まぁーそのありがとうございます」


 鏡に映った自分をチェック。藍色の浴衣で縞模様。


「まぁーた、たしかに……お、俺……カッコいいかも?」


 顎に手を添えて、何度かキメ顔したけど……うむ、今日の俺もカッコいい。


「自意識過剰女とか言われたけど……キミの方がよっぽどじゃん!」


 ツッコミを入れられたけどスルーして、俺たちは夏祭り会場へと向かった。


***


 ごった返すほどに混雑した人の数。この街に住む全市民が来てるんじゃないのかと錯覚してしまうほどだ。流石は田舎町。イベントが少ないので、誰もが楽しみにしてるだけはあるな。


「毎度のことながら……どうしてこの街ってお賽銭するんだろうね?」と、沙耶さんがぼやいてきた。

「えっ? 逆にお賽銭してから祭りを回らないんですか?」

「それってローカルルールらしいよ。他の地域ではそんなことしないんだってさ」


 初めて知った。今まで全国民やってると思ってたのに。


「でも、それって変じゃないですか? 祭りってそもそもは神様を祭るために開かれたものですよね? 来年の稲作が豊作になりますようにーとか、災害が起こりませんようにーって」

「へぇー流石は高校生。現在進行形で歴史を勉強してることはあるなぁー」


 沙耶さんはからかうように言ってきて、


「正直な話、現在の人々は誰もが神様を信じちゃいないのさ。ちなみにミツルくんは神様を信じる系? それとも信じない系?」


「いて欲しいなぁーとは思いますよ。でもいないですかねー」

「どうしてそう思うの?」

「神様が居るのなら、一生懸命生きてる人が報われるべきだから」

「イジワルな神様かもしれないよ? そもそも神様が優しいという保証はないのに、わたしたちは善人、いや善神だと思ってるよねー?」


 神様が優しいとは限らない。その通りだった。


「逆に沙耶さんは神様を信じてるんですかー?」


 その言葉を聞いて、沙耶さんはニコッと笑みを浮かべながら。


「信じてるよ、わたしは神様のこと。誰が何と言おうともね」


***


 お賽銭が終わって、俺たち二人は夏祭りを見て回ることになった。

 話は依然として——神様がいるか、いないか論争が続いており。


「現在の人間は信仰心がないと思うんだよ!!」


 チューハイを飲みながら、沙耶さんはご満悦に言う。

 手元には焼き鳥を数本買って、ニコニコ笑顔である。


 楽しんでくれているのは有り難い話だけど、この人少しは変われるのか?

 もっともっとダメ人間になる予感があるんだけど。


「ミツルくん。この街を思い出してくれたまえ。ホタルを見に行ったでしょ? あんな綺麗な場所も少しずつ都市開発で汚染されて、夏祭りに参加する人々は神様なんてだぁーれも信じてないんだ。小金稼ぎだと思って、出店をする人々。フライドポテトなんて業務用スーパーで買ったものを——」


 酒癖が悪いのか? それとも本音が出ちゃうのか?

 気持ちは分かるかもしれないけどさ……。


「昔の人間はね、物には神様が宿ると思ってたんだ。森には森の神が、海には海の神が。そんなふうに思っていた人間たちは自然を尊重して生きていた。だけど、現在の世の中はどうだい? 環境破壊は続き、誰もがそんな神を信じない。森の神が祟るぞとでも言ってみたまえ。頭のおかしい奴扱いだよ?」


 プンスカプンスカと怒りながら、沙耶さんはグビッとお酒を飲む。

 完全に酔っ払いだな。ほろよいのカルピス味って美味いのかな……?


「まぁー気持ちは分かりますよね。現代人って物の扱いが荒いって言うか。大切に扱わない人が多いイメージがありますかね。消耗品だから適当に扱ってやればいいんだって。使い物にならなければさっさと捨てて、新しいものに乗り換えちゃえばいいって感じですかー」


 沙耶さんは焼き鳥の串を豪快に引いて、ムシャムシャ食べながら。


「人間だって消耗品だよねー。わたしがいなくても、誰かがわたしの代わりになってくれてさ。以前の職場の話になるけど、わたしがいなくなった後に、他の誰かが入ってくれたみたいで……今も順調なんだって。何かさ、存在価値を見失ってしまちゃった。自分なんで生きてるんだろって、ミツルくんはないー?」


 存在価値ね。別にこれと言って考えたことはないかな。

 ただあえて言うなら、アレだろうな。


「運命の人に会うためですかねー?」


 ぷっと吹き出して、沙耶さんは笑い始めた。まぁーこうなると思ってたけど。


「世界中の人間を幸せにしたいとは言えませんが、運命の人の幸せぐらいは願いたいじゃないですか。まだ見ぬ女性のために頑張るってのはバカバカしいなぁーと思いますけど、俺がここで死んだら、絶対にその女性は泣いちゃうから」


 だから俺は生きてるのかなって思いますよ、と呟いて、俺は買っていた豚バラを食べることにした。ちょっと塩っぽいところがあるけど、これがいい!


「運命の人とか現れないかもしれないよー? それなのに頑張るのー? というか頑張れるのー?」

「現れる、現れない。そんなのどうでもいいんです。分からないからこそ、前へ進めるんですよ。もしも自分の行き先が見えてたら、人生ってつまらないでしょ?」

「なるほど……そ、そんな考え方もあるのか。わたしは前が見えないと進めない……と思ってたけど……分からないから……楽しいのかもしれないんだね。で、でも……やっぱり、わたしには無理だよ……先行きが見えないと、前へ進めない。前に踏み出るのが怖くなっちゃう」


 沙耶さんの声は震えていた。力強い口調ではなく、弱々しい声だ。

 さっきまでの演説のような声はどこへやら、本当に情緒不安定な人だな。


「沙耶さん、さっき存在価値がないと言ってましたけど、俺はあると思いますよ」


 俺の言葉を聞き、沙耶さんは手を振って全力で否定する。


「えっ……? な、何を言ってるの……? わ、わたしは本当に何にもなくて……どうせ、わたしのことなんてすぐに忘れちゃうよ、キミだって。わたしなんて……ダメな女の子で。わたしの代わりなんて誰にだってできて……」


 俯いたままの彼女を見据えて、俺ははっきりと言ってのける。


「だって、俺の人生で初めての彼女なんです。たった一日だけの限定だけど」


 だから、と呟き、俺は少しだけ表情を緩めてから。


「忘れるわけないでしょ? こんな可愛い初彼女のこと」


 その言葉を皮切りとして、沙耶さんの白いほおから涙が伝っていく。

 次から次へと溢れ出すものの、沙耶さんは涙を拭き取ることをしない。

 ただ呆然と立ち尽くしているのだ。でも、魔法が切れたかのように、彼女は嗚咽を漏らして、俺に泣きついてきた。


「……ごめん……ごめん……今だけでいいから……そ、その……支えになって」


 抱きつくような形で、沙耶さんは俺の胸の中で泣き出してしまった。

 俺は彼女の頭を優しく撫でて宥めるしかない。


「わたし……頑張ったんだよ……わたし……とってもとっても……頑張ったんだよ……今までずっとずっと辛かったんだよ……それなのに……わたしだって……もっともっと楽に生きたかったんだよ……で、でも……それでも……みんなわたしを頼って……ぜ、ぜん……ぜん……わたしは……わたしは……うわあああんん」


 まるで小さな子供だった。沙耶さんは甘えたかったのだ。誰かに頼りたかったのだ。誰かに支えて欲しかったのだ。誰かに認めて欲しかったのだ。誰かに自分の頑張りを褒めて欲しかったんだ。


「頑張ったんですね……沙耶さんは偉いです……とっても偉いです」


 そう言って、俺はもう彼女をギュッと抱きしめるしかなかった。


「……ぐすん……ぐすっ……リンゴ飴食べたい……」

「えっ……? まだ食べるんですか?」

「……泣いてもいいの? わたしのこと支えてくれるんでしょ?」

「胃袋を支えるつもりはなかったんですけど……」


 うっと声を出した沙耶さんが泣き真似を始めたので、俺は買ってあげることにした。好きなだけ泣いていいと提案したのがバカだったな。女性の涙は強いな。


「あのー沙耶さん。知り合いにからかわれる可能性が」


 リンゴ飴を買ってもらい、機嫌が直った沙耶さんは俺の手をギュッと握って、ぶらんぶらんと揺さぶってくるのだ。遊園地に遊びに来た幼稚園児レベルの機嫌の良さだ。


「わたしと一緒だと不都合でもあるの? 可愛いでしょ?」

「沙耶さんは可愛いですよ。この祭り会場にいる誰よりも」


 正真正銘の本音だ。普通にしていれば、沙耶さんは可愛い。

 たださ、残念ポイントが多いんだよな……。


「キミってさ、わたしを惚れさせる気? 高校生のくせに生意気だっ!」


 上気した沙耶さんは苛立った声で言いながらも、目元を僅かに緩めて。


「男の子の手って……そ、そのゴツゴツしてるんだね」

「そうですかー? 自覚はなかったんですけど」

「やっぱり身体の作りが違うんだなぁーと思っただけ……あっ!? べ、別に男を感じたわけじゃないからね……」

「分かってますよ。俺って、女々しいって言われるぐらいだし」

「まぁーそれは一理あるかも。だって、キミって童顔だし」


 気にしてることをズバズバと言いやがって。童顔だと勘違いされて、中学時代は女子に間違われたこともあるし。姉貴から女装させられて、そのまま写真撮影も。現在も姉貴が大切に保管しており、反抗的な態度を取れば学校の奴らに流すのだとか。うん……もうこれってただの脅迫だよな。


「やっぱり……夏祭りと言えば、食べるだよねー」


 俺の気苦労も知らずに、新たに買ってもらったわたがしと、リンゴ飴を一方ずつに持つ沙耶さんはおおはしゃぎである。


「夏祭りと言ったら、普通花火とかじゃないですか?」

「花火は食べれるのー?」

「食べられませんけど……」

「ホタルの方がよっぽど好き」


 沙耶さんはリンゴ飴の先端をペロペロと舐める。その仕草が妙にエロチックに見えてしまい、俺は顔が熱くなっちまう。思春期男子には仕方ない話だよな。恵方巻を食べてる姉貴の姿で興奮したこともあるし……って、それはまずいだろ。


 怪訝な表情を浮かべた沙耶さんは間延びした口調で、

「もしかして、リンゴ飴食べたいのー? それともわたがしー?」

「食べていいんですか?」

「わたしお金出してないし。食べたいなら食べてもいいよーって」


 『おれのものはおれのもの、おまえのものもおれのもの』タイプだと思ってたけど……違ったのか。


「それならお言葉に甘えて……わたがしだけでも」


 食べかけというのは抵抗があるけど、まぁーいいさ。昔は姉貴が先に食べて、残ったものを俺が食べていたっけな。半分個しようと言われながらも、8対2で姉貴の方が多かったけども。世の中って理不尽だよな。


「口がベタつきますね。喉が渇きますね」

「うわぁー気分崩れること言ったぁー。わたしも思うけどさぁー」


 そんなことを言いながらも、沙耶さんもわたがしを一口食べる。

 抵抗も何もなかった。この人なら落ちてても食べそうな気がするけどさ。

 さっき……俺が食べたばっかりの部分を食べなくても。


「んー、どうしたのー? 何か顔が赤いけど」

「べ、別に何もありませんよ」と言って、俺は顔を背けた。


 俺だけ意識してバカみたいだな。沙耶さんは何も考えてないのか?


 それからも俺と沙耶さんは夏祭りを回った。沙耶さんは相変わらずって感じで、次から次へと出店に夢中。本当マイペースな人である。食べることにしか興味がないと思っていたけど、意外なことが起きた。歩いていた子供が持っているものに興味を示していたのだ。水風船を見て、物欲しげな反応を見せるのだ。


「もしかして……水風船欲しいんですか?」

「……べ、別に水風船とか欲しくないもん。手でぽんぽんしたら面白そうだなーとか思っているけど、べ、別に……ほ、欲しくなんかないもんー」


 痩せ我慢してるのが丸わかりな反応だったので、もう買ってあげることにした。本人の反応は「べ、別に欲しいわけじゃないもん。大の大人がこんな子供騙しな代物で喜ぶとか絶対にないんだからね」と口では言っていたものの……めちゃくちゃぽんぽんしてた。びよんびよんとゴムが伸びて楽しそうだった。


***


「お祭りのくじで当たったことってあるー?」


 適当なテーブル席に座り、真正面で向かい合う俺たち二人。沙耶さん曰く「歩くの疲れた」だとさ。浴衣と下駄の組み合わせは最高だと思うが、足が痛くなるのは難点だな。


「当たりが何を基準にするかですよねー」

「と、言うとー?」沙耶さんは豚バラ串を食べて、喉をチューハイで潤した。

「個人的にはゲーム機とかは二の次で、エアガンが欲しかったんです。ハズレ商品扱いですけど」

「それって、くじする必要ないんじゃないの? 普通に買えばいいじゃん」

「男なら誰もが武器に憧れるんです。でも親は買ってくれないでしょ? 危ないからって」

「なるほどねー。頭がいいねー」


 沙耶さんは褒めてきた。と思ったら、物欲しそうな瞳でこちらを見てきて。


「ねぇーパインジュースの味はどうー?」


 ビニール袋にストローを付けただけのパインジュース。海外では割とありがちだと聞くが、日本でも実践してるんだなと感心。どれだけコストを削減してるのかと思うけど。


「果汁って感じで美味しいですよ。飲みたいんですよね?」

「飲ませたいんだよね? お姉さんと間接キスしたいんだよね?」

「別にいいですよ。一人で飲みますからー」

 ズズズと音を立てて飲んでやった。すると、潤んだ瞳を向けて、

「わたしにも飲ませて。お、お願いだから。良い子にするから」


 可哀想だったので飲ませてあげると、幸せそうな表情を浮かべてくれた。

 美味しいものを食べさせてあげるよーと言ったら、沙耶さんは誰にでも付いていきそうな気がする。俺は不安でいっぱいです。


「沙耶さんは祭りの思い出とかありますか?」


 下唇に指を当てて唸り声を上げた沙耶さんは、


「祭りの思い出……祭りの思い出……うーん、食べ物が」

「食べ物関係はなしでお願いします」

「えーとね、ならねぇー、友達と祭りに行ったことかな?」

「沙耶さんって友達がいたんですね。意外です」

「キミに言われたくないんだけど。まぁー昔の話だけどね」


 過去を思い返して感傷に浸るような瞳で、沙耶さんは小さく笑った。


「今はいないみたいな言い方じゃないですか」

「今は友達なんていない」断言するように言い放ち、弱々しい声で「連絡先は全部ブロ削して、そのまま逃げちゃった。SNSで知り合いの幸せな姿を見たら、自分が惨めでね……涙が止まらないんだもん」

「あの……俺はどんな反応を取ればいいんですかね?」

「とりあえず……また食べ物を買ってくれたら嬉しいな」


 食べ物のことしか頭にないのか、と思いながら、俺が立ち上がった瞬間——。


「ちょっと待って……あ、あの人がいる……」


 沙耶さんは表情を強張らせ、肩を小刻みに震わせている。拳をギュッと握りしめる姿は、夫の浮気現場を発見した妻のように見えて仕方がない。


「あ、あの人……?」


 俺が訊ねると、沙耶さんは俺の腕をグッと引いて耳打ちしてきた。


「わ、わたしの……そ、その運命の人だよ……」


 沙耶さんが言う方向には、たしかに長身の男性がいた。その隣には赤浴衣を着る女性もいるのだけど。カップルとしか言いようがない二人は仲睦まじく手を繋いで、空を眺めているようだ。


 そういえば——。


「そろそろ花火大会が始まる時間帯ですね」

「あのぉー話を逸さないでくれるかなー?」

「と言われても……その男性がいてどうするんですか?」

「復讐するんでしょ? キミが言ったんだよ?」


 可愛く小首を傾げているが、怒りに満ちた瞳は変わらない。俄然復讐相手を見つけて、さらなる地獄へと突き落とそうと企んでいるようだ。


「マジで復讐とか幼稚なことを考えているんですか?」

「幼稚とは失礼な。やられたらやりかえすでしょ?」


 復讐しようとは言ったけれど、実際に会って何ができる?


 押し黙る俺を見据えた後、沙耶さんは自信満々に言った。


「わたし……ちょっと行ってくるね」

「えっ? あの……行くってどこに?」


 引き留めたけど、完全に無視されてしまった。沙耶さんは人混みを掻き分けて、仲睦まじいカップルの元へと歩み寄って行った。


 最初はただの歩きだった。途中から早歩きに変わり、そして最後には駆けた。

 徐々に加速する沙耶さんを後ろから追いかけた俺が目撃したのは——。


「青春らりあっっっっっっっっっっっっっっっっっっっとっととととと!!!!!!!!!!!!!!!」


 運命の人と言っていた男の頭を思い切り、後ろから殴った沙耶さんの姿。

 花火前で高鳴る興奮だった他の祭り参加者も呆気に取られるしかない。全員が全員口を大きく開いて、誰だこの女はと言う目で見ている。


 それでも中心人物である、沙耶さんは堂々とした態度を貫いており。


 このまま逃げよう。俺には関係ないことだ。

 そう思いながら、沙耶さんから離れようとするのだが——。


「警察の人ー。こっちですー。暴れている人がいますー」


 気を利かせた祭り参加者が近くにいた警察を連れてきたのだろう。


 もう何をやってんだよ、あのバカは。警察に捕まったらどうするんだ。


 関わったら面倒なことになる。そう確信しているのに、俺は走り出していた。

 沙耶さんを取り囲むように大人たちが群がっている。まるでイジメだ。一人の女性を全員で痛ぶってやろうとしているような。俺は周りの奴らを押し除けて、前へ前へと突き進んだ。肩と肩がぶつかり、相手から不快そうな舌打ちをされるけど、そんなの関係ない。


「ったく……どれだけ迷惑を掛けたら気が済むんだよ、あのバカは!!」


 人混みを掻き分けて辿り着いた先には、沙耶さんが蹲み込んでいた。

 涙を啜る声が聞こえるけれど、自業自得としか言いようがない。一度コイツは本気で大人に怒られた方がいいのかもしれない。そもそもただの逆恨み。手を出した時点で負けなんだよ。それなのに……本当に何をやってんだ。


 沙耶さんも俺も。本当にバカだよ……俺たち二人はとことんな。


 勢い余って走り出した結果、手に持っていたパインジュースを投げていた。綺麗な放物線を描くはずもなく、ジュース袋は男の頭に当たって破けた。水風船が割れたような音が響き渡った後には、男の新たな悲鳴が。


 それと共に男の隣にいた女性が何か喚いたが、俺は知らん。


「沙耶さん、逃げますよ……このままじゃあ……俺たちマジで終わる」


 俺は彼女の手を掴んで思い切り駆け出した。下駄を履いてることもあり、全くと言ってスピードが出ない。後ろを走る沙耶さんも同じみたいで。


「はぁはぁ……きつい……ちょっと……無理だって。無理だって」

「全部のお前のせいだからな。マジでふざけんなぁ! このバカが!」

「と言いながら、自分だって……やらかしたじゃん。流石はわたしの彼氏」


 ニヤァと口元を歪めた沙耶さんは俺の手を強く握り返してきた。


「その二人を捕まえてくださいー。誰か、二人を捕まえてくださいぃー!!」


 後ろから警察官が大きな声で叫んでくる。大きな足音を立てて、息をゼェゼェ吐いてやがる。平和な街ということもあり、事件に遭遇する回数が少ないのだろう。現場慣れしてないのが丸わかりで、声も身体も上擦っていた。


 もちろん、周りの人も警察の指示に従おうとするのだけど——。


 彼の声は掻き消されてしまった。


 静寂な夜を包み込むように咲いた大きな花火によって。

 赤、黄、紫、白、緑と言った煌めきが夜空を彩った。思わず、綺麗だなと声を漏らしてしまう。でも、俺たちは逃げなければならず、足を止めることはできない。


「ごめん……体力やばい……も、もう限界なんだけど……」


 走り出してから二分も経たないうちに、沙耶さんは根を上げてしまった。下駄を履いたことで、指と指の間が擦れて真っ赤になっていた。


 花火の音で警察官の声は聞こえないが、もうすぐそばまで来ている。


 このままでは捕まってしまう。そう思った俺は一度立ち止まって。


「沙耶さん、俺の背中に乗ってください」


 上半身を屈めた俺は沙耶さんに乗るように指示を出すのだが。


「えっ……? わたし、重いよ……? そ、それでもいいの……?」

「このまま一人残りたいのかよ? さっき人を殴ったこと以外にも罪があるだろうが。特にストーカー行為がバレたら、完全に詰みだぞ?」

「……え、えと……そ、そうだけど……このままじゃあ、キミも捕まっちゃうかもしれないよ? わ、わたしのせい——」


 沙耶さんがごちゃごちゃと屁理屈を並べていたので、俺は叫んで掻き消した。


「ごちゃごちゃうるせぇーんだよっ! 俺はな、お前を救いたいと思ってんだよ。お前を助けたいと思ってんだよっ! 惨めだなとか可哀想とかの同情心じゃねぇーよ。俺はな、お前と一緒に居て楽しいと思ってんだ。悪い奴じゃないと分かってんだよ」


 だからさ、と呟いて、俺はわがままな沙耶さんをお姫様抱っこして。


「あとから、文句でもなんでも受け付けてやる。今だけでいい。少しぐらいは偽物の彼氏(一日限定の彼氏)だとしても、俺の言うことを聞いてくれ」


 無闇矢鱈に逃げ回っていたわけではない。

 俺たちが目指していたのは駐輪場だ。もう目の前まで来ている。

 無線を聞いて駆けつけてきたのか、警察官たちの数が三人に増えていた。


「くっそ……本当にお前と一緒だったら退屈しねぇーよ。このポンコツ女が!」


 年上キャラってのは、もっと何でもできるお姉さん系がいいのにな。

 それなのに……なんだよ、コイツは。次から次へと問題ばかり起こして、甘えさせてもくれないし、何よりも全くと言って使えない。


 でも——どうしてだろうか。どうして俺は笑ってんだ。コイツと一緒にいて。


 駐輪所に無事到着。


「さっさと荷台に乗れっ!? 飛ばすから強く抱きしめとけよっ!」

「らじゃあーーー!? 任せたぞ、運転手くん」


 後ろから白い手がゆっくりと伸びてきて、俺の腰をギュッと抱き寄せてくる。

 その温かさを感じながら、俺は思い切りペダルを漕ぎ始めた。


「うおおおおおお!? 待ちやがれえ!! お前らぁ!?」


 自転車で逃げられたらマズいと思ったのか、走る速度が上がった警察官。

 ここで捕まえ切れなければもう捕まえることができないと思ったのだろう。


 最後の力を振り絞るぐらいなら、最初から出すべきだよな、警察官として。


 二人分の重みがあるペダルは重かった。特に自転車の走り出しは重い。


 その隙を突かれてしまい、警察官の一人が俺たちのすぐそばまで迫っている。


「お前ら、もう観念しな。お前たちはもう包囲されているんだ!」


「あのー別に包囲されていないと思うんですけど」と、沙耶さんは淡々と言い返した。実際に全く包囲されていない。警官だって、一度くらいは言ってみたかったのだろうな。


「くっそおおおおーーー! お前ら警察を舐めやがって! 捕まえてやるー!」


 そう叫んで、警察官は沙耶さんの浴衣を掴もうとするのだが——。


「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、私は買っておいたのだよ」


 芝居じみた演技をした沙耶さんは手に持っていた丸いものを投げつけた。


 べチャリと、パインジュースを投げつけた時と同じような音が聞こえた。


 沙耶さんが投げつけたのは、水風船である。買っておいて正解だった。

 警察官は突然の不意打ちに驚いたようで、そのまま頭を柱にぶつけて、転げてしまう。その後、近くに停めてあった自転車に身体が当たり、ガラガラガッシャン。


「あの警察官……おっちょこちょいだねぇー。あはは、わたし初めて警察官に水風船をぶつけてみたんだけどー」

「普通の人は警官に水風船は投げないからな。あと、お前がおっちょこちょいとか言うな! このバカが!」

「えー。でも、そんなわたしと一緒にいたら、楽しいんでしょ?」

「まぁーな。お前と一緒なら、ずっと笑っていられる気がするよ」


 自転車を走らせて辿り着いたのは、この街を一望できる丘の上だった。行き先を決めていたわけではない。警察から一秒でも早く逃げ出したい。そう思い、ペダルを漕ぎ続けた結果だ。夏祭りの影響で道路は交通渋滞。ぶぶっーと音を鳴らされ、挙げ句の果てには撥ね飛ばされそうになった。荷台に座る沙耶さんから「何をやってるんだい! キミって奴は!」とか「わたしの命は、全人類の命よりも重いんだぞ」などと怒られちまった。


 元はと言えば、全部コイツのせいなんだけどな。本当に困った乗客だ。


 パトカーが出動、もしくは警官が自転車で追いかけてくるのではないかと不安があったものの、杞憂に過ぎなかった。何事も起きずに良かったもんだ。


「こんな人気のない場所にレディーを連れ出して……な、何をする気?」


 自らの身体を包むように、沙耶さんは自分の両肩へと手を置き、頭をキョロキョロしやがった。辺りには誰一人おらず、草木が生い茂っているのみ。流石は田舎クオリティ。整備が施されておらず、若い女性には危ない場所と思われてるみたいだぞ。余程俺を信頼してないのか、睨んできてやがってるし。


「襲うつもりはねぇーよ」

「なんだー。つまんないのぉー」

「つまんない男で悪かったな。って、待て……つまらないって?」


 まるで、俺に好意を持っているみたいな言い方じゃねぇーか。若い女性ってのは、男性を誘惑させる言葉を次から次へと出すのかい。これで手出しでもしてみろ、豚箱にドボンだぜ。思わせぶりな態度ってのは、男性には危険。俺がエロ漫画の主人公なら、沙耶さん、アンタは服を強引に脱がされているぞ。


 沙耶さんは白い頬を朱色に染め、両手の指先を合わせながら、

「一応……今日は彼氏彼女の関係なんでしょ? そ、それなのに……し、しないの? キスの一つも二つぐらいも」


 恋愛に興味がないと言えば、嘘になる。だがな、俺は易々とキスをするつもりはない。そもそもな話、キスとは、お互いに好きな者同士がするものであって。


 一日限定で彼女になってほしいと頼んだ相手に対して、本気で好きになるか?

 童貞を舐めるな。童貞の妄想力は無限大なのさ。


 俺が好きなのは——白いワンピースを着て、長い黒髪で、巨乳な女の子だぜ。

 舞台は海近くの堤防だ。そこで、俺は運命的な出会いをするんだ。


 考えてみたまえ、この目の前にいる愚かな女を。


 夢もない、職もない、金もない、何一つとして取り柄のない女だぞ?

 挙げ句の果てには、人様の頭をボカンと殴りつける暴力者で、ストーカー行為を繰り返す犯罪者予備軍だぞ? そんな人間を俺が好きになるか?


 元々、俺とコイツが出会ったのは、神社近くの雑木林だぜ?

 海とは正反対で、元カレ(勝手にこのバカが運命の人にした)へと呪いをかけているような人間だぜ?


「お前がしてほしいって言うならしてやるよ。バカなお前が少しでも笑うなら」

「バカとは失礼だっ! 何だい何だい! 年上に向かって」しかめ面のままに手足をバタバタとさせた後、沙耶さんは「……そ、その……そっちがしたいって言——」


「あーそれはねぇーから。別に俺……お前のことそんな目で見てねぇーから」

「えっ……? 彼女にしてくれと頼んだのに? 沙耶ちゃんの美貌に虜になって……彼女にしてくれと言ったんじゃないの?」


 表情に亀裂が走り、目ん玉は真ん丸になっている。焦点が遠くを見ている気がするけど、コイツ……本当に自分の容姿で選ばれたと思ってんのか?


 たしかに、俺はお姉さん萌えだけど。コイツに萌え要素ってあるか?


「少しでもお前を勇気付けたかったんだよ。生きてればいいことがあるってさ」


 そう呟いて、俺は沙耶さんの手を奪い取って強く握りしめる。


「えっ……? そ、その……? な、何……? ちょっと」


 突然手を取られてしまい、沙耶さんは真っ赤な顔を背けてしまう。顔を隠したいと思っているのか、握った手がブルブルと震えている。


 だけど、彼女の思い通りにはさせない。なにせ、俺は失礼な奴だからな。


 彼女の手を握ったまま、俺は丘の上にある展望台へと目指して走り出す。足を痛めている沙耶さんの足取りは悪く、途中からおんぶしてあげた。「重たい……」と弱音を吐いたら、耳を思い切り摘まれた。思い遣りって気持ちを、コイツは持ってないのかね。


 二人で「重たい」「胸があるから仕方ない」「お前胸ないだろ」とか言い合いながら、無事に展望台へと到着。流石に階段をおんぶで上がるのは一苦労だね。「胸わざと触ってるでしょ?」とか「ふぅー」って耳に息を吹きかけてくるバカ女のせいで。


「えっ……こ、これ……な、なに……」


 沙耶さんは思わずと言った感じで、声を漏らした。手で口を塞ぎ、お上品に隠してるけど……そんなタイプの人間だっけ? と余計なことを考えたけど、食一辺のコイツでも多少は人間の心を残していたようだ。


「お前さ、人工物の光は嫌いじゃなかったのかよ?」


 丘の上にある展望台から見えるのは——夜空に煌く華炎の数々である。

 ピューとビードロのような音を立てて、空高くまで飛び上がった線は——。

 闇を切り裂くように、赤や紫を基調とした大輪へと変化した。綺麗だなと思った瞬間には、形は崩れてしまう。まるで、春が近づいてきた雪のように儚い。


「き、嫌いだけど……そ、その……こ、これは好き」


 沙耶さんは目を細めて、空を見上げていた。普通の日なら空を彩るのは、星だろう。でも今日一日だけは、人間が生み出した光の花が最も美しく輝いてる。


「俺もね、花火って好きなんですよ」と呟いて、俺は沙耶さんの顔を見る。振り向くこともなく、顔に光を反射させた沙耶さんは「どうして?」と訊ねてきた。


「正直な話、花火は星空やオーロラなどの自然の光には負けてしまうかもしれない」


 でも、とスゥーと息を吐き捨てるように呟いて、


「花火の一発一発には、人々の願いが、熱意が詰まっていると思うんです。花火職人がいて、その人たちを支える人がいて、で、俺たちみたいに花火を待ち望んでいる人がいて。何より、花火は祖先が残しくれた魂の技術だと思うんですよ」


「真面目だなぁー」感嘆な声を上げた沙耶さんは顔色を顰めて、「魂の技術って?」

「魂の技術というのは大袈裟かもしれないけど、昔の人だって綺麗だなと感嘆にしたに違いない。だから、この綺麗という感情を次の世代へと繋いで行こうとしていたんじゃないかなって」


 大きな花を咲かせたと思いきや、消えて。消えたと思ったら、新たな花が咲き。

 たった一瞬に過ぎない儚い花に俺と沙耶さんは心を奪われていた。

 でも、始まりもあれば終わりもある。

 一際大きく空高くまで打ち上がる光の線。

 宇宙まで飛び上がるのではないかと思っていた光の玉が破裂した。

 その瞬間、爆音と共に重なって聞こえるのは歓声だ。花火を見上げた人々の声だろう。実際に、俺と沙耶さんも夜空に咲いた華炎を見て、声を漏らした。


 赤、紫、緑、青、白。様々な色が混ざった特大の花。

 この世で一番綺麗だと主張するかのように煌めいて、そして消えていった。


「あのさー。もう死にたいとか言うなよ、そんな悲しいこと」

「でもこれから……どうしよう。わたし、一人じゃ何もできないよ」

「一人で何もできないのが、人間だよ。だから人は協力するんだ」

「で、でも……わたしの面倒を見てくれる人は誰もいないし。頼れる人も誰もいない。そんな人は——」


 ごちゃごちゃと喚くバカ女の手を取って、俺は宣言してやった。


「俺がいるだろ? まだ高校生で役に立たないのは、承知の上だ」


 でも、と呟いて、俺は笑いながら。


「多少は役に立てると思うんだ。泣きたい夜があれば、俺の胸に飛び込んでこい。お前が笑顔になれるまで、俺がずっとそばにいてやるさ」

「それって……つまり養ってくれるってこと?」

「違うよ、バァーカ。寂しくなったら俺を頼れってことだよ」

「いっぱい食べ物をごちそうしてくれることだねっ! 無職には有難いお話だ」

「雰囲気台無しだな。というか、働けよ」

「えーだって、面倒じゃん。あーそれよりも、1万円プリーズ! 彼女代!」


 日給1万円の期間限定彼女になってほしいと頼み込んだのは、俺だ。

 でも……釈然としないんだよな。コイツ、何か吹っ切れたのかな?


「早く早く、1万円!? 1万円!?」


 金にがめつい奴だ。さっさと渡せと、手のひらを見せてきてやがる。

 犬のおてみたいでちょっと面白いと思ってしまうけどさ。


「ほらよ、1万円。大事に使えよ、お前のことだから……どうせ無駄遣いすると思うけどさ」


 財布を確認すると、もうすっからかんだ。出店を回って、最後に彼女代金を支払ったし。二週間余りひたすらにバイトしてお金を貯めたのになー。


 果たして、俺はこのバカ女を救うことができたのだろうか。それとも——。


***


 夏祭り以降の話をしよう。夏祭りの日、俺が帰宅すると同時に姉貴の呼び出し。メンチを切ってきて、お怒りモードだった。その真意はいかに。


「アンタだからねー、警察沙汰にしなかったけど……もう絶対にしないでよ」

「は、はい……分かりました。で、でも……シスコンの弟というのはちょっと」

「はぁ? 何か言った? 警察に言うわよ」

「は、はい……す、すみませんでした」


 沙耶さんの復讐相手。つまり、自称元彼氏は姉貴の彼氏だった。

 で、夏祭りの際に沙耶さんがラリアットを食らわせて、俺がパインジュースを当てたのも、姉貴の彼氏ってわけ。逃げる際に後ろから声を掛けられたのは姉貴だったわけだ。なるほどーと納得しつつも、一つだけ納得できない点がある。


 シスコンの弟が姉を奪われたと思って、姉の彼氏に復讐した。という経緯にして、姉貴が警察や彼氏に報告したんだとさ。俺への風評被害は甚大なものであるが、沙耶さんは咎められることはないようだ。本当に運が良い奴だ。


 夏祭りに会ったのが最後で、俺と沙耶さんの関係は終わってしまった。

 沙耶さん曰く、そろそろ自分も変わらなければならないんだとさ。

 1万円の使い道に関しては、何も教えてくれなかった。


 二学期が始まった。夏休みが終わったのに、未だに暑い九月上旬。

 男子女子問わず、誰もが日焼けして、白い肌の奴は家に引きこもっていたんだろうなと思われてしまうこのご時世。自転車に乗りまくって高校二年の夏を謳歌した俺はほどよく焼けて、リア充感増し増し。周りの奴らが「彼氏、彼女」の話で、盛り上がる中、俺は机にぐだぁーとなって時間を潰す。友達がべらべらと彼女の話をしてくるけど、まぁー耳には全く入ってこない。


「あーそういえば、お前日焼けしてるけど……彼女とかできたんか?」


 その言葉に待ってましたと言わんとばかりに、俺は小さな声で呟いた。


「あーできたよ。たった一日限定だけどな。この世で最もバカな女」と。

「たった一日って、お前振られてるじゃねぇーかよ」と友達が茶化してきた瞬間、他のクラスメイトたちが慌てたように教室へ入ってきた。


「おーい。事務室にめちゃくちゃ可愛い人がいたぞー!!」


 男ってのはバカだ。可愛いとか綺麗とかの言葉に弱い。

 アイドルや女優がいると言えば、その場にすぐに駆けつける。

 色恋沙汰に興味がない俺は友達に促されて、事務室に向かうことにした。


 教室にいた男子全員が押し掛けているけど……これって大丈夫なのか?

 その女性に迷惑がかかるのではないかとか思ってたけど——。


「うわぁ……なんだよ、この人集りは」

「他の生徒たちも美人がいると聞いて集まってきたんだよ」


 澄ましたように友達は言うけれど、鼻の穴を膨らませていた。

 さっきまで彼女がどうとか言ってたけど大丈夫なのか、コイツ。

 背後からゴゴゴとお前の彼女さんが睨んでいるけど……俺不安だよ。


 人混みを掻き分けるように、俺は間を通って顔だけを出した。

 事務室の机に座って、女子生徒と楽しく談笑する黒い髪の女性。


 それは正しく、沙耶さんだった。俺と夏祭りを共にした、あの女だ。


 変わった点は一つだけ。髪型がショートヘアになっていた。未練タレタレで、テレビから出てくるようなボサボサヘアーではもうない。ショートヘアになった彼女は以前までの根暗な要素がなくなっており、その……大人って感じがする。


 笑うだけで、周りの男子たちが黄色い歓声を上げて——。

 手元にあるお菓子をパクパクと食べるだけで、誰もが微笑む。


 あ、目が合った。ニコッと笑うと同時に、沙耶さんは僅かに手を振ってきた。


 その瞬間、周りの男子たちが「俺に手を振ってきたんだ」とか「僕だぁー!」とか「オレに決まってるだろ? オレの美貌に惚れたのさ」などなど。

 周りの生徒たち、あのー自意識過剰じゃないですかー? とりあえず、一つだけはっきりしたことがある。


 これから先、この学校では一人の女性を求めて恋のバトルが始まりそうだ。


「……ほ、ほんっとう……お前はどこまでトラブルメーカーなんだよ」


 そう呟きつつも、俺もその恋愛バトルに参加する表明を固めるのであった。


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― 新着の感想 ―
面白かったですよー
[良い点] 読後感がすごく良い、キャラクターが生き生きとしている点も好きです 続きを読みたいような、このままそっと大切にしたいような そんな作品でした [一言] たまたま見つけたのですがブックマークし…
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