JAD-084「不穏」
「明らかに劣化してるわね」
「ああ。お前さんは大丈夫だろうが、俺たちは踏み抜かないように気をつけんとな」
確保された突入口、そこから入ってすぐの状況はあまりよくないものだった。
穴はいくつも開いており、土が入り込んでいる。
当然、それに伴って植物もだ。
壁や床の汚れも、昨日今日で出来た様子はない。
「この辺は金の匂いがしねえなあ……」
「詳細は省くけど、こういう場所に潜ったことはあるわ。生きてれば、整備が多少はされてるはず」
「同意だ。こりゃあ外れか?」
まだ判断するのは早いとは思うけど、そういう目が出てきそうなのも確かだ。
ライトで照らす限りでは、特に動くものはいない。
高さは大体大人3人分、重機はぎりぎりか。
非常用照明がいくつもあるが、どれも死んでいる。
部屋もあるようだけど、正面の扉が朽ち果てている。
「レーテ、見てください」
「ん? 案内板……珍しいわね。電子表示じゃない奴だわ。残ってる色合いからして、非常用かしら」
かつての文明は、かなりのものだ。
大したことのない表示ですら、電子的な表示を使うぐらいには、ね。
カタリナの指さす先には、壁に備え付けられた板。
周囲には保護用のパネルがはまっていた形跡がある。
文字はかつての共通語で書かれている。
私が入ってきたのは、非常用脱出口となるみたいだ。
「表記が確かなら、ここは地上5階みたいよ?」
「らしいなってことは、かなり埋もれてるな」
「部隊長、こちらを」
反対側を見ていた人員からの声に、私たちも向かう。
そこにあったのは、何かの生き物だったもの。
すでに朽ち果て、骨だけになっている。
「入り込んだ獣の骨か?」
「宝石があるわね。ってことは、力を使えたやつかしら」
しゃがみ、鉄パイプでかき分けたところに光るもの。
ちなみにだが、潜る前に鉄パイプを1本、資材からいただいておいたのだ。
こういう探索のお約束である。
手にしたのは、ライトに様々な光を返す……オパール。
(通常だと、こうなるのはかなり時間が必要……化石レベルの)
周囲にわかるように見せれば、緊張が満ちてくるのがわかる。
ただの獣でも厄介だけど、力ある獣やミュータントの類はもっと厄介だからだ。
「各員、警戒しつつ後退。武器を増やしていくとしよう」
「それが賢明ね」
軽めということで装備はそこそこ。
すぐにその判断ができるあたり、有能だと思う。
私もカタリナとともに、後方や上を気にしつつ、後退。
幸いにも、何かが落ちてくるとかはなかった。
「夜明けとともに突入することにする」
「ええ、それでいいわ」
そうして別れた彼らは忙しそうに動き出した。
トラップの設置等、やることは多いのだろう。
私たちもその間の見回りを買って出ることにする。
「何か残ってますかね……」
「わからないわね。重要な区画だけ保護してるという可能性もあるし……力は感じるから、石はあるはず」
一見すると朽ち、埋もれている要塞跡。
その方面、正確には地下の方向に確かに感じる。
(なんだろう。集中したらもう少し……)
戦いと旅により、機体は少しずつ変化している。
私自身も、なんだか変化しているような実感がある。
今も、感じる力のことがもう少しわかりそうで……。
「左正面、何かいます」
「っ!……何、あれ……」
二本足で立つ……何か。
木につかまってるから、つかまり立ちというのが正しいか。
「スキャンした感じだと、猿の類ですね」
「危険ね」
牙と爪のある獣たちも危険だが、猿の類は本当に危ない。
奴らは、獣の力と……人のように道具を使う場合もあるのだから。
「突入時、こっちにも戦力を残すように言っておかないと」
「変な病気がないといいですね」
結局、それからは獣の襲撃などはなく夜が過ぎる。
順に警戒を続けながら、夜明けがやってくるのだった。




