JAD-008「静かな湖畔のそばで」
何かを乗り越えるような衝撃で、目が覚めた。
「段差でもあった?」
「ええ、少し。おはようございます。時刻は明け方5時ごろです」
少しぼんやりした頭で外を見るも、まだ暗い。
ちなみに照明は最小限だ。
各種センサーを使い、暗がりでも十分カタリナは感知できるのだから。
地球では実現不可能な、高速度での完全自動運転。
そのおかげで、行きの3分の2はもう来ているようだ。
ちなみに、水素エンジンと、石英を中心とした結晶によるエンジン併用形式である。
(いまだに石英側は、謎エンジンだけど……まあいいか)
一説によると、星の力の流れの向きを引きこんでいるとか聞いたことがある。
証明しにくいので、なかなか考えると怪しいのだけど。
「カタリナ、右前方の岩山、多分石英か何かの鉱床があるわ」
「了解。一度寄ってみますね。レーテの言う、プレイヤーが持っていた能力、ですよね? すごいです」
「何かあるってわかる程度よ。研磨した奴とかはわからないし」
まるでゲーム画面のレーダーにポイントが映るかのように、自然の鉱床は位置がわかる。
と言っても、ほとんど表に出て来てるような浅い部分だけだけど。
しっかり採掘していかないと深い方はわからない。
それでも、こうして道中で燃料代わりに石英、水晶の類を見つけるには便利だ。
岩山に横づけし、カタリナが採掘道具を持って出ていくのを見守る。
「私が掘ってもいいのだけどねえ」
『こういう時は、任せてくださいよ』
時々、カタリナは自分が人外だと、アピールする。
そんなことしなくても、別に私は気にしないのだが。
それに、どちらかといえば、彼女はもう種族を超えて、私の大事な……うん。
そういうことをするつもりはないけれど、彼女が求めるならって…。
やはり、何もしてないとろくなことを考えない。
『レーテ、厄介なのがいるかもしれませんよ。見てください』
「どれどれ……齧られてる? 水晶が?」
送られてきたカメラ映像、それは明らかに齧り取られた水晶の姿だった。
かけた、というには生々しい。
ミュータントが齧ったのか、そういう道具で削ったのか。
(人間であれば、もっとわかりやすくとっていくはず……)
カタリナに、必要分の採取だけをさせてすぐに戻ってもらう。
今度は私も起きたままで、出発。
まだうっすらとした明るさしかない中を、トラックがそこそこの速度で進む。
「起動させておいた方が? 変に刺激してもあれかしらね」
「かもですね。ミュータントの生態は、わからないことが多すぎます」
研究施設がどこにでもあるわけでもなく、何より研究しようなんて人も少ない。
皆、日々を生き抜いて領域を維持していくのが大変なのだ。
警戒しながら時間が過ぎていき、周囲に平地が少なくなっていく。
正面には、自然豊かな山々。
人が住むこともできるだろう自然。
しかし、そこに住めるのは人間だけではないのが、人がいない理由だ。
「暮らすだけなら、こっちのほうが楽よね」
「畑をやるにも、十分そうですよねえ」
見える限りは、むしろ自然がいっぱいの良い場所だ。
崩壊前の景色に近いと言えよう。
もっとも、脅威が見えてないだけということのようだけど。
誰も、好き好んで沸騰したお湯で泳ごうとはしないだろう。
「音響センサーにも多数感あり。生き物はたくさんいますね」
「じゃあまり暴れるのも良くないわね……トラックは限界か。出ましょ」
トラックを良さそうな場所に停車、そして隠す。
一応、他に誰かが来てもいいようにとしているのだ。
獣やミュータントが、見知らぬ何かを攻撃してくるかもという点もある。
「火事になってもいけないから、動力はアクアマリンで行くわ」
「貴石変換開始……完了、どうぞ」
動力を、相手の温度を下げるビームみたいなのを撃てるものに変更し、JAMを起動。
よく見ると、ロボの表面には青白いラインが走ってるから他の人もわかるはず。
チェックがてら、周囲を観察するけど今のところは、平和。
「水源になる場所はこっちね……管理してる人がいるのかしら? 道は細いけどあるわね」
獣道とは程遠い、しっかりした道。
ここを通るなら、JAMか二輪車かってとこだろうか。
武装チェックの後、歩きだす。
途中から、わずかにブースターを吹かせて浮き気味に移動だ。
このブースターも、石英、水晶を消耗していくのであまり使うのはよろしくない。
(今のところ、ズシンズシンと歩かない方が良さそう、だからなのよね)
朝日と、それによる朝もやが森と山を包み始める。
何かがいる前提で、進む私たち。
「レーテ、湖の様です」
「湖? それが水源?」
さらに吹かせてわずかに上空へ。
そうして見えてきたのは、山のふもと、ちょうど谷間の雨とかが集中しそうな場所。
なるほど、湖だ。
ここだけが水源ってことはないだろうけど、一部なのは間違いない。
「ものすごいでかい、ワニみたいなのがいるとかないわよね?」
「さあ……」
記憶も薄れた、くだらないB級映画の記憶がよぎった言葉に、カタリナもどこか不安げだ。
実際、トラックぐらい大きな熊がいたことがあるから、否定できないのだ。
「ゆっくりね、ゆっくり」
どんな変異をした獣がいるかわからない、そのことが見えない恐怖として襲い掛かってくるのだった。