JAD-087「空へ」
「しっかし、こいつは……なんだ?」
「見覚えはないわね……」
「どう見ても、ミュータントですな」
沈黙した異形を遠巻きに観察する。
ホールの一部を堂々と占拠する巨体。
今は体を貫かれ、絶命している。
石の力も流れが消えたし、私の感覚でもこいつは死んでいる。
だからといって、どんな相手なのかがわかるわけでもない。
「さっきの連中の親玉っぽいわね。ほら、腕とか顔は似てるわ」
「確かに。こいつのために餌を集めていた……? にしては、今さら、か?」
そう、仮にそういう関係のミュータントだったとして、この場所に残っている理由がない。
外と行き来ができるなら、外に出てるだろうし、そうでなければとっくに死んでいるはず。
なにせ、ここには餌になるものが限られていたはずなのだから。
「レーテ、これを」
「穴、ね。もう少し小さければコイツがくぐれそうな感じね……出てきてから太ったのかしら?」
ゆっくりと穴の淵からのぞき込むと、ずいぶんと下まで穴が開いている。
試しに足元のがれきを1つ、放り込む。
「……これ、一番下まで行ってる?」
「ここから降りるのは、なしだな」
横に来たウルフリーダーにうなずき返す。
JAMでならありかもしれないが、生身ではね。
「部隊長、先に進めそうです」
「よーし、当初の予定通り、司令部を探すぞ」
「案内図だと、次の階にあるらしいです」
上からも下からもいきなりはたどり着けない、ある意味では一番強固な場所、かな?
動かない異形を遠回りで迂回し、ホールの奥へ。
待ち構えるようにあるシャッターを、やはりこじ開ける。
奥には、同じように階段があった。
ゆっくり降りていく間に、呼吸を整える。
「調子が悪いなら、休息を」
「それは大丈夫。さっき、石の力を引き出しすぎたわね」
晶石銃は、もともとJAMで使うことも不可能ではない構造の武器だ。
使い手により、その威力や弾の種類も変わる。
巨体を凍り付かせ、貫くことは私でもなかなかのことだったということだ。
「良い物がないと、赤字ですよ……」
「たまにはそういうこともあるわ」
「報酬は戻ったら交渉してみてくれ」
困ったような声に笑みを返して、銃を構えなおす。
そろそろ3階、何かがいるかもしれない。
警戒しつつ降り立った先は、荒れているけどきれいな方。
壁にしみのようなものはあるけど、それぐらいだ。
「あいつらはここには来ていないのかしら……」
「らしいな。よし、手分けして探そう」
「その前に、ひとまずあそこはみんなで探さない?」
私がそう言って指さすのは、明らかに扉の違う部屋。
案内図のデータ的にも、一番らしい場所だ。
「そうだな……そうしよう」
周囲を警戒しつつ、扉の前に。
驚いたことに……まだ電源がある。
「休眠モードですね。だからまだ生き残っていたのかと」
「ここだけ独立した電源ってことね? ってことは……」
扉脇のパネルを慣れた手つきで軍人が操作していく。
ほどなくして、電子音が大きく響く。
「……大当たりだな」
開いた扉の向こう側は、たくさんの机と、多くのモニター。
そして、いくつかの人骨だった。
「ここで閉じこもったのか……逃げられなかったのか」
「あるいは両方か、だな」
室内に残るものを、手分けして探っていく。
どんな素材なのかいまいちわからないけど、長い年月を経ても、崩れていない紙。
たぶん、ただの植物紙ではないと思うけど、そこに殴り書きされていたのは、作戦。
「見て。さっきの巨体はやっぱりミュータントみたい。どうにかして、1階の倉庫に封印するって」
「ソイツが何かの拍子に出てきて、ああなったわけか……」
その後も色々と資料を探り、この場所の正体を確かめる。
結果、わかったことは……。
「石の力を利用して、宇宙へと物資を打ち上げる施設、それがここの本来の姿、か」
外で山に埋もれてるように見えたのは、打ち上げ用の簡易マスドライバーだったわけだ。
本来なら、巨大な施設が必要だけど、石の力を使えば……うん、不可能じゃなさそうだ。
「一度出て、外から施設を確認しない?」
「そうするとしよう。休息もかねて、な」
回収できるものは回収し、扉を閉めて地上へと向かう。
幸いにも、巨体が動き出すことも、子供がうじゃうじゃとということもないようだった。




