JAD-080「人工物のある町」
薄暗い空間に、光が踊る。
寝かせた状態のブリリヤントハートのコックピット。
その中で、私が作業をしているからだ。
「真上にモニターがあるの、便利よね……戦闘中は意味がないけど」
今は一人、だ。
カタリナには食事を取ってきてもらっている。
機械群の間引きから帰還後、精算は後ほどということでひとまず宿へ。
機体を駐車場部分にトラックごと止め……というわけだ。
「やっぱり、こういうことか……」
「何かわかったんですか?」
「おかえり。まあ、わかったというのかなんというか」
コックピットに滑り込むように入ってくるカタリナ。
センサーは動いてるから、来たのはわかっている。
水筒から注がれるのは、暖かいお茶。
しみわたる暖かさが、落ち着きを少し取り戻してくれる。
「これ、見て頂戴」
「機械群の拡大画像? 気になる部分でも……これは……」
「はっきり確認してないからなんとも、だけど。似てると思わない?」
壊れた機械群の画像、そこに写ってるのをよく見ていくと、不思議なことがある。
もともとここにあったであろう人間の文明によく似た技術と、そうでないものが混ざっているのだ。
言い換えると、仕組みのわかる部分と、よくわからない部分がある。
「確かに……ああ、だから修理して流用できてるんですかね? それと、よくわからないけど動く部分も」
「動いて使えるのなら、出所は関係ないものね。問題は、どうして混ざってるかよ」
すでに、これまでの情報からこの星がなんらかの攻撃、侵略めいた行為にさらされていたことがわかっている。
もしかしたら、送り込んだ当人たちはとっくにほろんでいるかもしれないが。
(宇宙をさまようって、そういう次元の話だものね)
私自身、宇宙には行ったことはないが、知識としては知っている。
その広さ、無限の可能性に満ちた世界、そして、冷たい刃が無数にある場所。
明確にこの星を目指したなら、もっといい方法がある。
そうでないということは、当たれば幸運、とばかりにたくさん試行されたということだ。
「現地で資源を確保、改修を重ねた……」
「そういうことね。まあ、これはちょっと言ってもしょうがないか……」
おそらく、危険性を伝えたところで意味がない。
どうしろと?となってしまうだろうからだ。
それに、実際に何か起こるかもわからない。
「気にはするけど、といったところかしらね」
「そうですね。うまく解析できれば、流用範囲も広がると思いますが」
今の人類の技術らも、決して何もできないわけじゃない。
多少時間はかかるかもしれないけど、確かに……うん。
「その辺も含めて、色々仕事してみましょう」
「ええ!」
そうと決まれば作業は切り上げ、散策に向かうことに。
先日までと違い、自然より人工物を感じる町というのが少し珍しいのだ。
まだ夕暮れ前の町は、にぎわっている。
真新しい建物、古いけれど丈夫そうなビル。
時代が混在する町並みは、とても不思議だ。
「この部分は居住区……ですかね? 畑がありません」
「たぶんね。昔の区画をそのまま保全してるんでしょう。暮らしてるってことは、畑は別にあるはず」
そんなことを言いながら、進むことしばらく。
ぽっかりと、半分地下に埋まったトンネルを見つける。
手は無理、指がつっこめそうな網目のそれに、思わず近づく。
「何かしら、ここ」
「建物ではなさそ……きゃっ!」
「ちっ!」
何かが中から飛び出そうとして金網にぶつかる。
ライフル……は難しいのでハンドガンを構え……息を吐く。
「ネズミ、よね?」
「ネ、ネズミですか? これがっ!?」
まあ、予想より結構大きいのは確かだけど、このぐらいのはいなかったわけじゃない。
網目越しに撃つのもなあと思っていると、網にぶつかり続けるネズミの後ろに影。
「あっ……」
「駆除……の機械?」
静かな動きで、人間の子供ほどの機械がネズミをとらえ、どこかに運んで行った。
「あんなのもいて、あんなのもあるのね……うん、面白いわ」
「うう、寝るときは気をつけましょうね、レーテ」
なぜかおびえ始めたカタリナを引き連れて、散策を続ける。




