JAD-090「人は変わらない」
町に帰還した私たちを、リンダは自分のことのように喜んで出迎えてくれた。
実際、企業の私兵でもあるわけで、本当にうれしいのだろう。
拠点へと移動し、談話室のような場所でコーヒーをごちそうになる。
天然か、コーヒーのようなものかはわからないけど、味は悪くない。
「今回はずいぶんと助かったようだ。被害もほぼなく、弾薬や資材の消耗だけで済んだ」
「こっちは結構、水晶を使い込んだわ。下手に施設は壊せないから、石の力を多用したの」
そこまで言ったところで、リンダは大きくうなずいた。
わかってる、と言わんばかりだ。
コーヒーをあおるように飲み干し、ため息を漏らすリンダ。
「物資で済むなら安いものだ……後で計上してくれ。報酬と一緒に渡そう。レーテは対人はどうだ?」
「しばらくは休みたいのだけれど……できるかどうかでいえば、問題はないわ」
むしろ、本来はそっちが本職だ。
ミュータント相手では、儲からないこともあるからね。
撃破や鎮圧が目的になる対人のほうが、わかりやすい面もある。
歩兵相手には、JAMは単純に暴力装置という扱いになるけれど。
「そうか……まだ少し先の話だが、境界線……領土を取り合う話があってな」
「戦争ってこと? 人間ってのはいつの時代も、ね」
「耳の痛い話だ。途中でミュータントの乱入があるのも珍しくない」
疲れたように告げるリンダに、椅子がきしんだ音を立てて応える。
心底面倒そうだから、企業の私兵としても、軍人としても厄介なんだろう。
「レーテ、この状況で人同士が争っているんですか?」
「色々あるのよ。一応、開拓地以外は安定してるといえば安定してるから」
思い浮かべるのは、ここに来るまでに出会った人々。
定住した人もいれば、開拓にいそしむ人もいた。
その意味では、旧文明の施設を流用しているこの町は、雰囲気がかなり違う。
土地を取り返したというよりは、奪われまいとしているというべきか。
「話を戻すぞ? 大体はどちらも、生産されたJAMが戦力なんだが……」
「私たちみたいなのがたまにいるってことね」
そう、JAMには2種類大まかにある。
1つは、新規で作られた量産品というべきJAM。
人類が、宇宙からもたらされたそれを模倣し、作ったものを動力核としたもの。
もう1つは、宇宙からのそれをそのまま流用して動力核としたものだ。
ブリリヤントハートは後者だ。
その違いは、出力と汎用性。まあ、全部違うようなものかな?
「そうだ。石にもよるが、戦力比が1対10ではな……」
この比率がどうなのかは、私にもよくわからない。
相性とかもあるし、場合によってはもっとひどい場合もある。
例えば私なら、よっぽどでなければ空を飛びながら打ち込めば完勝だ。
「細かい部分は、依頼の時に考えるわ。そろそろ休んでも?」
「ああ、そうしてくれ。では、後日な」
愚痴を聞いてもいいのだけど、少し休みたいところ。
後処理に追われる軍人たちを横に見ながら、宿へと戻る。
補給とかは……後日でいいだろう。
駆け込むように入ってきた私たちを、宿の女将さんが笑顔で迎えてくれた。
「食事はいるかい?」
「ひとまずいいわ」
部屋の鍵をもらい、カタリナと2人で部屋に。
手荷物を置き……息を吐けば急に体が重く感じる。
「レーテ、シャワーぐらいは」
「ええ、そうね。一緒に入りましょうか」
「確かに、1人だと寝てしまいそうですよ」
誰が、とは言わずともわかる。
過去に、風邪をひかない丈夫な体だからと結構無理もした。
さすがに、水風呂に浸かりっぱなしは寒かったけどね。
「お願いしちゃおうかな」
「はい。お願いされました」
しばらくぶりの団欒のような時間が、過ぎていく。




