JAD-089「生き物と機械の違い」
昔から、人類は自然に学んできた。
技術も、元をたどれば生き物のあれこれだったり。
「こいつ……!」
施設から出てきた異形は、異常な速度で自身を変化させていた。
最初は、でっぷりとしたよくわからない姿だった。
今は、大きく手足を伸ばした巨人のようだ。
「ゲストよりウルフ各機へ。よくわからないけど、私を狙ってる!」
『悪いが、手当は出ない。あとで何杯でも飲んでいいぞ』
「上等っ! 足の一つや二つ、止めて見せるわっ!」
こういう時、昔の軍人なら今のような冗談の1つも出てこないだろう。
私兵であり、軍人でもあり、今の世の中に生きる人間だからこそ、だ。
ライフルをエネルギー弾に切り替え、構える。
青い石2つからの力が、一気に機体全身に満ちる。
「生き物なら、寒くなればっ!」
「周辺気温の低下を確認」
空気中の水分が凍結する音を立てながら、青い光が伸びる。
それは異形に直撃し……何かはがれた!?
氷だけが空中に生まれ、異形はその後ろから何事もなかったように飛び出してきた。
大きさはブリリヤントハートよりも大きい!
「障壁でもっっとっ! 張ったの!?」
「いえ、そんな気配はっ!」
当たりたくない色をした腕が伸び、迫る。
回避した先で、木々がなぎ倒され……一部がかじり取られたようになった。
「まだ食べ足りないってことか……ゲストより各機へ。こいつ、なんでも食うわ!」
言いながら、さらに撃ち込んでいく。
今回も凍り付く代わりに、相手は動きを止めない。
一体どういう……。
「相手の反応が増えてる!? いえ、これはっ!」
「そういうことっ!」
回避しつつ、氷の壁を打ち砕けば、そこには氷以外の何か。
どういう理屈だかわからないけど、相手は着弾の直前に自分の表皮をはがしている。
凍り付いたのは、その表皮だけというわけだ。
「施設でのやり取りで自分にとってまずいことだって学んだと?」
「ですね。レーテ、これ……生き物じゃないんじゃないですか?」
AIにあるまじき、推論に推論を重ねたかのような言葉。
でも、彼女のことだからただの推論ではないだろう。
長い期間を存在し続けたこと、自身を変化させていること。
短時間に、性質を吸収・反映させていること……。
「極小機械群の疑似生命体!」
「私とは別のアプローチの仕組みですね!」
カタリナが、優秀な部品やらなんやらで1人の人間以上を作り出そうとした形。
その反対に、1つ1つの性能は微々たるものでも群体となることで1つの個を生み出そうとした形。
問題は、それがこの星の技術なのか、未知なのか、だ。
「種がわかれば……! ゲストより支援要請! 相手の目が多い! 気を散らして!」
『すぐに実行する。当たるなよ!』
宣言通り、銃声が鳴り響く。
それは森の中を駆け回る私たちに、平等に襲い掛かる……はずだった。
すばやく異形を射線に挟み込み、盾とする。
「持ってきなさいっ!」
撃つものを連射、貫通重視に変更。
効果範囲は狭いけど、それは数と狙いでカバーしたらいい。
頭から手足、胴体とひたすらに連射。
凍り付いたところに、さらに撃ち込んで砕いていく。
「相手の質量低下を確認!」
「このまま……押し切る!」
逃げようとする相手の先に、回り込んでさらに凍結。
分身するかのように逃げていくけど、それはもう悪手だ。
銃で撃たれ、凍り付きはがれ、だんだんと減る相手の質量。
機械群といっても、もう剥がれ落ちた方は機能を停止しているようだ。
「見えたっ!」
ついに、分厚い巨体の中にあったはずの反応、光る石を見つける。
その隙間を埋めようと、周囲の色々を吸収するべく広がる異形。
『でかいのいくぞ!』
モニターに映る、ロケット砲。
巻き込まれないよう、とっさに間合いを取って離れる。
瞬間、肉片のように、機械群が飛び散り……隙だらけだ。
「もう寝る時間……よっ!」
ブースターを全開にし、ASブレードを構えさせて突撃。
もとに戻ろうとする機械群の隙間に、刃を突き出し……石を貫く。
あっさりと、砕ける宝石。
「エネルギー反応低下を確認。機械群、自壊していきます……」
「燃費悪すぎでしょう……」
あるいは、寿命が来ていたのかもしれない。
機械も、永遠と稼働できるわけではないのだから。
『終わったか?』
「一応ね。じゃ、探索して儲け話を拾いましょうか」
補給と状況確認を済ませ、それから私たちは、探索を再開。
旧打ち上げ施設と、その工場跡を掌握する。
要塞跡と記録されていたのは、きっとあの戦いがあったからだろう。
そして私は、傭兵としてしばらく滞在する道を選んだのだった。




