JAD-088「技術の行きつく先」
施設から一時離脱を選択した私たち。
無事に地上の灯りが見えた時には、あちこちからほっと声が漏れるのが聞こえた。
「今回は助かった」
「私も面白い経験ができたわ。こんな施設、初めてだし」
外に出て、改めて岩肌を見る。
確かに、山にしては妙に縦に長い。
(案外、使われないように封印処置した結果なのかも?)
休養場所に移動しつつ、考えるのはここで起きただろうこと。
あのミュータントと、かつての人類がなぜ争ったのか。
この違和感は、前に海のことを考えた時と同じだ。
この星にミュータントが現れるようになったのは、文明崩壊前後。
一部は、下地となる生き物はすでに生み出されていたりしたんだろうけど……。
「……そうか、進化にしても、どうやって個体数を維持してるのかって話よね」
「あの変な奴のことですか? それを言ったらドラゴンだって」
ああ、その通り。まったくもってその通りだ。
普段気にしてないレベルの、オオカミタイプだってそうだ。
まだ現地生物に近いタイプはいいとして、巨体や、独特の生態だとどうなのか。
「……石、か」
「そうですね。私だってそうです」
ここでも、石、宝石の力が絡んでくる。
となると、ミュータント自体、これは宇宙からの……。
「おう、飯だぜ」
「? ああ、ありがとう。ぼーっとしてたわ」
ありがたく、プレートに乗せられた思ったより豪勢な食事と飲み物を受け取る。
ほかにも配ってるらしい背中を見送り、食べ始める。
現場らしく、かなり塩味が強いやつだ。
「そう、こうやって食事も必要よね」
「今回の相手は、こう……維持することを考えてる感じではないですね。使い捨てのような」
それは私も感じたことだけど、そんなことがありえるのだろうか?
だとしたら、設計した相手はずいぶんと……あっ。
「しまった。あいつの中から、石を取り出してない」
「また潜るのでしょう? であれば」
そこで言葉が止まる。
私も、同じ方向を向いた。
出てきたばかりの、施設の方向を。
「感じた?」
「はい、石は無事ですね」
私は勘違いをしていたのだ。
走ってきた奴らはともかく、あの親玉が同じ生き物だと。
冷静に考えれば、短くても数百年閉じ込められていた生物が、ああも動けるか?
なかなか難しいどころではない。
宇宙からの来訪者なのか、この星で育ったのかはわからないけれど……。
「アイツが出てくる! 私は迎撃準備をするわ!」
外に出て叫び、すぐにブリリヤントハートへ。
軍人たちも戸惑いがあるようだけど、確認に動き出したようだ。
『ウルフリーダーよりゲストへ。どういうことだ?』
「私にもわかんないけど、アイツは一時的にダウンしてただけっぽいの」
答えたところで、揺れ。
力の揺れであり、大地の揺れではない。
『こっちでもカンの良い奴が感じた。石、か』
「たぶんね。餌を求めて、外へと出てくるわよ」
おそらく、最初はマスドライバーとその集積された物資が狙い。
動力としても相当なものだっただろうし、まぶしく見えただろう。
今は、稼働せず封印されてるから力が感じられないけどね。
「石をサファイアとアクアマリンで。森の中で火はね」
「了解。歩兵ごと冷却しないように気を付けてください」
うなずき、機体にライフルを構えさせる。
徐々に軍人たちも迎撃態勢を整え……。
「来た……!」
轟音を立て、施設だった場所の屋根が一部吹き飛ぶ。
あとで修理とか大変だなあと感じながら見つめる先で、異形の手。
『少しスリムになったか? あの姿、近くの死体も取り込んだのか?』
「餌がなかったんでしょうね。外に誘導しましょう。施設が壊れちゃう」
言いながら、適当に撃ちこみつつ注意を向ける。
乗り出してきた相手の体は、嫌な感じだ。
生き物というより、何かの集合体のような……。
「レーテ、何か周囲に……あの猿ですよ!」
「どういうこと? って、待ちなさい!」
叫ぶが、当然伝わらない。
森から出てきた猿たちは、手に枝や石なんかを持っていた。
それ自体は驚くことだけど、そのまま彼らは異形に襲い掛かったのだ。
『おいおい……』
「私たちより、アイツが脅威だって本能でわかったのかしら……」
下手に手を出せず、見守るしかない中。
猿たちは異形と争い、残念ながら食われてしまった。
ギロリと、頭らしきものがこちらを向いた気がした。
「なるほど、覚えてるのね……私を」
自分を氷漬けにした相手を、認識したようだ。
ついに、足まで出てきた異形。
少しばかり、先ほどと形が変わっている。
施設内で見た姿から、猿に近い……そういうこと。
「少し引っ張るっ!」
『わかった。気をつけろよ!』
返事代わりに発砲。
何とも言えない咆哮を聞きながら、施設から異形を引きはがしにかかるのだった。




