JAD-097「薄氷の平和」
隊列を組み、道を進む。
荒れてはいるけれど、まだ移動可能な道だ。
一度は舗装されたような跡が見つかるのが不思議である。
そこを進むことしばらく。
だんだんと、上り坂を進んでいる状態だ。
『この辺りは、今回の相手と一時期交流していた時のものなんだ』
「へぇ……薄氷ではあるけど、そこまで薄いとはお互いに思っていなかった時期、ってことね。どうしてこじれたか、知ってる?」
トラックの荷台に、間借りする形で進軍中。
私以外は、ほとんどが軍人らしい。
一部、前線には立たないけどっていう人員もいる。
『話ぐらいはな。うちらのほうには、露天掘りの鉱山とかつての工場があるんだ。相手は、海岸沿いに地熱利用の発電装置がいくつもまだ生きている。工場を移転させてはどうだという話が出たことがある』
「へぇ。利権か何かでもめた感じですかね」
「どうかしら。それだけなら、そこまでいかない気もするわ」
些細なことで戦争が、というのは私の教わった記録にもないわけじゃない。
さすがに、指導者の恋愛劇があるとは思わないけれども。
『その通り。利権も理由ではあるんだが、一番は……ミュータントどもが狙ってくることがわかったんだ』
「? レーテ、前方に谷があります」
「谷? こんな地形で?」
『ああ、見えてきたぜ。このぐらいの規模ならともかく、大規模な移動はしにくい原因がよぉ』
言葉とともに、上り坂が終わる。
見えてきたのは、谷……いや、これは……。
渓谷に近い、川。
ちょうど、私がいた側と、これから向かう先を分断するような。
幅はそこそこだけど、少し深いかな?
『あっちは海だ。で、そっからずずっと遡上してくるのさ。この先にでっかい湖があってな。そこで安全に子供を産んで、海に戻っていく。問題は、そいつらにとって生産設備が巣に見えるらしい』
「分解は、もう試したのよね。なんなんでしょうね?」
『ミュータントどもの何かを刺激するんだろうなってことしかわからん。で、計画はぽしゃったわけだ。どちらにも、お互いのせいじゃないかっていう疑惑だけ残してな。うちらはまた試してもよかったが、相手はそうでもなかった。次は自分たちの施設がそうなるんじゃないかってな』
最初は、区画、ブロックで運ぼうとしたんだろう。
次に、じゃあ小分けにして速度重視で、でもダメだった。
工場はどうにか直せるかもしれない。
でも、発電施設となれば後々が怖い、と。
単に海にいるミュータントだからなら、海岸沿いの施設を襲ってると思うけど、うーん?
情報が足りないけど、そう簡単にはいかなそうだ。
『よし、橋をかけるぞ』
「了解。私も石で補強するわ。サブをトパーズに切り替え」
「はい。変換完了、いけますよ」
ついてきていた車両のいくつかが、荷台から何やら展開。
それは、簡易的な橋を作り出すものだった。
そこに対し、私は岩の柱をいくつも生み出し、川底から伸ばす。
大丈夫だと思うけど、念のためね。
ぴったりと、橋の下で柱が支える感じだ。
橋ができて、すぐに移動が再開された。
「向こうに渡ったら、いきなり攻撃ですか?」
「状況次第ね。工場そのものは、あとで利用できるように被害は控えめに。もっとも、都市の奪還だけで終わる可能性も十分ありそうだけど」
遅くなったけど、相手からは攻撃の宣言、要は宣戦布告が来たわけだ。
厳しい状況にはまとまって対処しなくてはいけない、とか言ってたな。
「正論で、どちらかを悪にはできないのよ」
「私には、よくわかりません……」
わからないほうがいい、そうつぶやいて自分も渡る。
もう相手の勢力圏だ、不意の遭遇だってあってもおかしくない。
今回は、速度が結構大事そうだ。
「ま、ぶつかってみないとね。石を切り替え。サブをペリドットに」
「わかりました。風と雷ですね?」
うなずき、ポーチからサイズの結構ある緑色の石を取り出し、投入。
そろそろ、石をセッティングしておく機材とか作ってもいいかもしれないなあ。
視界に、ペリドット由来の光が走ったのを確認し、改めて進む。
もう1、2時間も移動したら目的地のはず。
そうして緊張に満ちた移動が続き、遠くに建物らしきものが見えてきた。
予想されていた襲撃や待ち伏せはなく、緊張しただけ損だった結果だ。
『少し待機だ。作戦開始まで後……』
わずかな休息時間に、軽くお腹に入れておく。
そして、ほかの面々と同じく長距離攻撃の準備へ。
既存の長距離砲を少しいじっただけだが、ないよりはマシだ。
『時間だ。攻撃開始!』
合図とともに、暴力が殺意を伴い、撃ち出された。




