JAD-092「遭遇戦」
『こちらは異常なし、そっちはどうだ』
「こっちも静かなものね」
今、私は町の外にいる。
隣町へと、物資を輸送するトラック群の護衛だ。
工場で生産した物などを積み込んだ、商売のための集団。
道中の安全のために雇われた護衛の1人が私なわけだ。
傭兵による護衛とは、いつの時代だって話である。
「今回の面子は、いい動きをしてますよね」
「ええ、そうね。連携もしっかりしてるし、武装もバランスがいいわ」
言いながらも、トラックたちに合わせて移動を続ける。
前文明のような舗装された道路は……意外とあちこちあったりする。
きれいにできるかは別にして、舗装自体は簡単な仕組みだったりするのだ。
(なんなら、JAMで石の力を引き出せば作業は早いしね)
「それにしても、この地域には同規模の町が5つほどあるとか……かなり復興してます」
「戦場に近いか遠いかで、かなり違うみたいだし。この辺りは遠かったんでしょう」
いまだに理由はわからないが、前文明の崩壊前後、激しい戦争が各地で発生した。
人類同士のものもあれば、正体不明の相手との戦いも。
共通しているのは、激戦地での石の力、その枯渇。
そして、自然の回復が遅いか、荒地のままといった悲しい光景。
「星の力を使いすぎたことによる弊害、たまに酒場で聞く話ですよね」
「本当だと思うわ。だって、そうでなければおかしいもの」
当たり前だが、無から有は生み出せない。
それに近いことをしてしまうのが、石を使って星の力を引き出す行為だ。
火を燃やし、水を溢れさせ、風を吹かせる。
現象だけでなく、物が実際に出てくるのだから驚きだ。
「だから、自然あふれる土地には結果として……ん?」
ざらりとした、何か引っかかる感覚。
耳を澄ますかのように、その感覚に集中すると……反応あり!
「トラックと各機へ。どうも正面にお客さんだわ。遠距離攻撃に備えて!」
『なんだと? こちらには何の反応も……いや、了解した』
「外れたら私が一杯奢るわ」
いいながら、少し機体を集団の前方に進めさせ……来た。
「集え黄玉の輝き! 壁よっ!」
石の、星の力は力だ。
どういう結果に導くかは、使う人の意思による。
口にして叫ぶのも、1つの手なのだ。
黄色いエネルギー弾が放たれ、それは道路に着弾し、いくつもの柱を生み出す。
それは、あたかも壁のようにトラックたちの前に出現し……遠くからの炎に染められた。
今回は防衛を考え、防壁を生み出したりできるトパーズをサブに、メインはダイヤだ。
『炎の槍!? あいつらっ!』
『持ってくつもりじゃない、しとめる気だ!』
「牽制する! トラックは射線からの退避を!」
相手からの攻撃が、炎、つまりは燃やすもの。
そうわかったことで、積み荷が目的ではないとわかる。
こちらをどうにかするのが、目的なのだと。
生み出した岩の柱を迂回するように進めば、見えてくる相手。
まだ遠いからはっきりしないけど、JAMがいるはずだ。
「人型以外に、車両型がいますよ!」
「ということは、遠距離、支援重視ね。とっかかりのつもりかしら」
目撃者がいないように、全部しとめる。
あるいは、目撃されても情報が少ない距離で……そんなところ。
同じく迂回してきた傭兵たちと一緒に、敵集団に向かう。
そうしてる間にも、石の力が高まるのを感じた。
「相手の射撃……来るっ!」
ダイヤモンドあたりの光線と違い、炎の槍であれば速度が違う。
回避させる時間は十分にあり、ほかの傭兵も同様だ。
ライフルを、石の力から実体弾を放つ形に切り替え。
見えてきた相手に、適当に打ち込んでいく。
「反応したやつは後回し! 動けてない奴を狙う!」
「了解! マーカー出します!」
モニターに、色違いのマーカーが示され、一目瞭然だ。
車両型のJAMのいくつかが、動きが悪い。
機動力を犠牲に、火力重視の装備に違いない。
明らかに、増設されたらしい何かのタンクに打ち込んでやると……ほら!
燃料か、弾薬かはわからないけど誘爆。
周囲を、先ほどとは違う炎が染め上げる。
相手の動揺が、空気越しに伝わってくるかのようだ。
『やるじゃねえか! 続けぇ!』
その隙を見逃さず、傭兵たちは相手に襲い掛かる。




