JAD-086「動き出した時間」
「正面2、沈黙。奥の通路からまだ反応あり」
「りょーかい! 貫通モードに切り替え……ファイア!」
上の階より、少し狭い通路。
階段からの曲がり角に、私たちは陣取っている。
幸い、5階からか、正面か、しか道がない場所だ。
後ろへの警戒は残し、残りは全部掃除にあてられる。
「耳が馬鹿になりそうだ」
「奥に入り込んでからより、マシね!」
「なんだあいつら……見たことねえ」
長物を手にした軍人と私が撃ち続ける間に、どんどんと相手の死体は増えていく。
前かがみに走る、獣というよりは異形の人。
ただ、どいつもこいつも痩せこけている。
実体弾、エネルギー弾どちらも当たった衝撃ですぐにコケる始末だ。
「ずっと閉じ込められていたというのも考えにくいけど……」
「増援の反応なし。今いる分でひとまず終わりみたいですよ」
カタリナの言葉通り、しばらくして動くものはいなくなった。
できればやりたくはないけど、軍人と一緒に使い捨ての照明を投げ込む。
覚悟していてもなお、来るものがあるなかなかの光景が広がる。
「ミンチよりひでえや」
「砂か砂利をまいても良ければ、これで出すけど」
「頼めるか? 検査するにもこれではな……」
晶石銃の石をサファイアから茶色いトパーズへと切り替え。
JAMのそれと比べれば低出力ながら、ホースで水をまくかのように砂と砂利が放たれる。
しばらく待てば、固まってしまうだろう。
一通り異形の死体に振りかけたところで、状況確認。
「予定より弾丸を消費してるな。とはいえ、増援が来ないならしばらくは大丈夫か」
「だと思いたいわね。後先考えるやつが中にいるとは、考えたくないもの」
警戒は解かず、少しずつ進む。
不思議と、風が後ろから来ている。
「……どこかに風穴が?」
「何か生き残っていたら、においをかいでくるか?」
「そりゃあねーでしょう。こいつらの血の匂いがぷんぷんでさあ」
「私も鼻が馬鹿になりそうだわ……」
カタリナにマッピングは任せ、進む。
途中の部屋は扉がなく、中にもまともなものはない。
むしろ、上の方が残ってるぐらいだ。
あのシャッターで遮られて、上には出られなかった?
だとしたら、この風の流れはいつ……。
「案内板によると、この先はホールになってますね」
「やばい奴がいたら、後退も考える」
「それが賢明ね。一応サファイアに戻して、氷漬けを試すわ」
もし、何かいるのならこの会話自体も聞いている可能性がある。
そうしてるうちに、通路の先に壊れた扉が見えてきて……。
「何かいるわね。濃い石の気配」
「これは……大きいですよ」
「総員戦闘準備。爆発物は控えめにな」
少し考え、やることを知らせてから……照明用のスティックに力を目いっぱいこめ、投げ込んだ。
『ギィィイイイイイイイ!?』
「ヒット!」
何かいるなら、先手を打つ。
そのために、発光時間は短くなるが明るさをとにかく最大にしたのだ。
目を焼かれた悲鳴を聞きつつ、扉に飛びつく。
見えた巨体に、銃口を向け……。
「凍てつけっ!」
青い青い、光線を放つ。
それは見事に直撃し、全容のわからない巨体を確かに凍り付かせる。
すぐにマガジンが通常ならある場所を開き、水晶を交換。
力を使い果たした水晶は、砂となってこぼれ出る。
「ボスを凍結完了!」
「よーし、ほかの奴がいたら先にそっちを掃除だ!」
ホールに乗り込み、各自銃口を思い思いに向け……放つことはなかった。
「あれ以外、いませんね」
「さっきので相手の駒はつぶしたのかしら?」
拍子抜けではあるが、危険はない方が良い。
「やれるか?」
「もちろん」
体の中心までは凍り付いていないのか、氷の中で巨体が動こうとしているのがわかる。
「さよなら、名前も知らないミュータントさん」
感じるままに、石の力が集まってるか所に銃口を向ける。
今度は大きなつららとなり、力が放たれる。
何とも言えない悲鳴をあげながら、巨体は砕けた氷と共に倒れ伏した。
「これで打ち止めだといいわね」
「今のところ反応はないですけど……」
邪魔者がいなくなったなら、あとは探索だ。
果たして、何が出てくるか……。




