JAD-085「暗がりの異形」
「動体検知による迎撃が4回……多いんだか少ないんだか」
翌朝、まだ空の遠くがぎりぎり明るいころに私は起きた。
音が少ないタイプといっても、自動で放たれた弾丸の音が気になったのだ。
伸びをしながら、見張りをしていた軍人のもとへ行き、状況を聞いたところだ。
「休息は十分とれたのか?」
「まあね。このぐらいで十分よ」
私は人間だ。
食事も睡眠も必要だ。
ただ……少しばかり一般人とは違うけれど。
少しばかりの感傷を胸に、周囲を見渡す。
雑談に使ったちょっとの時間で、どんどんと明るくなる周囲。
「何かいいものが見つかるといいけれど……」
「期待してるぜ?」
自分への言い聞かせの意味もあるんだろう。
軽口に微笑み返し、自分のテントへ。
カタリナも起きてきて、準備を終えていた。
「おはようございます。武装の確認も大丈夫ですよ」
「今日はどのぐらい撃つのかしら……まあ、生きて帰るだけだけど」
軍人たちも起きだし、突入準備がすぐに行われた。
重装備、長期戦を視野に。
そのための陣地作成であり、人員の割り振りだ。
場合によっては、戻ってきて交代も考えているようだ。
「では、行こう」
合図にうなずき、再び5階らしい非常口から建物内部へ。
昨日と同じく、朽ち始めている内部が私たちを出迎え……。
「ウルフリーダー。何か違うわ。すぐ発砲できるようにしておいた方が良いかも」
「ふむ? 熟練者のカンは信じる方が生き延びれるからな」
私も晶石銃に動力となる宝石を入れる。
今回は、いつぞやカットした大粒のサファイアだ。
やや暗がりの中、深い青が確かに光る。
「獣以外だと、スライムが厄介なのよね」
「ああ、確かに。隙間という隙間に入り込むからな」
2人以上で組み、少しずつ進む。
向かう先は、施設の司令部だ。
時折、灯りとしてライトスティックを投げる。
石の力を使っており、薬品を使ったものより長持ちだ。
浮かび上がる光景は、なかなか悲しいものだ。
どこもかしこも、傷んでいてなんとも言えない。
「持ち出せるものはなさそうか?」
「まだこれだけじゃなんとも……ん、ロッカールームね」
「レーテ、いくつかは電源が生きています」
背後からのカタリナの声に、瞬き。
これだけの状況で、まだ生きている電源がある?
(さすがというべきか、難しいところね)
周囲を警戒してもらいつつ、数名で室内へ。
幸い、真上に巨大化した何かが!なんてこともない。
「単純なテンキーのパスだな……おい」
「りょーかい。このぐらいなら……よし、開いたぜ」
念のため、中から何か出てきてもいいように正面には立たないで開ける。
中からは……長期保存用のパッケージがいくつも出てきた。
「中身は……お? こりゃあ、金か?」
「純度は高そうね。どうしてここにしまい込んであるかは謎だけど」
重量を感じる金色のインゴット。
それが10本近く入っていた。
そして、古めかしいタブレットも。
「カタリナ、充電お願い」
「はい。1個水晶を使いますね」
室内を物色しつつ、カタリナの充電を待つ。
今の彼女には、こういった真似事もできるのだ。
自身を動かすエネルギーを少し流用して、という感じ。
「動かしますか?」
「こういう時、どっちにしても問題って起きるよな」
「私もそう思うわ。だったら、動かした方が話が早いかなって」
その場にいる面々がうなずいたところで、起動の指示。
電源が入ったタブレットは……静かに起動した。
最後には、動画を撮影していたようだ。
「レーテ、どうしましょう。私、再生したくないんですけど」
「そうも言ってられないでしょう。ろくなもんじゃないとは思うけど」
人間らしく嫌そうな顔をするカタリナの手からタブレットを受け取る。
恐る恐る再生ボタンを押して……少しばかり後悔した。
「こいつは……ミュータントか?」
「たぶん、ね」
映っていたのはこの建物内部の出来事だ。
陣形を組む兵士たち、それらが発砲する先でうごめく影。
四つ足の獣だが、明らかに普通ではない。
爪が光ったり、しっぽが丸ごと輝いている。
そんな奴らが、この場所にいた人間を襲い……明らかにかじっている。
「攻め込んできた、にしては妙だな。どこかを目指してる動きだ」
「この要塞跡が、普通じゃないってことかしらね」
記録映像のつもりだったのか、特にインタビューワーは映らないまま終わる。
戦況は一進一退、だけどこれがこんな場所にあったということは……。
「少なくとも、無事解決万々歳、ではなさそうね」
「原因が残ってないといいんだがなあ……」
そういうネタこそ、うまく利用すればいい、そう思ってしまうのも性だろうか?
タブレットの電源を落とし、別の場所に向かうことにする。
廊下に出て、全員で4階相当の場所へ向かうと、分厚いシャッター。
「爆破だとうるさいわよね? 少し待ってて」
言いながらスターエンゲージソードを手に、シャッターへと刃を突き付ける。
じわじわと溶けていくシャッター。
大きく枠を切り取ったところで、みんなでゆっくりと手前に降ろす。
「おいおい、なんだこりゃ」
「ひっかいた跡、ね」
シャッターの向こう側には、爪でひっかいたような跡が無数に残っていた。
そして、何かの骨も。
階段が無事な姿で残っているのを確認し、降りていく。
外の灯りが差し込まない空間に、おのずと緊張が高まった。
「エネミー4!」
「撃てっ!」
4階にたどり着き、すぐの角を曲がった先は廊下、通路だった。
そんな廊下にうろついていた影。
明らかに獣とは思えない相手が、灯りに照らされるなり走ってきた。
すぐに晶石銃を撃ちこみ、しとめる。
「いよいよってことね。弾切れは心配しないでいいわ。片っ端からやる!」
「よし、掃除開始だ」
小型のJAMが欲しいなあと思う時間が、始まった。




