JAD-094「矛ばかりの戦場」
「なんで飛ばないんですかっ!」
「下手に飛べば、アイツは逃げてる味方を狙うわっ!」
不思議と、気分が高揚するのを感じていた。
のどが渇くような感じは、いつぶりだろうか?
相手の大きさはこちらよりやや大きい。
背中には2本の筒、そして何か所も増設されたであろう武装に、大きなスラスター。
こちらの射撃に対し、正確に対応してくる。
うっかりすれば、大打撃を食らうのはこちらだ。
(火力重視、短期決戦用か……)
「腕の一本ぐらいはもらうっ!」
こんなことなら、もっと早くこちらも武装を追加しておけばよかった。
そう反省しつつ、右手でASブレードを構えて突進。
金色にも茶色にも見える光の刃を携えて、一気に間合いを詰めた。
「ロック警報!」
「わかってるっ! 石の力は、石の力で斬るっ!」
宝石により、引き出された石の、星の力。
炎であり、水であり、風や岩、そんな自然現象を生み出す。
でも究極的には、それは力でしかない。
「せい……やっ!」
体の中から、何かが持っていかれるような感覚を残し、力を高める。
ブリリヤントハートはそれに応え、光の刃は太く、長くなる。
勢いよく振りぬき、相手の石の力と干渉、確かな手ごたえ。
「よし、斬った!」
「斬った、じゃありませんよ! もうっ!」
焦ったカタリナの声を聞きながら、さらに間合いを詰める。
ついには、相手の塗装の汚れまで見える距離になり……Gを感じながら横っ飛び。
さっきまでいた場所に、地面から炎が吹き上がる。
「やるじゃない。接近対策も一応してる、と」
「撃ち合いは不利だと思いますよ」
「まあ……ねっ!」
こっちが一回撃つ間に、相手は4、5回撃つようなものだ。
出力はこちらが上のようで、相殺というよりは当たればこっちが貫いている。
それでも、下手に当たればこちらもただではすまない。
「発掘品並みか……だいぶ選別したか」
「後者だと思いますよ。カンですけど」
アンドロイドのカン、とは聞く人が聞けば笑うしかないだろうな。
私も、口元に笑みが浮かぶのがわかる。
こちらに攻撃しなければ直撃させるぞ、とばかりに打ち込む私。
左右に機体を揺らし、回避しつつ相手を釘付けにする。
「倒すだけなら、やりようはあるけれど……」
ライフルをチャージし、薙いでしまえばいい。
でも、私はあくまで傭兵の立場だ。
必要以上に相手の戦力を削るのは、後々ややこしい可能性がある。
「味方の撤退、6割方進行中。だいぶ離れましたよ」
「それは朗報ね。どこまで効くかわからないけど、やりましょうかっ!」
このままやっていても、相手が消耗しそうではある。
が、何かの拍子に直撃をもらうことはあってはいけない。
なら、面で圧倒する。
「サイズ極小! 砂嵐っ!」
「了解!」
ライフルはチャージしつつ、時間を稼ぐために再びASブレードを構えて前に。
相手がこちらの狙いに気が付くかどうかは微妙だけど、結果は一緒だ。
いくらかの攻防の後、こちらが下がり……トパーズの力を解放。
無数の、おそらくは拳ほどの岩を秒間いくつというレベルで発射する。
それも、少し飛び上がりながら、だ。
斜め上からの、扇状に広がりながら迫る無数の岩塊。
砂嵐とはいいながら、あくまでJAMサイズとしては、である。
1つ1つは、大したことがなくてもベアリング球を食らうようなものだ。
いくらかは相手の炎に飲まれただろうけど、残りはヒット。
「武装へのダメージを確認! あれなら下手に撃てませんよ」
「今のうちに後退! 障壁となる岩塊はできるだけやるわっ!」
トパーズの力を、細かい物から壁を生み出せそうなものへ。
後退しつつ、道のあちこちに小屋ほどの岩塊をどんどんと生み出す。
時間稼ぎの狙い通り、相手は追ってくることはなかった。
「……ふー……」
「戦争、ですかね」
「わからないけど、それだけの戦力だった気がするわね」
それこそ、私や他との連携がなければ、トラックたちはいなかったことにされただろう。
切り札でもあるJAMがあれだけ動く、その事実は重い。
「さて……どうしようかしらね」
後退する部隊と合流し、今後に思いをはせる。




